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国産B型ドール②
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僕は急ぎ足のドールを追いかけながら、登録されている自分の家の電話にかけた。
プルルと呼び出し音が鳴る。
電話の向こうで「ハイ」と声がした。
イズミだ。幼い少女の声。すごく懐かしい気がした。朝出かけるときに聞いたばかりだというのに。
「ソチラは、知らない人ですか?」
イズミはそう言った。ソチラって・・言い方が何かおかしいぞ。
僕は「イズミ、僕だよ」と言った。
するとイズミは「『ボク』ですか?・・ショウショウお待ちください」と答えた。
まさか、「僕」を認識するのに時間がかかるんじゃないだろうな。
「ミノルさんですね・・声をニンショウしました」
認証って・・何だよそれ。
「ちょっと、帰るのが、少し遅れるけど、僕が帰るまでじっとしてろよ」
「・・」イズミの沈黙。
「おいっ! 聞いているのか?」と問いかける。
「そう言われましても、デンワが鳴りましたので」
電話をとるのに動いたということかよ。応用の利かない奴だな。「デンワが、かかってきたのは想定外・・」とイズミは機械的な口調で言い足した。
「いいか・・ちょっと遅れるだけだから。じっとしとくんだぞ」
「でも・・またデンワが鳴ったら・・」
「もうかけないよ。忙しいんだ」
「ドウシテですか?」
「仕事だ・・仕事って、わかるだろ?」
「はい、サラリーをもらって生活している人は、会社のためにオソクまで残ることがあるそうです」
そうそう。その通りだ。いろんな一般常識が頭に入っているみたいだな。
「ミノルさん、息がアライように思いますが」
イズミの声は昨日より少し滑らかになっている気がする。
「今、ある人を追いかけているんだ」
前を行くOLドールとの距離は20メートルほど・・徐々に間を詰めていく。
あのドールは何をそんなに急いでいるのか?
知りたい・・
するとイズミは、
「ミノルさんのお仕事はタンテイさんですか?」
探偵? と言ったのか?
そうか、イズミは僕のことを何も知らないんだな。僕の仕事。僕の家族。
「いや、違うが、ちょっと気になることがあって」
「お仕事ではないのですか?」
「違う」
話に応じるのがだんだん面倒くさくなってきた。
そんなやり取りをしている間だった・・
それはあっという間の出来事だった。その出来事を僕は忘れない。
僕の脇を数人の男が通り過ぎたかと思うと、僕の前を行くOLドールの体を男たちが左右から押さえ込んだ。
男たちは全員黒のスーツを着ている。
OLドールは男たちの腕を振り解こうともがき始めたが、その抵抗が無駄なことは誰が見ても明らかだった。 ドールは非力だ。
一人の男が、警棒のような物を振り上げ、OLドールの脇腹に叩き込んだ。
ただの警棒ではない。一瞬だが、光った気がした。いやな光に見えた。まるでドールの生命を絶つような光だった。
次の瞬間、その体、ドールの上体があらぬ方向にぐにゃっと曲がった。
同時にドールの頭も力を失ったようにダラリと垂れた。
命が失われたように見えたが、その目がこちらを向いた。
一瞬だが、ドールと目が合った。
それは悲しい目だった。決して無表情ではない。感情が詰まっているような瞳に見えた。
そして、その目は僕に言っていた。
「どうして、ワタシを助けてくれないの?」
気がつくと、周囲で通行人と見物客のような男たちが口々にこう言っているのが聞こえた。
「あれは、B型のドールだな」
「工場用のドールだ」
「逃げ出してきたのか?」
そんな声に混じって僕は立ち尽くしたままドールと男たちの様子を見ていた。
B型?・・逃げ出す?・・
そう言えば、山田課長は自分のドールをA型と呼んでいた。会社の業務用のドールはB型だと言っていた。
なぜ、見物客達がそんなことを知っているのかわからない。僕が知らないだけなのか?それともこれは僕が何にも関心を持たず生きてきた報いなのか? 世界はいつのまにか変わっている。
男たちはドールを折り畳むようにして、路肩に停めてあった大型のバンに詰め込んだ。
まるで、物のように、荷物を搬入するように。
「ミノルさん。どうかされましたか?」
ずっと耳をそばだてていたのか、イズミの声が携帯から聞こえた。
今見た光景と対照的にイズミの声は暖かく聞こえた。
通行人や見物客の声よりも遥かに人間的に聞こえた。
「いや・・何でもない」と言って、「遅くなることはない。もう帰るよ」とイズミに伝えた。
すると、イズミは、
「探偵のお仕事・・ビコウは終わったのですね」と訊いてきた。
