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イズミにお願いをする②
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「その事実を、夫人が隠ぺい、もしくは誰かが、夫人の行いを隠している、とも聞きました」
すると、それまで黙っていたイズミが、ティーカップから顔を上げ、
「そういう人間を、人でなし、人非人、小悪魔と言います。ワタシの思考は、そう申し上げています」と変な日本語で言った。
「おい、最後の『小悪魔』は、ちょっと違うぞ。悪魔と言う方がピッタリくる。小悪魔っていうと、何か、可愛いみたいじゃないか」
イズミの思考の海はちょっとずれているな。
そんなイズミは、自分の言葉を訂正せずに、
「ミノルさんは、そんな人間の心をワタシに読め・・そうおっしゃられるのですか?」と言った。
イヤなのか?
「なあ、イズミ、イヤだったら、そう言ってくれてもいいんだぞ。イズミの嫌がることを敢えてしたくない」
イズミは、そう言った僕の顔を見ながら、「特にイヤというわけでもありません」と言って、「ミノルさんにお役に立てることであれば、イズミは喜んで、その悪代官のようなお人の心をお読みいたします」とややこしい言葉で言った。
・・嬉しいことを言ってくれる。
イズミの思念読み取り能力。
僕がお願いすれば、イズミは快くOKする。
もし、思念読み取りなど、SFの世界にしか存在しなかった夢のようなものが、できるのであれば、かなりすごいことだ。
それは、イズミのような中○製の思念読み取り作成型のフィギュアプリンターならではのことだ。国産型のドールには、A型であってもB型でもそのような機能はないだろう。
今回、山田夫人の心象風景の読み取りに成功すれば、彼女のこと以外にも使えそうだ。
すると、いきなり妄想が膨れ上がる。
佐山さん・・まず彼女の名前が浮かんだ。佐山さんは僕の事をどう思っているのだろうか? 考え出すと妄想は止まらない。その先へ先へと想像の羽を伸ばす。
いや、今は、余計なことを考えないことだ。
「ミノルさん」
僕の妄想を断ち切るようにイズミが声をかけてきた。
「な、なんだ? イズミ」うろたえながら訊くと、
「現在、ミノルさんは、大変いかがわしいことをお考えのようです」とイズミは言った。
「お、おいっ、イズミ、まさか。僕の思考を読み取ったのか!」
思わず大声を出した。テーブルが揺れた。
「いえ、そんなことはしていません。装置の発動は、勝手には行いません」
イズミは弁明するように言った。
ホッとして、「だったら、どうして、いかがわしいことを・・なんて言ったんだよ!」
「ミノルさんのお顔がとてもイヤらしく、かつ、この場に不適切な表情をしていたからです」
不適切って、すごい言い方だな。いずれにせよ、僕の勘違いか。
僕は話を元に戻し、
「今度の日曜日、つまり、7日後だ。会社のパーティがある。草壁グループ関連のパーティだ。その際、僕はもちろんのこと、飯山商事の山田課長夫妻も出席の予定だ」
サツキさんは、飯山商事には苦い思い出がある。サツキさんには過去を思い出して欲しくない。だから、今回はイズミだけだ。
「これだけは、言っておく。人の心を読むことは、倫理上、褒められたものではない。ハッキリ言って、すべきではないことだ。だが・・」
僕は、草壁会長のブログで見た動画の中の山田瞳子の瞳を思い出していた。
「どうしてか、わからないが、今の僕は、悪い予感しかしないんだ」
僕の感はよく当たる。
イズミが誘拐された時もそうだった。あの時は、山田課長の所有するドール、如月カオリの瞳を見た時からだ。その心配通り、イズミが拉致された。
そう言った僕に、サツキさんが、静かに湯呑茶碗を置き、
「お噂の山田夫人は、よからぬお仲間も多いと聞いています」と言った。
「仲間?」
「はい、仲間です。あるいは、業者繋がりとも言います。決して仲のいいお友達ということではありません。あくまでも相互利益に基づく繋がりのある人間関係です」
「どういうことですか?」
サツキさんは、「例えばですが」と前置きし、
