血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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廃墟屋敷

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「血を吸うかぐや姫」

◆序

 冬の冷たい空の下、その人は言った。
「もし、あなたを苦しめる人がいたら、私が絶対に許さない」

その口調はなぜか悲しく聞こえた。

「私があなたをずっと守ってあげる」
 冷たい風と髪をかき分けるようにその人は言葉を続けた。

「この世界を敵に回しても・・」
 吹き荒ぶ風の中、その先の言葉が風に途切れた。

 けれど、僕はその言葉の先をずっと憶えている。

◆廃墟屋敷

 二階の僕の部屋の窓からは、大きな山を背にした大学の時計台が見える。
 山は六甲山系の一つである十文字山で、
 大学は僕の滑り止めの大学だ。

 十文字山の麓には大きな竹林があり、その道筋には鬱蒼とした茂みに囲まれた屋敷がある。それは朽廃した廃墟で、僕が小学生だった頃、みんなからお化け屋敷と呼ばれ、子供たちは誰も近づかなかった。
 窓は割れ、板塀は捲れ上がり、当然、人は住んでいない。
 だが、そんな子供心に恐怖だった場所も、僕が小学校を卒業し、中学、高校と進んだ頃には、その屋敷の正体が分かり、興ざめたものだ。
 その屋敷は住む人がいなくなった後、大学の音楽部が物置き代わりに使っているということがわかった。
 なるほど、屋敷の前を通ると、大学生たちが談笑しながら出入りしているし、外からでも大きな楽器のケースが見えた。
・・理由を知れば怖いものなんて、この世に存在しない。
 それは僕の父の言葉だ。

 だが、そんな哲学を知っても、僕には怖いものはたくさんある。
 例えば、虫。蛇。爬虫類全般。
 そして、何よりも怖いのは・・人間全般だ。
 物心ついた時には父の顔が怖かったし、小学校の時は、男の先生の声が怖く、いじめを受けるようになった頃には、クラスメイトの男子全員が怖かった。

 不思議と女子が恐怖の対象から外れていたのは何故だろう?
 母親、女教師、幼馴染の女の子・・憧れの女性。
 クラスメイトの女子からいじめを受けることはない、という理由からなのか、女性は「怖い」という対象ではなかった。
 でも、それは高校生になるまでのことだった。
 クラスにあの人が転校してくるまでは……

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