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フロンティア②

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◆フロンティア②

 夜、隣の島本さんが訪ねてきた。
「井村くん・・イズミちゃん。大丈夫だった?」
 島本さんは心配そうな声で言った。
 すると、イズミが奥から出てきて「島本のおばさん、ごシンパイをおかけしました」と一礼をした。なぜか、島本さんセレクトの帽子を被っている。

 僕が誘拐事件の顛末を簡単に説明すると、
「よかったわね、イズミちゃん。お父さん・・いえ、井村くんに助けてもらったのね」とイズミに声をかけた。
「ハイ、ワタシのお友達のミノルさんは、とても勇ましく、ひどく要領を得ていました」と意味不明の日本語を並べた。
 島本さんはその言葉に笑った後、
「あら、いい匂いね」と言った。
 イズミが、「今晩は、ミノルさんの大好物のカレーでございます」とおかしな言い方で言った。
「井村くん、いいわねぇ」
 その言葉を受けて、僕は、
「よかったら、島本さんも・・」と言った。「実は、カレーといっても、二人はドールなので、僕しか食べることができないんですよ」
「ドールが二人?」
 島本さんがそう言うと、タイミングよく、奥からサツキさんが出てきた。
「え・・サツキさん?」
 サツキさんの姿を認めた島本さんは目を丸くした。
 僕がこれまでの経緯を説明すると、「そういうことだったの」と早い理解を示した。
「じゃあ・・私のお古・・この前、返してもらったのをまだ置いてあるわよ」
 島本さんはそう言って、いったん部屋を出てまた戻ってきた。
「すみません、島本さん」
 有難く、島本さんからサツキさん用の服を頂いた。

 サツキさんは僕がいるのにも関わらず、さっそく着替えを始めた。
 思わず顔を背けると、イズミが、「ミノルさん、サツキさんの裸、前回は見損なったのではありませんか?」と囁くように言った。
 サツキさんの裸体・・あの巨大ホールに身を投げる瞬間に、僕は見ている。
 綺麗だった・・
「キレイだった・・」僕の横でイズミがそう言った。
「おい、イズミ、僕はそんなことは言っていないぞ」と言うと、
「ハイ、ミノルさんはそのようなことは申しておりません」とイズミは言って、
「でも、先ほどの言葉で、綺麗だと思っていた・・と、ご推察されます」と断言した。
 
 決してサツキさんの裸体を見ることはなかったが、服の上からでも以前のB型ドールの体よりもふくよかになっているのが見て取れる。それが主にセクサロイドに供されるSドールたる所以だ。

 そんな会話を眺めながら、
「井村くんとイズミちゃん・・本当に仲がいいのねえ」と、島本さんが微笑む。
「いや、僕とイズミは、そんなのでは・・」僕が弱く否定する。
「ミノルさんとワタシは、とても仲のいいオトモダチです」イズミが強く肯定する。

「お着替えが終わりました」とサツキさんが報告する。まるで披露するようにその場でくるりと一回転した。「どうでしょうか?」
 島本さんはお古の追加として、新たに紺のジャケットも持ってきてくれた。
「私の若い頃の服だけど、サツキさんにはピッタリね」
 島本さんが感慨に耽る。
「島本さんは、まだお若いですよ」と僕は不慣れな言葉を言った。
「うふっ」と島本さんは笑った。「井村くんも、そんなことを言うのね」
 やはり僕には似合わないセリフだったようだ。
 島本さんは、イズミやサツキさんの引き留めもあり、結局、わが家で食事をすることになった。
「家でもたいした食事を用意していなかったから、よばれようかしら」
 食事をしている間、サツキさんとイズミに見られながら、島本さんは食べることになった。少し恥ずかしいのか、静かに食べている。
「これ、井村くん好みの味なのね」
 島本さんはそう言うと、イズミが「ハイ、ミノルさんは、このような味がお好きの用です」と言って、サツキさんも、「イムラさんは辛口派なのです」と言った。

 食べ終えると、「美味しかったわ」と言った。「ごちそうさま」
「でも、私にはよくわからないのだけれど、ドールたちが、こんなに美味しいものを作るなんて、ちょっと信じられないわね」と感慨深く言った。
「実は、僕にも信じられないのですよ。今でも・・」
「いつか、私たち人間も用済みになる日が来るかもしれないわね」
 そんな島本さんの冗談のような言葉に僕は、
「それはならないと思いますよ」と真面目に返した。
 そして、
「僕自身が用済みだと思っていても、彼女たちが・・」とイズミとサツキさんを見ながら、
「彼女たちが、そうはさせてくれません」と言った。
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