初恋フィギュアドール

人間そっくり①

◆人間そっくり

　そして、如月カオリは、サツキさんとイズミを眺めた後、僕に向き直ってこう言った。
「イムラの友人を男型ドールを使って突き飛ばした犯人は、山田瞳子だ」
　植村のお母さんドールのルミ子さんは、我が子を助けるべく、車の往来の中に身を投げた。植村を救ってくれたのだ。
「知っていたのか？」
「草壁グループの間では密かに噂になっているよ」如月カオリはそう言った。
「噂？」
「ああ、まだ噂の段階だ。何せ本人が手を下したわけではないからな」
　本人ではなく、誰かにやらせたのでもない。あくまで彼女に命令されたドールがしたことだ。
　犯罪を暴くのが困難となる。ドールに関する法律が現実に追いついていないのだ。
　山田瞳子を告訴したい。本気でそう思った。山田瞳子は、男型ドールを使って、植村を車の往来に突き飛ばし、意図的に抹殺しようとした。
　何かの証拠が欲しい。
このままだと、単なる泣き寝入り状態だ。植村の身代わりとなったお母さんドールのルミ子さんも浮かばれないだろう。

「山田瞳子は、ドールを使って、ドールの世界を思いのままにしようとしているようだ」
「ドールの世界？」
　僕が言うと、サツキさんが、
「Ｂ型ドールの並列思考を読み取った際に聞いたことがあります」と切り出した。
「どんな話ですか？」
　サツキさんに訊ねると、
「人間そっくりのドールを開発しつつある・・と」サツキさんはそう答えた。
「人間そっくりって、つまり、人間と見分けがつかないドールが現れる。そういうことですか？」
　人間とドールの境界が失われる。　
　すると、どんな現象が？
　如月カオリはサツキさんの言葉を受けて、「そうなると・・」と前置きし、
「人間とドールの入れ替わりが可能だということだ」と続けた。
「入れ替わりができる・・そういうことなのか？　もしかして、山田瞳子は・・」
　僕の当たって欲しくない推論を確定するように、如月カオリは、こう言った。
「山田瞳子は、入れ替わりを利用して、欲しいもの・・たぶん、金銭だと思うが、手に入れようとしているのかもしれない」
「けど、いくら何でも、ドールとの違いくらいは分かるだろう。人間はそこまで愚かではない」そう僕は反論した。