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並列思考①
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◆並列思考
今、僕は愛車の軽自動車ムーヴの中にいる。助手席にはイズミが乗っている。車の中なのに、イズミはお気に入りの帽子をかぶっている。
時刻は夕刻・・
そして、僕とイズミの視線の先にはサツキさんがいる。
サツキさんは・・今、買い物をしているのだ。
ここは、近所の古びたアーケードもない商店街。空きテナントが並び、空地も多い。そんな場所だ。そんな場所の道路脇に車を停めて、サツキさんの様子をイズミと二人で伺っている。
サツキさんの姿と行動は、違和感なく風景に溶け込んでいる。
「イズミ・・よく見ておくんだぞ。あれが『買い物』というものだ」
僕の言葉にイズミは、「あれが、カイモノ・・」と復唱した後、
「買い物ですね・・店舗に行き、貨幣を使って、日用品、食料品・・または趣味の物をお買い求めになる行為ですね。英訳でショッピングと言います・・ミノルさんがいつもされているのは、ネットショッピングと言います。ネットショッピングは無駄使いが多いそうです」
最後の言葉は余計だ!
店の人は、サツキさんがAIドールだと気づいている・・そう認識している。
しかし、誰も通報はしない。店側も商売だし、通報しても賞金が貰えるような制度も今のところはない。
サツキさんは僕の買い物メモの通り、買い物を続けている。
AIドールがメモを持って・・似つかわしくない行為だ。しかし、仕方ない。
サツキさんは、新しい情報を覚える能力が失われるつある。
人間で言えば、軽度の認知症だ。
もちろん、基本的なことは並列思考から取り込み、することができる。先日の料理などもその一つだ。
しかし、ごく簡単な記憶。例えば、塩、コショウを買ってくること。そんなことができない。
それでも、昨晩、サツキさんは、
「数件なら、覚えることはできます」と言った。だが自信なさげだ。
だから、僕は、
「だったら、無理に覚えなくていいです。このメモを持って買い物をしてください。他のドールが経験しなかったことができる・・人間みたいなことができる・・それもいいじゃありませんか」と言った。
そう言った僕に、サツキさんは微笑み、「イムラさんはとてもお優しいのですね」と言った。
「優しいのではないと思いますよ・・ただ僕は・・」
「ただ、ボクは?」サツキさんはイズミのように復唱した。
「僕は、知りたいのです・・AIドールのことも知りたいですが、人間のことも・・」
「人間のことも?」
「ええ・・」
イズミが「ワタシはどこから生まれ・・そして、どこへ行くのか?」と疑問を投げかけたように、僕も人間としてそんなテーマを抱いて生きている。
そのヒントになる手がかりを、イズミや、サツキさんと行動を共にすることにより、見つけられそうな気がする。
「・・リョウカイしました」
綺麗な声でB型ドールのサツキさんは言った。
そして、
「イムラさんなりの答を見つけてくださいね」と言った。「イムラさんなら、きっとお見つけになられると思います」
そして、そんな昨夜の僕とサツキさんの会話をイズミは横で聞いていた。
「サツキさん・・ダイジョウブそうですね」
イズミが助手席の窓からサツキさんの様子を見ながら言った。
「イズミ、よく見て、憶えておくんだぞ・・サツキさんの行動を」
そう言った僕は、いずれイズミにも同じように買い物をさせようと思っている。
その目的は・・サツキさんの場合と同じだ。イズミにもできるだけ人間の行動を覚えさせたい。
AIドールの行動や思考を人間に近づけていく。
僕はそんな試みをしようとしている。
「イズミは見て覚えます。ミノルさんのことも見たり、聞いたりして覚えました」
澄ました顔でイズミは言った。
「僕のことも?」
「ハイ・・ミノルさんのお好みや性格などもイズミは熟知しています」
なんかイヤな感じだな・・たぶん僕のセコイところとか、僕の人嫌いのことを頭に刻みつけているのだろう。そこは、あえて突っ込まないでおくことにする。
しばらくすると、
サツキさんは、僕らがいる車に向かってきた。少し早歩き・・それがサツキさんの気持ちを表しているように思えた。
サツキさんは後部席のドアを開け、中に入ると、
「イムラさん・・これを」と買い物袋を差し出し、その中身を僕に見せた。
そして、「どうですか? 合ってますか?」と訊いた。
中身は僕の書いたメモ通りだった。間違った商品は一つも入っていない。
「サツキさん、大丈夫ですよ」
その言葉に、イズミも、「サツキさん、すごいです」と称えた。
僕たちの言葉に、サツキさんの顔から笑みがこぼれた。
僕はイズミに、
「どうだ? イズミもできそうか?」と尋ねた。
「サツキさんの行動をデータとして、取り込みました。今度の買い物は、ワタシにやらせてください。きっとミノルさんは、優秀なイズミをお褒めになると思います」
うーん・・言葉が少しおかしいが、まあ良しとする。
今、僕は愛車の軽自動車ムーヴの中にいる。助手席にはイズミが乗っている。車の中なのに、イズミはお気に入りの帽子をかぶっている。
時刻は夕刻・・
そして、僕とイズミの視線の先にはサツキさんがいる。
サツキさんは・・今、買い物をしているのだ。
ここは、近所の古びたアーケードもない商店街。空きテナントが並び、空地も多い。そんな場所だ。そんな場所の道路脇に車を停めて、サツキさんの様子をイズミと二人で伺っている。
サツキさんの姿と行動は、違和感なく風景に溶け込んでいる。
「イズミ・・よく見ておくんだぞ。あれが『買い物』というものだ」
僕の言葉にイズミは、「あれが、カイモノ・・」と復唱した後、
「買い物ですね・・店舗に行き、貨幣を使って、日用品、食料品・・または趣味の物をお買い求めになる行為ですね。英訳でショッピングと言います・・ミノルさんがいつもされているのは、ネットショッピングと言います。ネットショッピングは無駄使いが多いそうです」
最後の言葉は余計だ!
