40 / 167
飲み会へ②
しおりを挟む
僕は短縮登録してある家の番号にかけた。
5回ほどの呼び出し音でイズミは出た。
家の固定電話にはディスプレイがないので、誰からの電話かは、わからない。
電話の向こうで「ハイ」と声がした。
少し慣れてくると、可愛い声だ。家で待機しているイズミの仕事は錠剤と水を飲むこと、その他に充電、そして居眠りしかない。
他に敢えていうなら、僕の帰りを待つことくらいか。
「こちらは、イムラです。ソチラは、知らない人ですか?」
イズミはそう言った。前と同じだ。
僕は「イズミ、僕だよ」と言った。これも前と同じ。
するとイズミは「『ボク』ですか?・・少々お待ちください」と答えた。
じれったいな。そうそう「僕」と名乗る奴なんていないぞ。「オレ、オレ」と言う奴ならいそうだが。
「ミノルさんですね・・声をニンショウしました・・今回で二回目ですね」と言った。
なんだそれ。データが蓄積されているのか? ポイントでもつくのかよ。
「あのな、イズミ、昼から宅配便が来るかもしれないが、呼び鈴に出なくていいからな」
母からの荷物はハンコを押すだけのことだが、宅配の人に見られると色々と面倒だ。
「タッキュウビン」
そう言ってイズミは再び「少々お待ちください」と言って、
「郵便局のお親戚のようなものですね」と言った。
「まあ、そうだな」と僕が言うと、
イズミは「モトバライなら、商品を受け取り印鑑を押すだけ、そのあと、『ごくろうさま』とありますが」と言った。
イズミは、それくらいなら自分でもできる、そう言いたいのか。
それならば、自分でしてみろ、と言いたいところだが、やはり不安がつきまとう。
「宅配に出るのは、イズミがもうちょっと大きくなってからだ」
そう僕が言うとイズミは声を大にして、
「ワタシは、これ以上は大きくなりませんが、ミノルさんがオノゾミとあらば、身長くらいなら伸ばせますが」と言った。
自分で自分の足を引っ張る方法のことだな。あんな方法はもういい。壊れたりしたら大変だ。修理をどうすればいいのか、とも考える。
「いずれにせよ。宅配の呼び鈴は無視してくれ」と僕は言って、イズミが「はい」と返事をするのを聞くと同時に電話を切った。
電話が終わると、植村が寄ってきて、缶コーヒーを差し出した。
「この前のお礼」と言って笑顔を見せた。
「あれから、どうなった?」と僕が訊ねると、
「ちょっと落ち着いたよ」
「夫の不在・・お父さんを探すとか言ってないのか?」
僕はそう訊きながら、人間の認知症のことを並行して考えた。
しかし、AIドールは人間ではない。
更に、しかしだ。
そんなAIドールと人間の共通点もあるのではないだろうか。
忘れたり、何かを急に思い出したり。
植村は「今のところは言っていないよ・・けど、よく眠るようになったな」と言った。
よく眠る・・イズミとは規格の異なるドールは、ネットの情報によると寿命が短いと聞く。
AIドールの死、すなわち、お母さんドールの喪失。
それを植村はどう受け止めるのだろうか。
植村は、
「それより、井村、今夜こそ飲みに行こうぜ」と言った。「気晴らしだよ」
僕は先日断っているので、今日はさすがに受け入れることにした。
僕が「OK」を出すと「清水さんも誘っとくよ。男だけじゃつまらんだろ」と言った。
僕は家に電話をかけ帰りが遅くなることを言った。そして、動かないように、電話や呼び鈴にも出ないようにきつく言っておいた。
イズミは、
「承知イタシマシタ・・サラリーを受け取る人は、上司、および同僚とのおつきあいがタイヘンだときいております」と変な日本語で応えた。
でも、なんとか大丈夫そうだな。
そして、夜7時、会社の近くの居酒屋で植村と先に飲んでいると、経理の清水さんと営業の佐山さんが混ざった。
いつも会社の制服でしかみない二人の私服姿は新鮮だった。
活発そうなジーンズの清水さんに、どこかのお嬢さんのような佐山さん。
経理と営業という業務柄を考えると、雰囲気は逆のような気もするが。
ビールで乾杯をした後、清水さんは、
「井村くんが来るなんて、珍しいわね。いつも断っているのに」と笑顔を見せた。
清水さんには植村が片思いをしているということだ。清楚なイメージの彼女には僕も惹かれる。
植村が「そうなんだよ。清水さん、井村はつき合いが悪いんだ。清水さんからもちゃんと言っといてくれよ」と言った。
僕は頭を掻きながら、「いや、僕はどっちかと言うと、お酒もそんなに飲めないし、家でゲームをしたり、本を読んでいる方がいいっていうか・・」と適当に誤魔化した。
まさか、家でAIドールがお留守番をしている、とも言えない。植村もその辺は含んでいてくれている。
清水さんの友人なのか、横におしとやかに座っている佐山さんが「私も、本を読むのは好きですよ」と言って「面白い本があったら、今度貸してください」と続けた。
