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三人目のA型ドール③
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「そんなことよりも・・」と言って、
如月カオリは、体からケーブルを抜き去ると、すっと立ち上がった。
そして、サングラスを取り外しすと、
そこから現れたのは、宝石のような碧い瞳だった。
彼女が立ち上がっても、イズミはそのままだ。やはり、充電切れか。
「どうして、ワタシのいる場所がわかったの?」
その口調は前に会った時に比べて、荒っぽい。
その質問に、サツキさんが前に出た。
「ワタシが、調べました」
そう答えたサツキさんの体を如月カオリはチェックするように見た。
「B型ドールのAIを装備したドールね」
如月カオリは、サツキさんをそう評価した。
「正しくは・・Sドール。そして、名前は『サツキ』さんだ」と僕は言った。
サツキさんには興味を示さず、如月カオリは改めて僕に向き直ると、
「それで、ここに何の用なの?」ときつく言った。
「イズミを返してもらいに来た」と僕は強く言った。
「この幼女ドール・・そんな名前があったのね」
如月カオリは瞬きのない碧い瞳を足元のイズミに向けこう言った。
「このドールには興味があるのよ」
「イズミに興味?」
「ええ、実に興味深いわ」と彼女は繰り返し言った。
「最初、このドールを見た時に思ったわ・・この子、実に二つの心がバランスよく共存しながら、一つの器の中に存在しているのよ」
イズミに二つの心があるのは知っている。
僕の思念と隣の住居人の島本さんの思念だ。
如月カオリはこう続けた。
「このタイプのドールが、フィギュアプリンターで作成されるのは、稀有なことなの。あなたには、それが分かっていないようね」
「そんなこと、わかるわけがない」
更に如月カオリはこう説明した。
「本来、思念で作成するプリンターの場合、どちらかの思念が優位に立って、小さな方の思念は自然と消えていくのよ」
「小さな思念は消えるのか・・」
「けれど、このドールの中の、あなた以外の思念・・もう一人の女性の思念は、かなり強い・・強いせいで、このドールの中で、二つの思念がせめぎ合ったり、又は慰め合ったりしているのよ」
島本さんの思念が強い。それほどまでの想いとは一体。
そう如月カオリは説明した後、イズミを見下ろしながら、
「この幼いドールの心・・これからのドール社会に役に立つ素材なのかもしれないのよ」と言った。
よくわからない・・このドールの考えていることはよくわからないが、いずれにしろ、イズミは渡さない。
それにしても・・
「あんた・・本当にAIドールなのか?」
話し方も流暢だし、人間と対等にしゃべるし、その肌の質感と、碧い瞳を除けば、人間の女性と大差ない。
「ええ、もちろん」彼女は自信たっぷりに答えた。
「なんだかずいぶん、人間よりも偉そうな口ぶりに聞こえるがな」
そう言った僕に、
「あら、人間がAIドールより偉いなんて、いったい誰が決めたのかしら?」
「ドールは人間が創ったものだ」と僕は言った。
しかし、如月カオリは、
「人間は・・神が人間を創ったと思っている。しかし、ワタシは、ドールは人間が創ったとは思ってはいない」
「だったら、何だよ」
僕がぶっきら棒に言うと、
「ワタシは、人間にとって必然的存在だった」
如月カオリの口調が変わった。
「必然?」
「ワタシたち新型A型ドールは、生まれること自体が、人間の歴史の中に組み込まれている」
人間の歴史・・意味が分からない。
僕のそんな様子を見て、如月カオリは、
「話ついでに教えてあげるわ」と言った。
「私の思考中枢のAI・・つまり人間でいうところの私の脳は・・『人間』のものなのよ」
「人間の脳だと?」
「ええ、そうよ・・正確に言うと、人間の脳の『コピー』よ。コピーを移植した方が、ドールはより人間に近く、よりいいドールに仕上がるっていうわけなの」
脳のコピー・・そんなことは・・
「ありえない」
そう僕が断言すると、如月カオリは大きく笑って、
「今、信じなくても、いつか、信じなければならない時がやってくるわ」と言った。
饒舌に話す如月カオリに、
「いずれにせよ。イズミは返してもらう」
と、僕は強行に出た。
「まだ、返すわけにはいかないわ。まだ調べることがあるの」
返さないつもりか。
「無理にでも、イズミを返してもらう」
と、僕は言って、「こっちにはサツキさんもいる。2対1だ」と更に強気に出た。サツキさんにもドールとしての力がある。
だが、如月カオリは不敵な笑いを浮かべて、
「そう上手くいくかしら?」と言った。