店の人は、サツキさんがAIドールだと気づいている・・そう認識している。
しかし、誰も通報はしない。店側も商売だし、通報しても賞金が貰えるような制度も今のところはない。
サツキさんは僕の買い物メモの通り、買い物を続けている。
AIドールがメモを持って・・似つかわしくない行為だ。しかし、仕方ない。
サツキさんは、新しい情報を覚える能力が失われるつある。
人間で言えば、軽度の認知症だ。
もちろん、基本的なことは並列思考から取り込み、することができる。先日の料理などもその一つだ。
しかし、ごく簡単な記憶。例えば、塩、コショウを買ってくること。そんなことができない。
それでも、昨晩、サツキさんは、
「数件なら、覚えることはできます」と言った。だが自信なさげだ。
だから、僕は、
「だったら、無理に覚えなくていいです。このメモを持って買い物をしてください。他のドールが経験しなかったことができる・・人間みたいなことができる・・それもいいじゃありませんか」と言った。
そう言った僕に、サツキさんは微笑み、「イムラさんはとてもお優しいのですね」と言った。
「優しいのではないと思いますよ・・ただ僕は・・」
「ただ、ボクは?」サツキさんはイズミのように復唱した。
「僕は、知りたいのです・・AIドールのことも知りたいですが、人間のことも・・」
「人間のことも?」
「ええ・・」
イズミが「ワタシはどこから生まれ・・そして、どこへ行くのか?」と疑問を投げかけたように、僕も人間としてそんなテーマを抱いて生きている。
そのヒントになる手がかりを、イズミや、サツキさんと行動を共にすることにより、見つけられそうな気がする。
「・・リョウカイしました」
綺麗な声でB型ドールのサツキさんは言った。
そして、
「イムラさんなりの答を見つけてくださいね」と言った。「イムラさんなら、きっとお見つけになられると思います」
そして、そんな昨夜の僕とサツキさんの会話をイズミは横で聞いていた。
「サツキさん・・ダイジョウブそうですね」
イズミが助手席の窓からサツキさんの様子を見ながら言った。
「イズミ、よく見て、憶えておくんだぞ・・サツキさんの行動を」
そう言った僕は、いずれイズミにも同じように買い物をさせようと思っている。
その目的は・・サツキさんの場合と同じだ。イズミにもできるだけ人間の行動を覚えさせたい。
AIドールの行動や思考を人間に近づけていく。
僕はそんな試みをしようとしている。
「イズミは見て覚えます。ミノルさんのことも見たり、聞いたりして覚えました」
澄ました顔でイズミは言った。
「僕のことも?」
「ハイ・・ミノルさんのお好みや性格などもイズミは熟知しています」
なんかイヤな感じだな・・たぶん僕のセコイところとか、僕の人嫌いのことを頭に刻みつけているのだろう。そこは、あえて突っ込まないでおくことにする。
しばらくすると、
サツキさんは、僕らがいる車に向かってきた。少し早歩き・・それがサツキさんの気持ちを表しているように思えた。
サツキさんは後部席のドアを開け、中に入ると、
「イムラさん・・これを」と買い物袋を差し出し、その中身を僕に見せた。
そして、「どうですか? 合ってますか?」と訊いた。
中身は僕の書いたメモ通りだった。間違った商品は一つも入っていない。
「サツキさん、大丈夫ですよ」
その言葉に、イズミも、「サツキさん、すごいです」と称えた。
僕たちの言葉に、サツキさんの顔から笑みがこぼれた。
僕はイズミに、
「どうだ? イズミもできそうか?」と尋ねた。
「サツキさんの行動をデータとして、取り込みました。今度の買い物は、ワタシにやらせてください。きっとミノルさんは、優秀なイズミをお褒めになると思います」
うーん・・言葉が少しおかしいが、まあ良しとする。
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