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破壊①
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◆破壊
交差点の向こう・・歩道を見ていた僕は、一瞬、自分の目を疑った。
手を振っていた植村の体が、何かに突き飛ばされたように車の往来の中に飛び出たのだ。
いや、誰かが植村を突き飛ばしたように見えた。
信号はまだ赤だ。
植村は突き飛ばされた勢いでその場に倒れ込んでいる。
清水さんが「ああっ」と声を上げたのと同時に、
「コウイチ!」とルミ子さんの植村を呼ぶ声が大きく聞こえた。
声と同時に信じられないような速さでルミ子さんが植村の元へと駆け寄った。
車が、猛スピードで走ってきた。交差点でも青信号を信じて疑わない勢いだ。
植村が車にひかれる!
そう思った瞬間、
ドンッ、ガシンッという大きな衝突音がした。
車と何かがぶつかる音だ。人間ではない。
車がルミ子さんにぶつかったのだ。
一方、植村は、ルミ子さんの体に覆われていた。
ルミ子さんが車にぶつかる寸前の植村の体を咄嗟に抱え込み、その体をかばったのだ。
ルミ子さんに覆われた植村は、この状況が呑み込めないかのような目をしていた。
だが、すぐに理解したようだ。
なぜなら、自分の目の前に、ルミ子さんの頭が転がっていたからだ。
ルミ子さんの体は無残にも破壊されていた。頭部は衝突の衝撃で引き千切れたのだろうか? セミロングの髪が痛々しく広がっている。
「お母さん!」
植村の悲痛な叫びが響き渡った。
晴れ渡った空の下、その声は似合わなかった。
僕たちは信号が青に変わるのと同時にルミ子さんの方へと駆け寄った。
複数のクラクションが鳴り響いた。避けて通り過ぎる車、現場の前で停止する車。
それら全ての車がクラクションを鳴らしているように思えた。
その中心に、道にへたり込んだ植村と破壊されたルミ子さんの姿があった。
多くの人々の視線が集まったが、
ルミ子さんのその無残な姿を一目見て、フィギュアドールだと分かると、
「なんだ、ドールか」と人々の口から無関心の声が漏れた。好奇心で壊れたドールを見る者。ただの壊れた玩具には関心を見せずに通り過ぎる者。
そんな中、僕たちは、壊れたルミ子さんの頭と、頭を失った体を車道から歩道に移した。
植村はルミ子さんの頭部を抱え込み、うろたえるだけだ。体をガクガクと震わせている。
「お、お母さんが・・うわああっ」
世界広しといえど、自分をかばって、頭を失った母親の体を見た男もそういないだろう。
ルミ子さんに車をぶつけた男が慌てて降りてきた。
だが、すぐにドールだと分かると、
「一体、誰のドールだ! 持ち主はどいつだ!」と声を上げ、僕らを見て「お前らか!」
と怒声を浴びせた。
僕はその男にこう言った。
「だがな、このドールがいなかったら、お前は人間をはねるところだったぞ!」
男も負けてはいない。
「そいつが、急に飛び出してきたんだ。あんなのよけられるかよ!」
僕は「それは理由にならないと思うぞ」と返した。交差点ではいつでも停止できるように徐行しなければならない。
すると男の声が弱くなり、「これって、保険、下りるんだろうな」と自分の財布の心配をし始めた。男の心配は分かる。車はボンネットごと大きく破損している。
これは、物損事故になるのだろうか?・・清水さんが、警察に連絡し、男は自分の保険屋に電話をし始めた。
植村は頭部を抱えたまま「お母さん、お母さん」と繰り返し叫んでいる。
一方、サツキさんは、頭を失ったルミ子さんの胴体にコードを差し込んだ。
そして、
「ルミ子さんの意識は、まだあります」と確認したように言った。
意識は、胴体にあるのか?