「ああ・・尾行は終わった・・」
電話を切った時には、ドールを積んだ車は道の向こうに消えていた。
プルルと呼び出し音が鳴る。
電話の向こうで「ハイ」と声がした。
イズミだ。幼い少女の声。すごく懐かしい気がした。朝出かけるときに聞いたばかりだというのに。
「ソチラは、知らない人ですか?」
イズミはそう言った。ソチラって・・言い方が何かおかしいぞ。
僕は「イズミ、僕だよ」と言った。
するとイズミは「『ボク』ですか?・・ショウショウお待ちください」と答えた。
まさか、「僕」を認識するのに時間がかかるんじゃないだろうな。
「ミノルさんですね・・声をニンショウしました」
認証って・・何だよそれ。
「ちょっと、帰るのが、少し遅れるけど、僕が帰るまでじっとしてろよ」
「・・」イズミの沈黙。
「おいっ! 聞いているのか?」と問いかける。
「そう言われましても、デンワが鳴りましたので」
電話をとるのに動いたということかよ。応用の利かない奴だな。「デンワが、かかってきたのは想定外・・」とイズミは機械的な口調で言い足した。
「いいか・・ちょっと遅れるだけだから。じっとしとくんだぞ」
「でも・・またデンワが鳴ったら・・」
「もうかけないよ。忙しいんだ」
「ドウシテですか?」
「仕事だ・・仕事って、わかるだろ?」
「はい、サラリーをもらって生活している人は、会社のためにオソクまで残ることがあるそうです」
そうそう。その通りだ。いろんな一般常識が頭に入っているみたいだな。
「ミノルさん、息がアライように思いますが」
イズミの声は昨日より少し滑らかになっている気がする。
「今、ある人を追いかけているんだ」
前を行くOLドールとの距離は20メートルほど・・徐々に間を詰めていく。
あのドールは何をそんなに急いでいるのか?
知りたい・・
するとイズミは、
「ミノルさんのお仕事はタンテイさんですか?」
探偵? と言ったのか?
そうか、イズミは僕のことを何も知らないんだな。僕の仕事。僕の家族。
「いや、違うが、ちょっと気になることがあって」
「お仕事ではないのですか?」
「違う」
話に応じるのがだんだん面倒くさくなってきた。
そんなやり取りをしている間だった・・
それはあっという間の出来事だった。その出来事を僕は忘れない。
僕の脇を数人の男が通り過ぎたかと思うと、僕の前を行くOLドールの体を男たちが左右から押さえ込んだ。
男たちは全員黒のスーツを着ている。
OLドールは男たちの腕を振り解こうともがき始めたが、その抵抗が無駄なことは誰が見ても明らかだった。 ドールは非力だ。
一人の男が、警棒のような物を振り上げ、OLドールの脇腹に叩き込んだ。
ただの警棒ではない。一瞬だが、光った気がした。いやな光に見えた。まるでドールの生命を絶つような光だった。
次の瞬間、その体、ドールの上体があらぬ方向にぐにゃっと曲がった。
同時にドールの頭も力を失ったようにダラリと垂れた。
命が失われたように見えたが、その目がこちらを向いた。
一瞬だが、ドールと目が合った。
それは悲しい目だった。決して無表情ではない。感情が詰まっているような瞳に見えた。
そして、その目は僕に言っていた。
「どうして、ワタシを助けてくれないの?」
気がつくと、周囲で通行人と見物客のような男たちが口々にこう言っているのが聞こえた。
「あれは、B型のドールだな」
「工場用のドールだ」
「逃げ出してきたのか?」
そんな声に混じって僕は立ち尽くしたままドールと男たちの様子を見ていた。
B型?・・逃げ出す?・・
そう言えば、山田課長は自分のドールをA型と呼んでいた。会社の業務用のドールはB型だと言っていた。
なぜ、見物客達がそんなことを知っているのかわからない。僕が知らないだけなのか?それともこれは僕が何にも関心を持たず生きてきた報いなのか? 世界はいつのまにか変わっている。
男たちはドールを折り畳むようにして、路肩に停めてあった大型のバンに詰め込んだ。
まるで、物のように、荷物を搬入するように。
「ミノルさん。どうかされましたか?」
ずっと耳をそばだてていたのか、イズミの声が携帯から聞こえた。
今見た光景と対照的にイズミの声は暖かく聞こえた。
通行人や見物客の声よりも遥かに人間的に聞こえた。
「いや・・何でもない」と言って、「遅くなることはない。もう帰るよ」とイズミに伝えた。
すると、イズミは、
「探偵のお仕事・・ビコウは終わったのですね」と訊いてきた。
「ああ・・尾行は終わった・・」
電話を切った時には、ドールを積んだ車は道の向こうに消えていた。
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