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お茶の時間①
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◆お茶の時間
如月カオリは僕の家に立ち寄り、サツキさんの姿を認識すると、「サツキもここにいたんだな」と言った。そして、リビングでの立ち話が始まった。
「イムラ・・あれでよかったのか?」と僕に言った。
もちろん、いいはずはない。島本さんの気持ちは聞けていない。
僕が、「人の気持ちの整理には、時間がかかる」と応えると、
「それでいいのか? ドールもそうだが、人間にも残された時間はそうないはずだ」と言った。
何も行動せぬまま、年をとる。如月カオリはそう言いたいのだろう。島本さんもぐずぐずはしていられない。
だが、ドールは?
「如月カオリ、今、人間に残された時間はそうない、と言ったが、ドールにも時間がない・・そう言ったよな?」
僕が訊ねると如月カオリはコクリと頷き、「言った」と短く答えた。
「どういうことだ?」
すると如月カオリは僕の顔を見ながら、
「イムラ・・これはローズから聞いた話だが、そこの幼女型ドール・・」
如月カオリは部屋に佇んでいるイズミを指して言った。
イズミが顔を上げ、僕を見た。
「幼女じゃない。イズミという名前がある」
僕が言うと、如月カオリは「ふっ」と今までに見たことのない笑みを浮かべ、
「知っているよ。イズミの中には、ミチルというワタシの義理の娘の思念があるのだからね」と言った。
そして、
「イズミは、米国規格の中○製のフィギュアドールだが、近々、そのフィギュアプリンターは販売が禁止されるらしい」と言った。
「それは、ネットの情報で見たことがある。色々と不具合があるようだな」
外製のドールは、人の思念で創られる。
故に犯罪を目論むような人間の思念をプリンターに送り込めば、犯罪を犯す可能性のあるドールが出来上がるということだ。
そのことにようやく気付いた機関が、外製のプリンターの販売の禁止に乗り出したということだ。だが、イズミのようにこうして出来上がっているものについてはどうしようもない。
当初は販売の自粛要請だったが、ようやく禁止となったのか。
だが、イズミは既に僕のものだ。プリンターが販売されなくても、イズミは僕の傍にいいる。
そう安易に考えていた僕に如月カオリはこう言った。
「問題は、プリンターの販売の終了もそうだが、既に製作しているドールの回収が行われるかもしれない」と言った。
え?
一瞬、何のことか分からなかった。如月カオリは何を言っているのか? 意味不明の言葉に思えた。
気がつくと、僕の心臓はドクドクと分かるほど音を立てている。
「如月カオリ、言葉を返すようだが、一度買ったものは、何かの権利が生ずるだろう。そこまではどこかの機関も手がだせないはずだ」
「まだ私も聞いたところだが、機関は何年かかけて、その作業を行うようだ」
「作業?」
「ドールの回収作業だ」
ドールの回収だと! 冗談じゃない。その言葉に僕の怒りが爆発した。
「そんなことはさせるものか!」怒鳴る相手はいないが、そう叫ばざるを得なかった。
如月カオリは、僕の表情を見ても、何とも思わないようだ。
すると、イズミが、僕のそばに寄ってきて、
「・・ということは、ワタシはショブンされるのですね?」としょんぼりした声色で言った。
そんなイズミの不安そうな顔を、なぜか如月カオリは優しげな瞳で見つめた。
「イムラ・・その気持ちは人間の所有欲というものなのか?」
その問いに、僕はこう答えた。
「いや違う・・『家族の一員を失いたくない』という気持ちは所有欲という言葉では片付けられない」
僕の強い言葉に、如月カオリが「ふっ」と微笑んだように見えた。
同時に、イズミがペッタリと僕に寄り添った。その様子をサツキさんが微笑ましく見つめた。
僕は「如月カオリ、ローズから聞いた話というのはどれくらい信憑性があるんだ?」と訊ねた。
「まだ決定事項ではない」
少しホッとした。
「このプランには、反対する人間も多いと聞いている」
「反対する人間?」
「ドールにも人格を認める。そう語りだす者たちが増えてきている」
「当り前だ。僕のような人間は少なからずいるだろうし、ドールを所有していなくても、無茶な事案は反発を招くものだ」
僕が少し落ち着きを取り戻すと、
僕の心情を察知したのか、イズミとサツキさんがお茶の用意を始めた。
まるで人間の以心伝心のように、サツキさんが湯を沸かし始め、イズミが湯呑を棚から出してきた。
それも、四人分だ。
如月カオリは僕の家に立ち寄り、サツキさんの姿を認識すると、「サツキもここにいたんだな」と言った。そして、リビングでの立ち話が始まった。
「イムラ・・あれでよかったのか?」と僕に言った。
もちろん、いいはずはない。島本さんの気持ちは聞けていない。
僕が、「人の気持ちの整理には、時間がかかる」と応えると、
「それでいいのか? ドールもそうだが、人間にも残された時間はそうないはずだ」と言った。
何も行動せぬまま、年をとる。如月カオリはそう言いたいのだろう。島本さんもぐずぐずはしていられない。
だが、ドールは?
