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その人の名は①

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◆その人の名は

 微笑ましい会話の中、
「さっきの話の続きだが・・」僕は如月カオリに訊いた。
「イズミのような外製のドールの回収の話か?」
 如月カオリの言葉に、同時にイズミの体がピクンと痙攣したように見えた。
「何とかならないものか・・そう思っている」僕は正直に言った。
 元々イズミは、初恋の女性、浅丘泉美を模したドールを作成しようとこの世に誕生させたフィギュアドールだ。
 だが、その元になった浅丘泉美とはかけ離れた人格、そして、容姿をしている。
 顔に限って言えば、仮に似ているとしても、僕の見る目が変わってしまっている。
 最近では、イズミを見て、彼女を思い出すことはない。

「イムラ、残念だが、ワタシのようなドールが、どうこうできる問題ではないのだよ」如月カオリは残念そうに言った。
 僕は「それは承知している。そもそも、如月カオリは、国産型のドールで、回収話の対象外だし、同じA型ドールのドールも関係ない」と前置きし、
「サツキさんのようなS型ドールも話に出ていない・・そうなんだな?」と訊いた。
 如月カオリはサツキさんを見やった後、「そうだな、B型ドールや、サツキのようなB型ドールからS型に転移したドールの話は出ていないはずだ」と答えた。
「イズミのような思念型のドールだけが対象なのか」
「そうだ」と如月カオリは答えた。
 植村のお母さんドールのルミ子さんも思念型だったが、もうこの世にはいない。
 だが、僕はそれほど絶望はしていなかった。
 僕がフィギュアプリンターを購入したことは、調べがついたとしても、イズミを作成し、現在、所持していることまでは調べることはできないだろう。
 回収、というのは、外製のフィギュアプリンター販売の根絶や、公共の場にドールを持ち出すことを今以上に厳しくすることくらいしかできないはずだ。

 如月カオリは、僕の表情を伺いながら、「これから先、イズミを連れて、外出しにくくなるな」と言った。
「いや、そこまで気を使うこともないだろう。まさか、ドールの回収員が、その辺りをうろついているわけでもないだろうし」
 もし、何かがあったとしても、僕はイズミを守る。
 イズミは唯一無二の僕のドールだ。

 そんな考えを固めていると、如月カオリが、
「ドールの回収事業を推進している者の名前をワタシは知っている」と言った。
 役人の名前など聞く必要もない。
「そんな名前を聞いても、全く知らない人間の名前だろう」
 強く応えた僕に如月カオリは、こう言った。

「その名前は、浅丘泉美だ」
「えっ?・・」
 それは、僕のよく知っている名前だった。
「イムラ、お前は、その女を知っているはずだ」
 如月カオリは僕を見つめながら言った。
 浅丘泉美は、僕の初恋の女性であるのと同時に、イズミをフィギュアプリンターで創った時、僕が送った思念の元の女性だ。
 そして、以前、如月カオリは、イズミにケーブルを繋ぎ、イズミの思考の一部を取り出している。それ故に浅丘泉美の名前を知っているのだろう。

 イズミは、
「ワタシの顔の元になって女の人ですね」と何故か嬉しそうにすると、おもむろに立ち上がり、壁の書架から僕の高校の卒業アルバムを持ち出した。イズミは以前、浅丘泉美の写真を見ている。
 イズミはテーブルにアルバムを広げ、皆の前に差し出した。
「このお方が、ワタシのお顔の元になった人ですよ」
 と、何やら得意げな顔でイズミは言った。「みなさん、どうですか?」と言わんばかりだ。
「可愛らしい方ですね」サツキさんが言った。
 その言葉になぜかイズミが照れている。

 如月カオリは、写真を見ると、
「間違いない。私が言った女性と同じ顔だ」と断言した。
 するとイズミは、「カオリさん、ワタシに似ていますか?」と訊ねた。
 如月カオリはじーっとイズミの顔を見た。
 イズミはその視線に応えるようにじっとしている。
「似ていなくもない」
 しばらくイズミの顔を見た後、如月カオリはそう答えた。どっちだよ!
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