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そんな運命の物語①

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◆そんな運命の物語

 翌日、僕は会社のパソコンのディスプレイを凝視していた。
 そこには数枚の写真が載っている。ある人のブログの写真だ。
 パソコンでドールに関することを調べるのは、イズミの専用ケーブルを使えば、効率よく調べることができる。
 それは十分わかっている。
 しかし、今、調べていることや、この画面の写真は、イズミに見られたくない。
 いずれ、イズミにも分かることかもしれないが、今は知られたくない。

 そして、これらの写真を見ながら、僕は思っていた。
 これは、「運命なのだ」と。

 どうして、そんな調べものをしているか?
  あれから、いろいろあった。
 まず、エレナさんは、佐山さんが面倒を見る、そう言い出した。

「井村先輩、私に、この前のお返しをさせてください!」
 そう佐山さんは言った。
 お返し、というのは、僕が佐山さんから、B型ドールのサツキさんを押し付けられた形で預かったことに対するお返しだ。
 佐山さんは、飯山商事で廃棄寸前のサツキさんを引き取り、ファミレスに連れてきた。そして、家に持ち帰ることはできないから、僕に預かって欲しい、そう頼み込んだのだった。
 今度は、エレナさんを佐山さんが預かる。佐山さんはそう申し出たのだ。
「でも、僕がサツキさんを預かった時、佐山さんは、家には親がいるからダメって言っていたじゃないか」
 あのファミレスで、まるで捨て猫をどっちか預かるか、という話をしていた時、佐山さんはそう言っていた。
「実は、もう親に言ったんですよ」
 大丈夫か? 佐山さんの家、かなりの金持ちのようだが。
「父に、先輩の話をしたんですよ」
「僕の話?」
 少し、心がざわつく。娘が父親に、他の男性の話をする時は・・
「前回、私がサツキさんを先輩に無理に預けたことを、父に言ったら、父に言われたんですよ」
「なんて?」
「今度は、お前の番だ、って」
 今度は、佐山さんがドールを預かる番、ってことか。
 いや、それよりも佐山さんのお父さんのセリフ、格好いいな。

 そんな経緯で、僕は佐山さんの申し出を有難く受け入れることにした。
 ある程度、僕はエレナさんを預かることを覚悟していた。しかし、イズミに、サツキさん・・三体目のドールはさすがに、と思っていたところの佐山さんの行為だった。
 だが、エレナさんを佐山邸に連れて行く前に、することがあった。
 それは、エレナさんの治療・・というか、修理だ。
 まず、大阪の電気街に運び込み、修理を依頼した。その修理代金。Sドールのサツキさんを購入したくらいの費用だった。
 それでも佐山さんにしたら、大した金額ではなかったようで「先輩、ここの支払いは私が持ちますから」と、まるでお茶代のようにカードで支払った。
 問題の所有者情報の書き換えもした。
 エレナさんの新所有者は、佐山さんだ。
 佐山さんは、
「今度、飯山商事に行った時、山田課長と、内海さんに説明するつもりです」と言った。
 だが、内海はエレナさんを「どこかに捨ててくれ」と言っていたし、山田課長の方は、所有者を書き換えていなかったことを隠すつもりだろう。それに、「好きにしてくれ」と言っていた。
 僕がそう言うと、佐山さんは、
「けれど、こういうことはきっちりしておかないと」と応えた。
 佐山さん、いい人だ。

 先日、エレナさんは、
「今のワタシは、カオリさまに指示を受けています」と言っていた。
「どんな指示なんですか?」
 あの時、駐車場で、ローズが如月カオリに連絡をしていた時か。それ以降、エレナさんは、山田課長や内海の名前を出さなくなった。
「新しい所有者が、カードに書き込まれるまでの間、イムラさまにお仕えするように、と指示を受けています」
 そんなことを聞くと、男としては、エレナさんを守ってあげたい、そんな気持ちにも駆られる。
 ただ、それは、僕にもっと甲斐性があり、住む家が大きければの話だ。
 
 所有者情報については、佐山さんはこうも言っていた。
「なんか、所有者情報って、イヤですよね。ドールが、その情報に左右されるなんて」
「しかし、それがA型ドールの特性だからな」
「でも、先輩、ペットだって、そんなものはないですよ。ペットは一緒に暮らしているうちに、買い主に懐くのに」
「けどな、佐山さん」
「なんですか? 先輩」
「ドールは、ペットでもないんだよ」
 佐山さんはしばらく沈思した後、「そうですね」と応えた。
 ドールは、ペットでもないし、もちろん人間でもない。
 だったら、ドールは何なのだ。
 それに明確な答えはまだ見出せていない。
 如月カオリは、ネットの海でこう呟いていた。
「人間は、『人間とは何か?』の回答をまだ見つけていないのに、『AIとは、何か』と、知ろうとする。人間はそんな愚かしい存在だ」と。
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