そんな佐山さんの発言に清水さんが「そんなに本を読んでいるのだったら、佐山さんも遊びに行かせてもらったら?」と状況を促した。
植村が調子に乗って「そうそう、井村の家なら気兼ねなく・・井村は一人暮らしだし・・」と言いかけ、言葉を濁らせた。おそらく僕の家にイズミがいることを思い出したのだろう。
しかし、植村の気遣いの甲斐もなく、
佐山さんは「本当ですかあ」と素敵な笑顔を見せ「先輩の家、今度お邪魔してもいいですか」と訊いた。
うーん・・僕は考えた。
現在、独身の僕は佐山さんのような人と近づくのはいいチャンスかもしれない。
佐山さんが来る時、イズミにはどこかに隠れてもらうか、植村に預かっていてもらうかすればいい。
僕は考えをまとめると「いいよ」と答えた。
しかし、いきなり家はまずいな。それに、僕は佐山さんのことを何も知らなさすぎる。どちらかと言うと清水さんとはよくしゃべったりはするが。佐山さんと口を聞くのは今夜がほぼ初めて状態だ。
5回ほどの呼び出し音でイズミは出た。
家の固定電話にはディスプレイがないので、誰からの電話かは、わからない。
電話の向こうで「ハイ」と声がした。
少し慣れてくると、可愛い声だ。家で待機しているイズミの仕事は錠剤と水を飲むこと、その他に充電、そして居眠りしかない。
他に敢えていうなら、僕の帰りを待つことくらいか。
「こちらは、イムラです。ソチラは、知らない人ですか?」
イズミはそう言った。前と同じだ。
僕は「イズミ、僕だよ」と言った。これも前と同じ。
するとイズミは「『ボク』ですか?・・少々お待ちください」と答えた。
じれったいな。そうそう「僕」と名乗る奴なんていないぞ。「オレ、オレ」と言う奴ならいそうだが。
「ミノルさんですね・・声をニンショウしました・・今回で二回目ですね」と言った。
なんだそれ。データが蓄積されているのか? ポイントでもつくのかよ。
「あのな、イズミ、昼から宅配便が来るかもしれないが、呼び鈴に出なくていいからな」
母からの荷物はハンコを押すだけのことだが、宅配の人に見られると色々と面倒だ。
「タッキュウビン」
そう言ってイズミは再び「少々お待ちください」と言って、
「郵便局のお親戚のようなものですね」と言った。
「まあ、そうだな」と僕が言うと、
イズミは「モトバライなら、商品を受け取り印鑑を押すだけ、そのあと、『ごくろうさま』とありますが」と言った。
イズミは、それくらいなら自分でもできる、そう言いたいのか。
それならば、自分でしてみろ、と言いたいところだが、やはり不安がつきまとう。
「宅配に出るのは、イズミがもうちょっと大きくなってからだ」
そう僕が言うとイズミは声を大にして、
「ワタシは、これ以上は大きくなりませんが、ミノルさんがオノゾミとあらば、身長くらいなら伸ばせますが」と言った。
自分で自分の足を引っ張る方法のことだな。あんな方法はもういい。壊れたりしたら大変だ。修理をどうすればいいのか、とも考える。
「いずれにせよ。宅配の呼び鈴は無視してくれ」と僕は言って、イズミが「はい」と返事をするのを聞くと同時に電話を切った。
電話が終わると、植村が寄ってきて、缶コーヒーを差し出した。
「この前のお礼」と言って笑顔を見せた。
「あれから、どうなった?」と僕が訊ねると、
「ちょっと落ち着いたよ」
「夫の不在・・お父さんを探すとか言ってないのか?」
僕はそう訊きながら、人間の認知症のことを並行して考えた。
しかし、AIドールは人間ではない。
更に、しかしだ。
そんなAIドールと人間の共通点もあるのではないだろうか。
忘れたり、何かを急に思い出したり。
植村は「今のところは言っていないよ・・けど、よく眠るようになったな」と言った。
よく眠る・・イズミとは規格の異なるドールは、ネットの情報によると寿命が短いと聞く。
AIドールの死、すなわち、お母さんドールの喪失。
それを植村はどう受け止めるのだろうか。
植村は、
「それより、井村、今夜こそ飲みに行こうぜ」と言った。「気晴らしだよ」
僕は先日断っているので、今日はさすがに受け入れることにした。
僕が「OK」を出すと「清水さんも誘っとくよ。男だけじゃつまらんだろ」と言った。
僕は家に電話をかけ帰りが遅くなることを言った。そして、動かないように、電話や呼び鈴にも出ないようにきつく言っておいた。
イズミは、
「承知イタシマシタ・・サラリーを受け取る人は、上司、および同僚とのおつきあいがタイヘンだときいております」と変な日本語で応えた。
でも、なんとか大丈夫そうだな。
そして、夜7時、会社の近くの居酒屋で植村と先に飲んでいると、経理の清水さんと営業の佐山さんが混ざった。
いつも会社の制服でしかみない二人の私服姿は新鮮だった。
活発そうなジーンズの清水さんに、どこかのお嬢さんのような佐山さん。
経理と営業という業務柄を考えると、雰囲気は逆のような気もするが。
ビールで乾杯をした後、清水さんは、
