上 下
159 / 167

お茶の時間②

しおりを挟む
「如月さんも、お茶、どうですか?」サツキさんが言った。
「ワ、ワタシが?」
 如月カオリが驚いたように言った。まさか、このような場所でお茶をよばれるとは思いもしなかったのだろう。
 驚く如月カオリは、
「ワタシは、以前、イズミやサツキにひどいことをしたのだぞ」と言った。
 確かにそうだ。
 如月カオリは、イズミの内部の思考を調べるべく、A型ドールのエレナさんや、セクシー系のローズを使って、イズミを拉致した。
 その際に激しい乱闘となった。サツキさんはローズに蹴られ、僕もそれなりに酷い目に遭った。
 如月カオリは、そんなことをしたドールに、お茶を出してくれるのか・・そう言っている。
「かまわないではないですか」
 サツキさんは優しく言った。
「しかし・・」如月カオリは言い淀んだ。
「今、ワタシやイズミさんに何をするでもないでしょう? それに、音楽ホールでは、イズミさんを助けて頂いたそうですから。おあいこさまです」
 サツキさんの表情、その声質、全てが優しい。まるで女神のようだ。
 如月カオリの刺々しい態度が、サツキさんや、イズミの中に溶け込んでいくようだ。
 
「カオリさん。お茶をどうぞ」
 テーブルにお茶を配し終えたイズミが言った。案の定、イズミは紅茶を入れている。
 イズミとサツキさんの見返りのない優しさに引き込まれるように、如月カオリは敷かれた座布団に座った。
 最初は不本意な表情をしていた如月カオリもすぐに慣れたのか、湯呑茶碗に手を伸ばした。
 如月カオリとサツキさんは正座。イズミはいつものペタン座りで向かい合った。
 何となく照れくさい僕は、少し離れたパソコンのテーブル用の座布団で胡坐をかいた。
 三人のドールはそれぞれ、様子が異なる。イズミはゴシックロリータ調の出で立ち。サツキさんはどこかのOLのようだし、如月カオリは黒のパンツスーツで、どこかの国の諜報員のような雰囲気を醸し出している。

 上品な手つきで如月カオリは、お茶をすすると、静かに目を閉じ、何かの瞑想に耽るような表情となった。
「カオリさん。美味しいですか?」イズミが僕の時のように訊いた。
 如月カオリは、そんな種の質問には慣れていないのか「あ、ああ」と戸惑うような返事をし「おいしい」と答えた。
 そして、全部飲み終えると、イズミが、
「カオリさん。二杯目のお茶をどうぞ」とまたお茶を勧めた。
「ああ、ありがとう。頂くよ」如月カオリは素直に答えた。
 二人の様子を微笑ましく見ながら、如月カオリは、イズミの世界に引き摺り込まれたな、何杯も飲まされるぞ、と僕は心の中で笑った。 

 イズミの入れたお茶を飲み満足げな如月カオリは、今度は、イズミのティーカップを見ながら、
「それは、紅茶、というものか?」と訊いた。
「ハイ」イズミは可愛らしく答えた。
 すると、如月カオリは、言いにくそうに、
「そ、それも飲んでみたいものだ」と言った。
 イズミは「待ってました!」と言わんばかりに嬉しそうに茶棚から、別のティーカップを取り出し、ティーパックも用意した。
「カオリさん、お紅茶は、アッサム、ダージリン、、アールグレイ、レディーグレイのどれがよろしいですか?」とイズミが紅茶の名称を並べ立てて訊いた。
「では、そのレディーグレイにするよ」如月カオリは恥らうように答えた。
 するとイズミは手慣れた手つきでティーパックの包みを開き、カップに湯を注いだ。
 その人間の少女のような仕草を如月カオリはずっと見ている。
「はい、どうぞ」
 イズミは如月カオリにカップを差し出した。
 如月カオリは、日本茶や紅茶のようなものを飲んだことは無いのだろうか?
 イズミもB型ドールのサツキさんも飲料を嗜める。もちろん、それはドールの生存要件ではない。飲まなくてもかまわない。ただの嗜好品として飲んでいるだけだ。
 如月カオリにはそんな機会がなかったということなのだろうか。
 ティーカップから漂う紅茶の香りに「いい匂いだ」と言って、一口すすった。
 そして、「おいしい」と小さく言った。

 次第に、如月カオリはこの雰囲気に打ち解けてきたのか、サツキさんに「あの時は、すまなかった」と改めて謝り、イズミにも「ひどいことをした」と言った。
 イズミと如月カオリの二体のドール。それは擬似親子のような関係だ。
 イズミの中には、島本さんの思念が創ったミチルがいるし、如月カオリのAIはミチルの義母のコピーだ。
 そんな切ない設定の二人だが、
 僕が見ている限り、そのような切なさはそれほど感じない。ただただ微笑ましい光景に見える。その光景を、僕はまるで彼女たちの保護者のような感覚で見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

時々、僕は透明になる

小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。 影の薄い僕はある日透明化した。 それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。 原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?  そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は? もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・ 文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。 時々、透明化する少女。 時々、人の思念が見える少女。 時々、人格乖離する少女。 ラブコメ的要素もありますが、 回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、 圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。 (登場人物) 鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組) 鈴木ナミ・・妹(中学2年生) 水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子 加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子 速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長 小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員 青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生 石上純子・・中学3年の時の女子生徒 池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生 「本山中学」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜

柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。 ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。 「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」 これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。 時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。 遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

処理中です...