「ワタシが、B型ドールだった頃、同じB型タイプの期限切れが迫っているドールが、行方不明になるということが何度か発生していました」
「期限切れ間近のドールが行方不明?」
僕はある光景の記憶を呼び戻した。
それは街の通りで、追手から逃げるB型ドールだ。黒服の男たちに捕えられたドールは、車の中に担ぎ込まれていた。その行方は知らない。
たまたま僕が見たくらいだ。B型ドールを捕えるという行為は日常的にあったのかもしれない。
「サツキさん。それって、ドールの横流し、みたいなものでしょうか?」
「そこまでは、ワタシにはわかりません。けれど、ワタシが、B型ドールの命を終え、Sドールとして生まれ変わったように、何らかの手を加えれば、命が尽きかけているドールにも、それなりの利用価値があると推察されます・・ワタシが言いたいのは・・」
「サツキさんが言いたいのは?」僕はサツキさんの話を促した。
「そのドールの流通に、先ほどの山田夫人が関与しているという噂があったことです」
山田瞳子は、何かの裏ビジネスのようなことをしていたのか。ドールの売買。それも、違法の。
それに加えて、あの女は、草壁ミチルにも近づいているし、清水さんから聞いた噂では、草壁夫人の座を狙っているとも聞いた。
得体が知れない。
そんな女を妻にしている山田課長も信じられない。そんな悪妻に全く関知していないとすれば、山田課長の頭の中は、よほど平和ボケでもしているのだろう。
サツキさんは続けて気になるこんなことを言った。
「ドールの闇売買くらいであれば、まだいいのですが、あの方は、第三者に自分に不都合なことを知られたりすると、その人間を排除するとも聞きました」
「排除?」
「つまり、邪魔な人間を、取り除く、ということです。グループ会社の人間が数名、不審な死を遂げている・・そんなことも聞きました」
にわかには信じがたい話だが、この世の中には、そんな信じられないことをする人間も存在する、ということだ。
「誰かの心に生まれた悪意は、更なる別の悪を生み出す・・そんな論理が、B型ドール間の並列思考の中にあります」
そうサツキさんは言った。
そんな論理の中心に、あの山田夫人、山田瞳子の悪意に満ちた瞳が浮かんでいた。
すると、それまで黙っていたイズミが、ティーカップから顔を上げ、
「そういう人間を、人でなし、人非人、小悪魔と言います。ワタシの思考は、そう申し上げています」と変な日本語で言った。
「おい、最後の『小悪魔』は、ちょっと違うぞ。悪魔と言う方がピッタリくる。小悪魔っていうと、何か、可愛いみたいじゃないか」
イズミの思考の海はちょっとずれているな。
そんなイズミは、自分の言葉を訂正せずに、
「ミノルさんは、そんな人間の心をワタシに読め・・そうおっしゃられるのですか?」と言った。
イヤなのか?
「なあ、イズミ、イヤだったら、そう言ってくれてもいいんだぞ。イズミの嫌がることを敢えてしたくない」
イズミは、そう言った僕の顔を見ながら、「特にイヤというわけでもありません」と言って、「ミノルさんにお役に立てることであれば、イズミは喜んで、その悪代官のようなお人の心をお読みいたします」とややこしい言葉で言った。
・・嬉しいことを言ってくれる。
イズミの思念読み取り能力。
僕がお願いすれば、イズミは快くOKする。
もし、思念読み取りなど、SFの世界にしか存在しなかった夢のようなものが、できるのであれば、かなりすごいことだ。
それは、イズミのような中○製の思念読み取り作成型のフィギュアプリンターならではのことだ。国産型のドールには、A型であってもB型でもそのような機能はないだろう。
今回、山田夫人の心象風景の読み取りに成功すれば、彼女のこと以外にも使えそうだ。
すると、いきなり妄想が膨れ上がる。
佐山さん・・まず彼女の名前が浮かんだ。佐山さんは僕の事をどう思っているのだろうか? 考え出すと妄想は止まらない。その先へ先へと想像の羽を伸ばす。
いや、今は、余計なことを考えないことだ。
「ミノルさん」
僕の妄想を断ち切るようにイズミが声をかけてきた。
「な、なんだ? イズミ」うろたえながら訊くと、
「現在、ミノルさんは、大変いかがわしいことをお考えのようです」とイズミは言った。
