初恋フィギュアドール ~ 哀しみのドールたち

小原ききょう

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レーゾンテートル①

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◆レーゾンテートル

 その日の夕方・・会社の佐山さんからメールが届いた。
「井村先輩、サツキさんの最期は・・どうでしたか?」
 えっ? 佐山さんたちには、僕はフロンティアに「下見に行くだけ」と言ったはずだが・・
 さっそく返信しようと思っていると、続けて佐山さんからメールが届いた。
「先輩・・嘘が下手ですね。清水さんも植村先輩も知ってますよ。サツキさんの寿命が尽きる日が、今日だってことは」
 そう言えば、佐山さんとサツキさんを受け取る際に、僕が、「サツキさんの最期の日はいつなんだ?」と訊いたんだった。
 その日についてはサツキさん自らが答えていたし、その場には佐山さんもいた。
 つまり、僕は皆に嘘をついたことになる。彼ら三人には、僕は一人でフロンティアに下見に行くと言っていたのだから。
 僕一人でフロンティア、いや、廃棄場に行った理由。
 それは、イズミを女性陣に見られたくなかったこと。それと僕が人付き合いの悪いこと、その二つが理由だ。

「ごめん、佐山さん・・特にそんなつもりはなかったんだけど、あまり大勢で行くのもサツキさんに悪いかなって思って」
 流すような嘘をつき、返信した。
「先輩、謝ることはないですよ。これでも私なりに、井村先輩の性格を分かっているつもりですから」
 そんな返事が返ってきた。僕の性格? 人嫌い?
「ごめん、佐山さん」重ねて送信する。
 すると、
「それで、フロンティアはどうでした? 先輩、行ったんですよね? サツキさんは稼働を止めたのですよね?」と訊かれた。
 僕は正直に、
「サツキさんは、自ら命を絶った。フロンティアは、予想通りの、B型ドールの廃棄場だった」と送信した。
 僕の送信の後、しばらく間が開いた。
「サツキさんは・・フロンティアが、ドールの廃棄場だと分かって、悲しんでましたか?」
「それが、ちょっと複雑なんだ・・サツキさんは、ここがフロンティアでないことを知ったその事実を隠した・・ つまり、記憶を書き換えたんだ」
「えっ・・どういうことですか?」
「B型ドールは共通の思考を持っているから、現在、業務に従事している同じドールたちに廃棄場の現実を知られまいとしたんだ」
「そんな・・」
 絶句のような返事が届いた。
 そのメールに対して、僕は、
「そういうことをするのは、別にサツキさんに限ったことではなく、廃棄場に自害しに来たB型ドールは、みんなそうするらしいんだ」
「先輩・・そんなの悲しすぎます」
 メールの向こうに佐山さんの悲しむ顔が見える気がした。
 そんな悲しいメールの文章に、僕はこう返信した。
「サツキさんには、また会える・・ただ、それには時間が必要だ」 

 佐山さんに、B型ドールの並列思考の説明を一通り済ませると、
 佐山さんは、「清水さんと植村先輩にも、この話をしておきますね」と言った。
 そして、佐山さん、いい子だな・・純粋にそう思った。
 僕は、こんな女の子に恋をすべきだったのかもしれない。
 けれど、僕が恋をしたのは、佐山さんのような心優しい子ではなかった。

「僕とつき合ってください!」
 たぶん、そう言ったのだと思う。
「まずは友達から」ではなく、ダイレクトにそう言った。
 浅丘泉美・・それが僕が告白した相手の女の子の名前だ。
 高校時代、衝動にまかせて告白してしまった。
 その頃の僕は今よりも人付き合いが悪かった。それ故に、当然、クラブなどには入らず、3年間、帰宅部を続けていた。
 そんな僕でも、人並みに恋くらいはした。
 そんな恋の果てに、告白をした結果、あえなくふられた。

 これも人並みにふられた・・そう思えばいい。そう納得することにした。
 しかし、男というものは未練たらしいものらしく、こうして、何年かに一度、卒業写真を覗いては、溜息をついている。
 そして、こう思う。
 ・・初恋の告白は、僕のとって人生の最大の汚点だ。
 つまり、感情を第三者にさらけ出して、その感情を否定された・・そういうことだ。
 
 初恋の相手、浅丘泉美・・その顔は、高校の卒業写真の中に佇んでいる。いつまでも年をとらないでいる。
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