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二人のドール②
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家で二人のドールが僕の帰りを待っている。
そう思い帰路につくと、電話があった。ディスプレイに「自宅」とある。
自宅から電話をかけてくるのは一人しかいない。
通話ボタンを押すと、
「ミノルさんですか?」と可愛い女の子の声が聞こえた。僕が「そうだ。僕だよ」と答えると、
するとイズミはこっちから電話した時のように、
「『ボク』ですか?・・ショウショウお待ちください」と言った。
まさか、「僕」を認識するのに時間がかかるんじゃないだろうな。しばらくして、
「ミノルさんの声をニンショウしました」
「おい、面倒臭いぞ。そっちから電話をかけたんだから、僕しかいないじゃないか」と強く言って聞かせた。
するとイズミは、「ボクしかいない」と復唱し「ミノルさんが二人いたら、ワタシはどうしたらいいのでしょうか?」と言った。
僕は「申し訳ない・・言ってることの意味がわからない・・それより早く、要件を言ってくれ。こう見えても僕は色々と忙しんだ」とイズミを急かして、「サツキさんは大丈夫か?」と確認した。
「そのことでミノルさんにお電話をおかけしました」
まさか!
「おい、サツキさんに何かあったのか?」思わず大きな声を出した。
佐山さんからの預かりものなので、何かあったりしたら大変だ。
僕が訊ねるとイズミは、
「ミノルさん・・お水が足りません」と言った。
水かよっ!
そんなことにまで考えが及ばなかった。
ドールはミネラルウォーターを必要とする。
ドール用の錠剤は植村からお母さんドールの件のお礼だと言ってもらっているので余分にある。
しかし、水の買い置きはそれほどない。イズミの分だけ、それと僕の分と。
それくらいしか用意していなかった。
「わかった。帰りにどこかで水を買って帰るよ」と僕はイズミに言った。
家に辿り着き、玄関を開けると、二人のドールがこちらを向いて座っている。
イズミはいつものペタン座り、サツキさんは正座をして僕の帰りを待っていた。
妙に照れる。
数週間前までは帰っても真っ暗で誰もいなかった。一人寂しい部屋だった。
それが今やこの状態だよ。蛍光灯の下にドールが二体いる。
それも幼児体型と大人の女性型だ。セクシー型とまではいかないが、十分にその対象になる体つきだ。
母が見たらびっくりするだろうな。家にはしばらく来ないでいい、と母に電話しておこう。
イズミが「おかえりなさい。ミノルさん」と言って僕の手荷物をチェックして「お水、忘れずに買われたのですネ」と言った。
サツキさんは「イムラさん。大変、申し分けありません。私のようなものにお水を用意して頂いて」と両手を畳の上に揃えて丁寧に言った。
そんな風に言われるとこちらが恐縮してしまう。
それより、サツキさんの外観が気になった。
髪はバサバサではなく、着衣の乱れも整っているし、顔にあった擦り傷が綺麗になっている。
「サツキさん・・昼間より、きれいに・・」と僕が言いかけると、
サツキさんは「はい、イズミさんにして頂きました」と答えた。
イズミは立ち上がって、
「そうです。ワタシが致しました。髪は私が櫛で整え、顔の傷は私の分の水で修復しました」と得意気に言った。
「水で修復?」
「ハイ・・と言っても、サツキさんが水を飲んで勝手に自動修復をしただけですが」
そうイズミは説明した。
自動修復って、すごいな・・人間の自然治癒よりも進んでいる。
イズミは「ミノルさん。シャワーも勝手に使いました」と言った。
「シャワーをだとっ!」
「そんなにおどろかないでください」
「いや・・そうじゃなくて」
ドールは感電、漏電とかしないのかな・・
「それで、服は? サツキさんのスカートの腰の部分が裂けていただろ」
まさか、イズミが縫った? いや、それはないない・・と決めつける。
サツキさんの紺のタイトスカート・・
放っておいてもいいような裂け方だったが、女性なら気になるところだ・・いや、サツキさんはドールだ。気にしないのかもしれない。
するとイズミが、
「サツキさんのおスカートは、お隣の島本オバサンに縫い合わせて頂きました」と言った。
島本さんが!
