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ローズ①

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◆ローズ

 そのドールはこう言った。
「私の存在に、気づかなかったのかしら?」
 振り返ると、そこには、飯山商事の玄関先で見かけたOLの制服を着たA型ドールが立っていた。匂い立つような色香が薄暗い部屋に広がった。
「跡をつけていた?」
 ちょっと、待て。僕とサツキさんはここに車で来たんだぞ。
「うふふっ」とA型ドールが笑った。
「残念ながら、運転はできないわ」と言って、
「でも、ワタシの言うことなら、何でも聞く社員はいくらでもいるのよ」と続けた。
 さっき見かけた時は、それほどまでとは思わなかったが、このドール、かなり扇情的な容貌を備えている。
 ひょっとしたら、このセクシー系の体を生かし、男たちを翻弄させているのではないだろうか? いや、たぶんそうだ。 
 しかし、そんな行動は、このドールの所有者の本意なのだろうか?

 それと、このドールがここにいることで、分からないことがある。
「お前たち二人は思考が繋がっているのか?」
 そうでないと彼女が、ここに来たことの辻褄が合わない。
 すると、女豹のような如月カオリが、
「ローズは、ワタシが呼んでおいたのよ」と言った。
どうやら「ローズ」というのがこのセクシー系ドールの名前のようだ。

「どうやって彼女をここに呼んだんだ? 電話でもかけたのか?」
 並列思考のB型ドールなら、電話なしで呼ぶことが可能かもしれない。だが、A型ドールは孤立型だ。思考は個別だ。ドール間で繋がってはいない。
 すると、如月カオリは、
「ワタシは、ローズのようなA型ドールにとって、人間で言うところの『神』的存在なのよ」
「A型ドールの神だと?」
 如月カオリは、ふざけているのか。
「神さまより、ドールの持ち主はどうなっている? このローズにも所有者が飯山商事にいるだろ」
 ローズの所有者は、あの時、見かけた飯山商事の専務か?
「A型ドールは、その所有者よりも私の命令を優先させる。私の命令は絶対なのよ」
「そんな・・」
 僕は言い澱んだ。有り得ない。
 そんなことがもしあったのなら、秩序・・人間界の秩序が崩壊する。
 大勢のA型ドールは、人間の命令を無視して、如月カオリのような新型ドールの命令しか受け付けないようになる。

 ・・この如月カオリという新型ドールを破壊しなければいけない。
 僕の中にそんな気持ちが沸き上がった。

「秘書ドールのエレナさんも、お前の命令で動いたのか?」
 イズミを連れ去っていったのは、このローズではなく、内海の所持する秘書ドールのエレナだ。
 僕の詰問に如月カオリは、
「ああ、あのそれくらいしかできないドールのことね。そうそう、エレナとか言ったわね」
 それくらいしかできない? あの秘書ドールのエレナが・・
 それにしても、人間社会の縦横のような関係が、ドールにもあることが、衝撃的だ。
 エレナさんは数回会っただけだが、僕には、ごく平均的なA型ドールに見受けられた。
 そんなエレナさんを如月カオリは役に立たない部下のように見下している。

 如月カオリは「そういうことなのね」と笑った。
「そこのB型ドールが、『ワタシが調べました』と言っていたのは、エレナからデータを抽出したというわけね」
「そうだ。ケーブルを使ったんだ」
 そう言うと、
「本当に、役に立たない者は、とことん役に立たないわね」と淡々と言った。

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