僕がそう尋ねると、サツキさんは「思考回路は、頭部にありますが、思考を支える生命体。つまりエネルギーは体の中にあります」と説明し、
「ルミ子さんの意識を言語化するには、頭部と胴体をジョイントしなければなりません」
と続けた。
交差点の向こう・・歩道を見ていた僕は、一瞬、自分の目を疑った。
手を振っていた植村の体が、何かに突き飛ばされたように車の往来の中に飛び出たのだ。
いや、誰かが植村を突き飛ばしたように見えた。
信号はまだ赤だ。
植村は突き飛ばされた勢いでその場に倒れ込んでいる。
清水さんが「ああっ」と声を上げたのと同時に、
「コウイチ!」とルミ子さんの植村を呼ぶ声が大きく聞こえた。
声と同時に信じられないような速さでルミ子さんが植村の元へと駆け寄った。
車が、猛スピードで走ってきた。交差点でも青信号を信じて疑わない勢いだ。
植村が車にひかれる!
そう思った瞬間、
ドンッ、ガシンッという大きな衝突音がした。
車と何かがぶつかる音だ。人間ではない。
車がルミ子さんにぶつかったのだ。
一方、植村は、ルミ子さんの体に覆われていた。
ルミ子さんが車にぶつかる寸前の植村の体を咄嗟に抱え込み、その体をかばったのだ。
ルミ子さんに覆われた植村は、この状況が呑み込めないかのような目をしていた。
だが、すぐに理解したようだ。
なぜなら、自分の目の前に、ルミ子さんの頭が転がっていたからだ。
ルミ子さんの体は無残にも破壊されていた。頭部は衝突の衝撃で引き千切れたのだろうか? セミロングの髪が痛々しく広がっている。
「お母さん!」
植村の悲痛な叫びが響き渡った。
晴れ渡った空の下、その声は似合わなかった。
僕たちは信号が青に変わるのと同時にルミ子さんの方へと駆け寄った。
複数のクラクションが鳴り響いた。避けて通り過ぎる車、現場の前で停止する車。
それら全ての車がクラクションを鳴らしているように思えた。
その中心に、道にへたり込んだ植村と破壊されたルミ子さんの姿があった。
多くの人々の視線が集まったが、
ルミ子さんのその無残な姿を一目見て、フィギュアドールだと分かると、
「なんだ、ドールか」と人々の口から無関心の声が漏れた。好奇心で壊れたドールを見る者。ただの壊れた玩具には関心を見せずに通り過ぎる者。
そんな中、僕たちは、壊れたルミ子さんの頭と、頭を失った体を車道から歩道に移した。
植村はルミ子さんの頭部を抱え込み、うろたえるだけだ。体をガクガクと震わせている。
「お、お母さんが・・うわああっ」
世界広しといえど、自分をかばって、頭を失った母親の体を見た男もそういないだろう。
ルミ子さんに車をぶつけた男が慌てて降りてきた。
だが、すぐにドールだと分かると、
「一体、誰のドールだ! 持ち主はどいつだ!」と声を上げ、僕らを見て「お前らか!」
と怒声を浴びせた。
僕はその男にこう言った。
「だがな、このドールがいなかったら、お前は人間をはねるところだったぞ!」
男も負けてはいない。
「そいつが、急に飛び出してきたんだ。あんなのよけられるかよ!」
僕は「それは理由にならないと思うぞ」と返した。交差点ではいつでも停止できるように徐行しなければならない。
すると男の声が弱くなり、「これって、保険、下りるんだろうな」と自分の財布の心配をし始めた。男の心配は分かる。車はボンネットごと大きく破損している。
これは、物損事故になるのだろうか?・・清水さんが、警察に連絡し、男は自分の保険屋に電話をし始めた。
植村は頭部を抱えたまま「お母さん、お母さん」と繰り返し叫んでいる。
一方、サツキさんは、頭を失ったルミ子さんの胴体にコードを差し込んだ。
そして、
「ルミ子さんの意識は、まだあります」と確認したように言った。
意識は、胴体にあるのか?
僕がそう尋ねると、サツキさんは「思考回路は、頭部にありますが、思考を支える生命体。つまりエネルギーは体の中にあります」と説明し、
「ルミ子さんの意識を言語化するには、頭部と胴体をジョイントしなければなりません」
と続けた。
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