「如月カオリ、今、人間に残された時間はそうない、と言ったが、ドールにも時間がない・・そう言ったよな?」
僕が訊ねると如月カオリはコクリと頷き、「言った」と短く答えた。
「どういうことだ?」
すると如月カオリは僕の顔を見ながら、
「イムラ・・これはローズから聞いた話だが、そこの幼女型ドール・・」
如月カオリは部屋に佇んでいるイズミを指して言った。
イズミが顔を上げ、僕を見た。
「幼女じゃない。イズミという名前がある」
僕が言うと、如月カオリは「ふっ」と今までに見たことのない笑みを浮かべ、
「知っているよ。イズミの中には、ミチルというワタシの義理の娘の思念があるのだからね」と言った。
そして、
「イズミは、米国規格の中○製のフィギュアドールだが、近々、そのフィギュアプリンターは販売が禁止されるらしい」と言った。
「それは、ネットの情報で見たことがある。色々と不具合があるようだな」
外製のドールは、人の思念で創られる。
故に犯罪を目論むような人間の思念をプリンターに送り込めば、犯罪を犯す可能性のあるドールが出来上がるということだ。
そのことにようやく気付いた機関が、外製のプリンターの販売の禁止に乗り出したということだ。だが、イズミのようにこうして出来上がっているものについてはどうしようもない。
当初は販売の自粛要請だったが、ようやく禁止となったのか。
だが、イズミは既に僕のものだ。プリンターが販売されなくても、イズミは僕の傍にいいる。
そう安易に考えていた僕に如月カオリはこう言った。
「問題は、プリンターの販売の終了もそうだが、既に製作しているドールの回収が行われるかもしれない」と言った。
え?
一瞬、何のことか分からなかった。如月カオリは何を言っているのか? 意味不明の言葉に思えた。
気がつくと、僕の心臓はドクドクと分かるほど音を立てている。
「如月カオリ、言葉を返すようだが、一度買ったものは、何かの権利が生ずるだろう。そこまではどこかの機関も手がだせないはずだ」
「まだ私も聞いたところだが、機関は何年かかけて、その作業を行うようだ」
「作業?」
「ドールの回収作業だ」
ドールの回収だと! 冗談じゃない。その言葉に僕の怒りが爆発した。
「そんなことはさせるものか!」怒鳴る相手はいないが、そう叫ばざるを得なかった。
如月カオリは、僕の表情を見ても、何とも思わないようだ。
すると、イズミが、僕のそばに寄ってきて、
「・・ということは、ワタシはショブンされるのですね?」としょんぼりした声色で言った。
そんなイズミの不安そうな顔を、なぜか如月カオリは優しげな瞳で見つめた。
「イムラ・・その気持ちは人間の所有欲というものなのか?」
その問いに、僕はこう答えた。
「いや違う・・『家族の一員を失いたくない』という気持ちは所有欲という言葉では片付けられない」
僕の強い言葉に、如月カオリが「ふっ」と微笑んだように見えた。
同時に、イズミがペッタリと僕に寄り添った。その様子をサツキさんが微笑ましく見つめた。
僕は「如月カオリ、ローズから聞いた話というのはどれくらい信憑性があるんだ?」と訊ねた。
「まだ決定事項ではない」
少しホッとした。
「このプランには、反対する人間も多いと聞いている」
「反対する人間?」
「ドールにも人格を認める。そう語りだす者たちが増えてきている」
「当り前だ。僕のような人間は少なからずいるだろうし、ドールを所有していなくても、無茶な事案は反発を招くものだ」
僕が少し落ち着きを取り戻すと、
僕の心情を察知したのか、イズミとサツキさんがお茶の用意を始めた。
まるで人間の以心伝心のように、サツキさんが湯を沸かし始め、イズミが湯呑を棚から出してきた。
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