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48.白い竜(sideヒナ)

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置いてきた時を、私は今目の前で眺めて生きているような気分だった。

真っ白な白竜が空から舞い降りてくるその瞬間、全ての時は動き出していた事を感じたのだから。

「ヒナさん?」

「どうしたの?」

乾いた土の上を裸足で歩く少女は私を見上げていた。

白竜遣いであるというのに、彼女が身につけているのは指輪の通った金のネックレスと、真っ白なワンピース、それと私と会えて嬉しそうなアスカからのもらい物である紅いローブだけ。

その白く細い腕は初めて日に触れて、赤く焼けている。

その上を優雅に飛んでいる白竜でさえ、土ぼこりにその本来の美しさをなくしていた。

「白竜、見た事あるんですか?」

少女は嬉しそうな顔をしてそう聞いてくる。

幼い少女は、戦場に立つドラゴーネとは別人のよう。

平和を望んで、地で神に祈っているのがお似合いというような少女なのに。

「ええ、あるわ。」

彼女はどうして空を飛ぼうと思ったのかしらね。

白竜はどうして、彼女の竜になりたいと思ったのかしら。

その気持ちは全く分からないわけではない。

私の上を白竜と興味深そうにしながら飛んでいる漆黒の竜も、私と契約し、得たいものがあったように、彼女の竜も何か欲しいものがあったのだと思う。

そしてそれを与えられるのが彼女だけだと知ったから契約した。

「どうでしたか?」

「私が見た白竜達のこと?」

「はい。その白竜とドラゴーネはどんな人でしたか。」

彼らが飛んでいる姿を見たのは本当に遠い昔。

それでも鮮明に思い出せるほど、くっきりと白い竜と美しい女性が私の仲間だった。

その白竜は愛が欲しいといっていた。

そしてそれを与えられるのが、彼女だけなのだと確信したから契約したと。

竜とはそういうものだ。

自分を呼ぶ声を放つ人間が、自分の求める物を持っていると知っている。

そして彼女もまた、白竜の求める物を与え、また、自分の望む物を得た。

「すごく勇敢な人たちだったわ。」

それは彼女たちが彼女たちである限り、今の世界で目指す最高峰といえるはず。

傍にはロギアスがいて、私だけを思っていてくれるから、私は迷わず私に出来ることをしてこれた。

「そうですか。」

私の声を聞いて、少女は私に小さく笑った。

それはそれは嬉しそうに。

「貴女は……」

置いてきた時間が、動いていた事にいつか気づくときが来る。

「え?」

「いいえ、なんでもないわ。」

一瞬の風に想いが駆けた。

その笑顔はまるで昔の私たちのようで。

もしかしたら、今吹いた風は運命の神が運んできた風かもしれないと思った。

「ヒナさんは、どうしてこの村を回っているんですか。」

「この村から少し離れた所に私が闘うべき場所があるの。その間にアカニネ周辺の村を守ってるのよ。」

「そうなんですか。他の村はここよりもっと酷いんですか?」

「いや、ここと変わりないわ。けど酷いのに変わりはないのよね。」
「…………そうですよね。早く戦争を終わらせなきゃ。」

もう5年も続いているこの戦争を終わらせるには、それ相応の力が必要になる。

私に出来るのは村を守る事で精一杯だった。

私には他にもすることがあって、戦争を終わらせる余裕がなかったのもある。

私たった一人では守りきる事ができず、幾つもの村が滅びた。

訪れた先に村があることが、今ではとても幸せに思えてならない。

その村にいた人々がただ、苦しいながらにも生きていて、未来に平和を望み続けている事が幸せだった。

「終わると思うの?」

強い意志を灯したその目は、彼譲りね。

誰から教わるでもなく、空を目指し、高く高くと飛ぼうとする目。

「違いますよ。……終わらせるんです。」

そのために来た、彼女はそう付け足した。

流れる事のない強い意志は、自らここへ来たことを教えてくれた。

こんなに幼い少女が、こんな荒れ狂う土地へ自ら足を踏み込ませた。

「白竜がつくわけね。」

こんな少女だから、白竜は声を上げて名を呼び、少女は白竜を呼び続けたのでしょう。

彼に似ている目をしている。

冷酷でありながら、とても優しくて強い彼に。

「違いますよ。」

フワリと少女はその目を柔らかくして、また笑顔を見せた。

風が吹いてくる。熱くて乾いたその風に髪の毛を揺らして、少女は言った。

「キルアは普通の竜です。唯、色が白いだけの竜です。」

空を舞う白い竜をそう言ったアセナ。

どうしてこんなに私の胸を締め付けてくるのかしら。

「ヒナさんの竜と何も変わらないです。」

「……そうね。」

「はい。」

彼と出会った日に吹いた風を運んできた運命の神が、もう一度風を連れて私の前に現れる、と。

そう信じたいと思ったから、時を置いてきたのだわ。

「素敵なドラゴーネを選んだわね、貴女の竜は。」

「ありがとうございます!」

この子に託してみようかしら。

この世界を、私たちの全てを。

運命の神はもうすぐそこまで、来ているようなそんな気がするから。
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