「井村くんが来るなんて、珍しいわね。いつも断っているのに」と笑顔を見せた。
清水さんには植村が片思いをしているということだ。清楚なイメージの彼女には僕も惹かれる。
植村が「そうなんだよ。清水さん、井村はつき合いが悪いんだ。清水さんからもちゃんと言っといてくれよ」と言った。
僕は頭を掻きながら、「いや、僕はどっちかと言うと、お酒もそんなに飲めないし、家でゲームをしたり、本を読んでいる方がいいっていうか・・」と適当に誤魔化した。
まさか、家でAIドールがお留守番をしている、とも言えない。植村もその辺は含んでいてくれている。
清水さんの友人なのか、横におしとやかに座っている佐山さんが「私も、本を読むのは好きですよ」と言って「面白い本があったら、今度貸してください」と続けた。
そんな佐山さんの発言に清水さんが「そんなに本を読んでいるのだったら、佐山さんも遊びに行かせてもらったら?」と状況を促した。
植村が調子に乗って「そうそう、井村の家なら気兼ねなく・・井村は一人暮らしだし・・」と言いかけ、言葉を濁らせた。おそらく僕の家にイズミがいることを思い出したのだろう。
しかし、植村の気遣いの甲斐もなく、
佐山さんは「本当ですかあ」と素敵な笑顔を見せ「先輩の家、今度お邪魔してもいいですか」と訊いた。
うーん・・僕は考えた。
現在、独身の僕は佐山さんのような人と近づくのはいいチャンスかもしれない。
佐山さんが来る時、イズミにはどこかに隠れてもらうか、植村に預かっていてもらうかすればいい。
僕は考えをまとめると「いいよ」と答えた。
しかし、いきなり家はまずいな。それに、僕は佐山さんのことを何も知らなさすぎる。どちらかと言うと清水さんとはよくしゃべったりはするが。佐山さんと口を聞くのは今夜がほぼ初めて状態だ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)
れ
SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。
主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、
それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。
時々、僕は透明になる
小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。
影の薄い僕はある日透明化した。
それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。
原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?
そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は?
もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・
文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。
時々、透明化する少女。
時々、人の思念が見える少女。
時々、人格乖離する少女。
ラブコメ的要素もありますが、
回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、
圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。
(登場人物)
鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組)
鈴木ナミ・・妹(中学2年生)
水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子
加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子
速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長
小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員
青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生
石上純子・・中学3年の時の女子生徒
池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生
「本山中学」
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
怪獣特殊処理班ミナモト
kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる