初恋フィギュアドール

山田夫妻①

◆山田夫妻

　イズミを回収しようとしている機関の広告塔が、僕の初恋の女性である浅丘泉美だった。
　まさしく強烈な皮肉のような現実だが、そのショックを和らげるように、
　この部屋には、心和むドールたちがいる。
　そのせいか、落ち込み度が少ない気がしないでもない。
　三人のドールたち・・
　テーブルを囲み、ゴシック調の服で身を固めたイズミが、澄ました顔でペタン座りをしている。その横で静かにお茶をたしなんでいるサツキさんが膝頭を揃えて座っている。
　そして、今回のゲストのような如月カオリの出で立ちは、いつもの女スパイのような黒のパンツスーツだ。トレードマークのサングラスを外し、青い目で皆の様子を伺っている。
　彼女からの情報は貴重だ。
　以前、如月カオリはローズと組み、イズミを誘拐し、僕やサツキさんと争ったが、今は貴重な同士的存在だ。
　そのような仲になった理由は、如月カオリが、隣の島本さんの娘の義母のコピーだからだろう。
　すでに如月カオリは敵ではない。それどころか、音楽ホールでは僕とイズミを助けてくれもした。

　如月カオリは、「そうか、イムラとイズミは、恋人ではなく、『友達』という設定なのか」と言った。

　フィギュアドールは、外製であっても、国産のＢ型Ａ型のドールでも、全て所有者がいる。
　そして、イズミのような外製のドールでは、主との関係性が設定される。
　イズミと僕の場合は「友達」だが、他の所有者は「恋人」や「親子」とか、「上司と部下」などと設定は様々だ。
　Ｂ型やＡ型には、その関係性というものがないようだが、所有者の存在はある。
所有者がいないと、ドールはその生が保てないからだ。
　所有者は、ドールの生命を維持するために、特殊な錠剤を用意したり、硬水のミネラルウォーターをドールに飲ませる。
　そのような僅かな食糧で生命を維持できるドールは、ある意味、人間より優れているのかもしれない。少なくともドールに食糧危機はないような気がする。

　如月カオリは、僕とイズミの「友達」の設定にまだ納得がいっていないのか、
「『恋人』の設定だと、何かまずいことでもあるのか」と突っ込んだ。
　その言葉にイズミが僕の顔を見上げた。
「いや、かなりまずい」僕は言った。
　イズミがこの世に誕生した時は、それでもよかったかもしれない。
　だが、今さら、イズミと恋人とかになると、長い時間をかけて築いた緩い関係が壊れそうな気がする。