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第1章 復活の帝王
8.カルカの街
しおりを挟むその後、レイチェルとロウは、様々な設定を話し合った。
話し合いで決まったのは。
ロウが小型竜持ちの冒険家で、レイチェルはロウの性奴隷である、という設定である。
レイチェルは性奴隷になることを、嫌がっていたのたが、普通の奴隷で雑用が出来るか、とロウが聞いたところ、レイチェルは何も言えなくなってしまったので、性奴隷の設定で落ち着いたのだった。
カルカの街に着いたのは、空がオレンジに染まった夕暮れで、それから、良質な宿を取った。
お風呂に入らないことを気にしていたレイチェルだったが、ロウが浄化クリーンの魔法をかけてやると、何も言わなくなったばかりか、魔法を教えて欲しい、と言い出す始末である。
ロウは、レイチェルに自衛の手段があってもいいと思ったので、刀の使い方を覚えることを条件に、魔法を教えることを許可した。
レイチェルは、クライスの血を継いでいるだけあって、魔法を使う為の素質はかなりあるし、刀を使う腕も相当なものになるに違いなかった。
まずは、魔力を操る方法を教え、魔力を操れるようになるのと、体力をつける課題を出しておいた。
取った宿の名は、《鹿跳ね亭》という料理が美味しいと評判の宿だった。
宿を取るとすぐに、レイチェルが食事をしたい、と訴えてきたため、一階の食事処に行くことにした。
もちろん、レイチェルは効力のない性奴隷の首輪をはめている。
テーブルに着くと、ロウとレイチェルは奇異の目をあたりに向けられている。
今レイチェルは、ボブほどの茶色の髪のウィッグをつけている。
しかし、美しさは健在で王女とは分からなくとも、黒髪の美丈夫と茶髪の美少女がいることで、目立っていた。
レイチェルも、ロウも良くも悪くも、目立っていた時期があるのでそれほど、気にしてはいなかった。
ロウは、食事処でミートパイと葡萄酒を頼み、レイチェルは、シチューとホットミルクを頼んだ。
頼んだ料理が運ばれてくると、2人は無言で食事を口に運んだ。
忙しなく口を動かして、食べる。
しばらくして、食事を食べ終わると、追加で果物を頼み、2人でつまみながら、紅茶を啜った。
「……明日は、食料を調達して、出発するからな。休んどけよ。」ロウは言った。
「もちろんです。」レイチェルは、そうロウに答えた。
宿の部屋に戻ると、レイチェルは布団に潜り込んだ。
「寝ないのですか?」レイチェルはロウに聞く。
「ああ、寝てていいぞ。俺は、行くところがあるからな。」そうロウは、答えた。
男が夜に出かける場所と言えば、酒場か花街ぐらいである。
「……どこに行くのですか?」レイチェルは、不安そうにロウを見上げ、聞く。
「……どこでもいいだろう?」ロウは、心底面倒くさそうに言った。
「良くありません。わたくしを置いていくのでしょう?」レイチェルは泣きそうになり、言う。
「……あぁ。……行かせてくれ。でないと……。」ロウは、そう言うと。
レイチェルに覆い被さり、首筋に顔を埋めた。
「お前を襲っちまう……。」ロウは掠れた、色香の漏れた声で言った。
ロウの喋る息が、レイチェルをくすぐる。
「はぅ……。」レイチェルは小さく声を漏らした。
「だから……行っていいだろう?」首筋に顔を埋めたまま、ロウは言う。
「……ダメ…です。…わたくしの……側にいて…。わたくしを……抱いていいから……。」レイチェルも色香の漏れた美しい声で、言う。
「……ッ!!あー、クソッ。……わかったよ、俺の負けだ。手、握ってやる。側に居てやるから、存分に寝ろ。」ロウは優しく言った。
「約束ですからね。」レイチェルは言うと、スヤスヤと眠り出す。
レイチェルの手は、ロウの手をぎゅっと握っていた。
「……ラース。お前の妹は、寂しがり屋だな。」ロウは、小さく呟いたのだった。
クライスがいたら、お前もだ!と叫んでいただろう。
次の日、レイチェルは手を握ったまま眠ってしまったロウの寝顔を前に目を覚ました。
そして、昨晩のロウへの言葉を思い出して赤面した。
(なんて、はしたないことを言ってしまったのでしょう。)レイチェルはそう思う。
レイチェルは何を思ったのか、じっとロウの寝顔を眺めた。
ロウの寝顔は、『死の帝王』とは、思えぬほど儚く弱々しい。
そして。
美しかった。
パチリ。
ロウの眼が開き、レイチェルをじっと見た。
「ひゃあ!!」
レイチェルは驚きに、変な声を上げて、飛び上がった。
その様子に、ロウは悪戯に成功した子供のようにくつくつと笑う。
ロウは、起き上がりベッドから出たため、レイチェルもベッドから起き上がった。
「支度しろ。この街を出る。」ロウがレイチェルへ言った。
「…食料を確保するのではなかったのですか?」レイチェルは疑問に思ったようで、ロウへ問う。
「…お前が寝てる間に買っておいた。街に怪しい奴らがいる。早めに出たくなったのでな。」ロウは答え、レイチェルを見た。
「支度はしなくても大丈夫です。このままで大丈夫ですわ。」レイチェルはロウへそう言った。
「そうか。では、変装する。化粧で顔の作りも変えるからな。椅子に座れ。」レイチェルは、ロウに言われたため、椅子にちょこんと座った。
ロウは、レイチェルの顔に化粧を施し、どんどん大人っぽい、普通にどこでもいそうな女性へと変えた。
レイチェルは、鏡で顔を見て驚きの声を上げる。
ロウは、その間にさっさと自分の顔も変えていく。
ロウは幼さの残る、気の弱そうな少年の顔へと変貌した。
「驚きました。ロウにこんなことが出来るなんて。」レイチェルは、微笑を浮かべて、言う。
「そーかよ。これぐらいで驚くんだな。」ロウは、あまり気にならない、というように返事をした。
「じゃあ、行こうか?」ロウはニヤリと笑って、言った。
ロウとレイチェルは、変装のおかげでロウの言う、怪しい奴らも気づかず、街を抜けることが出来た。
小型竜を駆けさせ、どんどん進んでいく。
ちなみに、小型竜の最大スピードは、旅客機よりも速く、戦闘機よりも遅いくらいである。
そのおかげか、もうすでに国境付近まで来ていた。
「昨晩は気づかなかったですが、随分と小型竜は速く駆けていくのですね。」レイチェルは呑気に言う。
普通ならば、卒倒するほど景色は速く流れていく。
が。
レイチェルが卒倒しないのは、クライスの子孫だからであろう。
「ん、あぁ。そのおかげか、もう国境付近だ。」ロウは前を見たまま答えた。
ロウは、小型竜のスピードをゆっくりと落としていった。
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