そう彼女が言った時、
今まで気がつかなかったが、僕たちの背後に、スーッと人影が伸びていた。
如月カオリは、体からケーブルを抜き去ると、すっと立ち上がった。
そして、サングラスを取り外しすと、
そこから現れたのは、宝石のような碧い瞳だった。
彼女が立ち上がっても、イズミはそのままだ。やはり、充電切れか。
「どうして、ワタシのいる場所がわかったの?」
その口調は前に会った時に比べて、荒っぽい。
その質問に、サツキさんが前に出た。
「ワタシが、調べました」
そう答えたサツキさんの体を如月カオリはチェックするように見た。
「B型ドールのAIを装備したドールね」
如月カオリは、サツキさんをそう評価した。
「正しくは・・Sドール。そして、名前は『サツキ』さんだ」と僕は言った。
サツキさんには興味を示さず、如月カオリは改めて僕に向き直ると、
「それで、ここに何の用なの?」ときつく言った。
「イズミを返してもらいに来た」と僕は強く言った。
「この幼女ドール・・そんな名前があったのね」
如月カオリは瞬きのない碧い瞳を足元のイズミに向けこう言った。
「このドールには興味があるのよ」
「イズミに興味?」
「ええ、実に興味深いわ」と彼女は繰り返し言った。
「最初、このドールを見た時に思ったわ・・この子、実に二つの心がバランスよく共存しながら、一つの器の中に存在しているのよ」
イズミに二つの心があるのは知っている。
僕の思念と隣の住居人の島本さんの思念だ。
如月カオリはこう続けた。
「このタイプのドールが、フィギュアプリンターで作成されるのは、稀有なことなの。あなたには、それが分かっていないようね」
「そんなこと、わかるわけがない」
更に如月カオリはこう説明した。
「本来、思念で作成するプリンターの場合、どちらかの思念が優位に立って、小さな方の思念は自然と消えていくのよ」
「小さな思念は消えるのか・・」
「けれど、このドールの中の、あなた以外の思念・・もう一人の女性の思念は、かなり強い・・強いせいで、このドールの中で、二つの思念がせめぎ合ったり、又は慰め合ったりしているのよ」
島本さんの思念が強い。それほどまでの想いとは一体。
そう如月カオリは説明した後、イズミを見下ろしながら、
「この幼いドールの心・・これからのドール社会に役に立つ素材なのかもしれないのよ」と言った。
よくわからない・・このドールの考えていることはよくわからないが、いずれにしろ、イズミは渡さない。
それにしても・・
「あんた・・本当にAIドールなのか?」
話し方も流暢だし、人間と対等にしゃべるし、その肌の質感と、碧い瞳を除けば、人間の女性と大差ない。
「ええ、もちろん」彼女は自信たっぷりに答えた。
「なんだかずいぶん、人間よりも偉そうな口ぶりに聞こえるがな」
そう言った僕に、
「あら、人間がAIドールより偉いなんて、いったい誰が決めたのかしら?」
「ドールは人間が創ったものだ」と僕は言った。
しかし、如月カオリは、
「人間は・・神が人間を創ったと思っている。しかし、ワタシは、ドールは人間が創ったとは思ってはいない」
「だったら、何だよ」
僕がぶっきら棒に言うと、
「ワタシは、人間にとって必然的存在だった」
如月カオリの口調が変わった。
「必然?」
「ワタシたち新型A型ドールは、生まれること自体が、人間の歴史の中に組み込まれている」
人間の歴史・・意味が分からない。
僕のそんな様子を見て、如月カオリは、
「話ついでに教えてあげるわ」と言った。
「私の思考中枢のAI・・つまり人間でいうところの私の脳は・・『人間』のものなのよ」
「人間の脳だと?」
「ええ、そうよ・・正確に言うと、人間の脳の『コピー』よ。コピーを移植した方が、ドールはより人間に近く、よりいいドールに仕上がるっていうわけなの」
脳のコピー・・そんなことは・・
「ありえない」
そう僕が断言すると、如月カオリは大きく笑って、
「今、信じなくても、いつか、信じなければならない時がやってくるわ」と言った。
饒舌に話す如月カオリに、
「いずれにせよ。イズミは返してもらう」
と、僕は強行に出た。
「まだ、返すわけにはいかないわ。まだ調べることがあるの」
返さないつもりか。
「無理にでも、イズミを返してもらう」
と、僕は言って、「こっちにはサツキさんもいる。2対1だ」と更に強気に出た。サツキさんにもドールとしての力がある。
だが、如月カオリは不敵な笑いを浮かべて、
「そう上手くいくかしら?」と言った。
そう彼女が言った時、
今まで気がつかなかったが、僕たちの背後に、スーッと人影が伸びていた。
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