「お、おいっ、イズミ、まさか。僕の思考を読み取ったのか!」
思わず大声を出した。テーブルが揺れた。
「いえ、そんなことはしていません。装置の発動は、勝手には行いません」
イズミは弁明するように言った。
ホッとして、「だったら、どうして、いかがわしいことを・・なんて言ったんだよ!」
「ミノルさんのお顔がとてもイヤらしく、かつ、この場に不適切な表情をしていたからです」
不適切って、すごい言い方だな。いずれにせよ、僕の勘違いか。
僕は話を元に戻し、
「今度の日曜日、つまり、7日後だ。会社のパーティがある。草壁グループ関連のパーティだ。その際、僕はもちろんのこと、飯山商事の山田課長夫妻も出席の予定だ」
サツキさんは、飯山商事には苦い思い出がある。サツキさんには過去を思い出して欲しくない。だから、今回はイズミだけだ。
「これだけは、言っておく。人の心を読むことは、倫理上、褒められたものではない。ハッキリ言って、すべきではないことだ。だが・・」
僕は、草壁会長のブログで見た動画の中の山田瞳子の瞳を思い出していた。
「どうしてか、わからないが、今の僕は、悪い予感しかしないんだ」
僕の感はよく当たる。
イズミが誘拐された時もそうだった。あの時は、山田課長の所有するドール、如月カオリの瞳を見た時からだ。その心配通り、イズミが拉致された。
そう言った僕に、サツキさんが、静かに湯呑茶碗を置き、
「お噂の山田夫人は、よからぬお仲間も多いと聞いています」と言った。
「仲間?」
「はい、仲間です。あるいは、業者繋がりとも言います。決して仲のいいお友達ということではありません。あくまでも相互利益に基づく繋がりのある人間関係です」
「どういうことですか?」
サツキさんは、「例えばですが」と前置きし、
「ワタシが、B型ドールだった頃、同じB型タイプの期限切れが迫っているドールが、行方不明になるということが何度か発生していました」
「期限切れ間近のドールが行方不明?」
僕はある光景の記憶を呼び戻した。
それは街の通りで、追手から逃げるB型ドールだ。黒服の男たちに捕えられたドールは、車の中に担ぎ込まれていた。その行方は知らない。
たまたま僕が見たくらいだ。B型ドールを捕えるという行為は日常的にあったのかもしれない。
「サツキさん。それって、ドールの横流し、みたいなものでしょうか?」
「そこまでは、ワタシにはわかりません。けれど、ワタシが、B型ドールの命を終え、Sドールとして生まれ変わったように、何らかの手を加えれば、命が尽きかけているドールにも、それなりの利用価値があると推察されます・・ワタシが言いたいのは・・」
「サツキさんが言いたいのは?」僕はサツキさんの話を促した。
「そのドールの流通に、先ほどの山田夫人が関与しているという噂があったことです」
山田瞳子は、何かの裏ビジネスのようなことをしていたのか。ドールの売買。それも、違法の。
それに加えて、あの女は、草壁ミチルにも近づいているし、清水さんから聞いた噂では、草壁夫人の座を狙っているとも聞いた。
得体が知れない。
そんな女を妻にしている山田課長も信じられない。そんな悪妻に全く関知していないとすれば、山田課長の頭の中は、よほど平和ボケでもしているのだろう。
サツキさんは続けて気になるこんなことを言った。
「ドールの闇売買くらいであれば、まだいいのですが、あの方は、第三者に自分に不都合なことを知られたりすると、その人間を排除するとも聞きました」
「排除?」
「つまり、邪魔な人間を、取り除く、ということです。グループ会社の人間が数名、不審な死を遂げている・・そんなことも聞きました」
にわかには信じがたい話だが、この世の中には、そんな信じられないことをする人間も存在する、ということだ。
「誰かの心に生まれた悪意は、更なる別の悪を生み出す・・そんな論理が、B型ドール間の並列思考の中にあります」
そうサツキさんは言った。
そんな論理の中心に、あの山田夫人、山田瞳子の悪意に満ちた瞳が浮かんでいた。
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