驚く話ばかりだ。今まではイズミ一人だったが、二人になると、留守中にこうも動き回られるのか。
「おいっ、どうして、島本さんが・・」と僕が問い詰めると、
「島本オバサンは『廊下を歩いていたら、女の人同士の話し声が聞こえたから、おかしい、と思って』・・そうおっしゃっていました・・心配になって、と・・」
「まさか、呼び鈴に出たのか?」と更に強く問い詰めるとイズミは、
「はい、ヨリリンに出ました。島本オバサンであればよろしいのでは? と推察いたしました」と答えた。
「よりりんじゃなくて、よびりんだ」
と訂正させると、
「ミノルさん、お声とお顔がトテモ怖いです」と小さく言った。
こんな顔だ。
「まあ、いい・・それで・・島本さんが来たんだな?」とイズミに言うと、
「島本のおばさんが『イズミちゃん、何か、あったの?』とお聞かれになるので、サツキさんのスカートをお見せしました。すると、島本おばさんは自分の部屋からお裁縫の道具をお持ちになり、お直しをされました。それはもう、手際がよく、ミノルさんにもお見せできなかったのが残念なくらいのレベルでした」と前後関係を説明した。
よくしゃべるな・・言葉が無茶苦茶だが、ま、何となくわかった。
イズミはまくし立てた後、
「ミノルさん、お疲れでしょう・・お茶を入れましょうか?」と言った。
お茶を入れるのが、得意になったようだな。
僕はコンビニ弁当をテーブルに置き、ありがたく、イズミにお茶を沸かしてもらうことにした。
キッチンに立つイズミの後ろ姿を見ながら思ったのだが・・
「あの・・サツキさん」と呼びかけた。
もしかして・・料理とか・・
「なんでしょうか? イムラさん」とB型ドールのサツキさんは正座姿勢のまま応えた。
「料理とか・・お出来になるんですか?」と僕は丁寧に訊ねた。
そこへすかさずキッチンからイズミが顔を出し、
「ミノルさん・・お言葉使いが変です・・」と指摘した。
そして、「ワタシと話す時とエライ違いです・・大違いです」と怒り口調となった。
「いや、それは、僕が相手に合わせているからだ。仕方ない」
「そうでしょうか・・ワタシに対してはぞんざいな物言いのような気がしますが」
ぞんざいという言葉、物言いという言い方。
イズミは怒る時の語彙は豊富だな。
そんな僕とイズミの会話を聞いた後、
「お料理なら・・いちおう出来ると思います」とサツキさんが言った。
一応できる・・?
「ワタシはお料理をしたことはありませんが、会社に雇用されていた料理係のドールの思考を取り込めば、できます」
それが平行思考型の国産B型ドールか。すげえ!
そして、サツキさんは、
「けれど、残念ながら、本日は無理です・・思念情報の伝達には、時間がかかります」と説明した。
「いや、今日はいいんだ。弁当があるし」と僕は言った。
「明日であれば・・」とサツキさんは言った。
明日が楽しみだ・・わが家で弁当以外の食事ができる。食材を買わなけりゃな。
ただ、僕は思う。
サツキさんは明日が来るのが楽しいはずがない・・自分の命のカウントダウンが始まっているのだから。
そう思い帰路につくと、電話があった。ディスプレイに「自宅」とある。
自宅から電話をかけてくるのは一人しかいない。
通話ボタンを押すと、
「ミノルさんですか?」と可愛い女の子の声が聞こえた。僕が「そうだ。僕だよ」と答えると、
するとイズミはこっちから電話した時のように、
「『ボク』ですか?・・ショウショウお待ちください」と言った。
まさか、「僕」を認識するのに時間がかかるんじゃないだろうな。しばらくして、
「ミノルさんの声をニンショウしました」
「おい、面倒臭いぞ。そっちから電話をかけたんだから、僕しかいないじゃないか」と強く言って聞かせた。
するとイズミは、「ボクしかいない」と復唱し「ミノルさんが二人いたら、ワタシはどうしたらいいのでしょうか?」と言った。
僕は「申し訳ない・・言ってることの意味がわからない・・それより早く、要件を言ってくれ。こう見えても僕は色々と忙しんだ」とイズミを急かして、「サツキさんは大丈夫か?」と確認した。
「そのことでミノルさんにお電話をおかけしました」
まさか!
「おい、サツキさんに何かあったのか?」思わず大きな声を出した。
佐山さんからの預かりものなので、何かあったりしたら大変だ。
僕が訊ねるとイズミは、
「ミノルさん・・お水が足りません」と言った。
水かよっ!
そんなことにまで考えが及ばなかった。
ドールはミネラルウォーターを必要とする。
ドール用の錠剤は植村からお母さんドールの件のお礼だと言ってもらっているので余分にある。
しかし、水の買い置きはそれほどない。イズミの分だけ、それと僕の分と。
それくらいしか用意していなかった。
「わかった。帰りにどこかで水を買って帰るよ」と僕はイズミに言った。
家に辿り着き、玄関を開けると、二人のドールがこちらを向いて座っている。
イズミはいつものペタン座り、サツキさんは正座をして僕の帰りを待っていた。
妙に照れる。
数週間前までは帰っても真っ暗で誰もいなかった。一人寂しい部屋だった。
それが今やこの状態だよ。蛍光灯の下にドールが二体いる。
それも幼児体型と大人の女性型だ。セクシー型とまではいかないが、十分にその対象になる体つきだ。
母が見たらびっくりするだろうな。家にはしばらく来ないでいい、と母に電話しておこう。
イズミが「おかえりなさい。ミノルさん」と言って僕の手荷物をチェックして「お水、忘れずに買われたのですネ」と言った。
サツキさんは「イムラさん。大変、申し分けありません。私のようなものにお水を用意して頂いて」と両手を畳の上に揃えて丁寧に言った。
そんな風に言われるとこちらが恐縮してしまう。
それより、サツキさんの外観が気になった。
髪はバサバサではなく、着衣の乱れも整っているし、顔にあった擦り傷が綺麗になっている。
「サツキさん・・昼間より、きれいに・・」と僕が言いかけると、
サツキさんは「はい、イズミさんにして頂きました」と答えた。
イズミは立ち上がって、
「そうです。ワタシが致しました。髪は私が櫛で整え、顔の傷は私の分の水で修復しました」と得意気に言った。
「水で修復?」
「ハイ・・と言っても、サツキさんが水を飲んで勝手に自動修復をしただけですが」
そうイズミは説明した。
自動修復って、すごいな・・人間の自然治癒よりも進んでいる。
イズミは「ミノルさん。シャワーも勝手に使いました」と言った。
「シャワーをだとっ!」
「そんなにおどろかないでください」
「いや・・そうじゃなくて」
ドールは感電、漏電とかしないのかな・・
「それで、服は? サツキさんのスカートの腰の部分が裂けていただろ」
まさか、イズミが縫った? いや、それはないない・・と決めつける。
サツキさんの紺のタイトスカート・・
放っておいてもいいような裂け方だったが、女性なら気になるところだ・・いや、サツキさんはドールだ。気にしないのかもしれない。
するとイズミが、
「サツキさんのおスカートは、お隣の島本オバサンに縫い合わせて頂きました」と言った。
島本さんが!
驚く話ばかりだ。今まではイズミ一人だったが、二人になると、留守中にこうも動き回られるのか。
「おいっ、どうして、島本さんが・・」と僕が問い詰めると、
「島本オバサンは『廊下を歩いていたら、女の人同士の話し声が聞こえたから、おかしい、と思って』・・そうおっしゃっていました・・心配になって、と・・」
「まさか、呼び鈴に出たのか?」と更に強く問い詰めるとイズミは、
「はい、ヨリリンに出ました。島本オバサンであればよろしいのでは? と推察いたしました」と答えた。
「よりりんじゃなくて、よびりんだ」
と訂正させると、
「ミノルさん、お声とお顔がトテモ怖いです」と小さく言った。
こんな顔だ。
「まあ、いい・・それで・・島本さんが来たんだな?」とイズミに言うと、
「島本のおばさんが『イズミちゃん、何か、あったの?』とお聞かれになるので、サツキさんのスカートをお見せしました。すると、島本おばさんは自分の部屋からお裁縫の道具をお持ちになり、お直しをされました。それはもう、手際がよく、ミノルさんにもお見せできなかったのが残念なくらいのレベルでした」と前後関係を説明した。
よくしゃべるな・・言葉が無茶苦茶だが、ま、何となくわかった。
イズミはまくし立てた後、
「ミノルさん、お疲れでしょう・・お茶を入れましょうか?」と言った。
お茶を入れるのが、得意になったようだな。
僕はコンビニ弁当をテーブルに置き、ありがたく、イズミにお茶を沸かしてもらうことにした。
キッチンに立つイズミの後ろ姿を見ながら思ったのだが・・
「あの・・サツキさん」と呼びかけた。
もしかして・・料理とか・・
「なんでしょうか? イムラさん」とB型ドールのサツキさんは正座姿勢のまま応えた。
「料理とか・・お出来になるんですか?」と僕は丁寧に訊ねた。
そこへすかさずキッチンからイズミが顔を出し、
「ミノルさん・・お言葉使いが変です・・」と指摘した。
そして、「ワタシと話す時とエライ違いです・・大違いです」と怒り口調となった。
「いや、それは、僕が相手に合わせているからだ。仕方ない」
「そうでしょうか・・ワタシに対してはぞんざいな物言いのような気がしますが」
ぞんざいという言葉、物言いという言い方。
イズミは怒る時の語彙は豊富だな。
そんな僕とイズミの会話を聞いた後、
「お料理なら・・いちおう出来ると思います」とサツキさんが言った。
一応できる・・?
「ワタシはお料理をしたことはありませんが、会社に雇用されていた料理係のドールの思考を取り込めば、できます」
それが平行思考型の国産B型ドールか。すげえ!
そして、サツキさんは、
「けれど、残念ながら、本日は無理です・・思念情報の伝達には、時間がかかります」と説明した。
「いや、今日はいいんだ。弁当があるし」と僕は言った。
「明日であれば・・」とサツキさんは言った。
明日が楽しみだ・・わが家で弁当以外の食事ができる。食材を買わなけりゃな。
ただ、僕は思う。
サツキさんは明日が来るのが楽しいはずがない・・自分の命のカウントダウンが始まっているのだから。
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