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47.新たなドラゴーネ

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『 You are our world core. 』

私達の世界の中心は貴女。

“私達”そう記されているこの指輪は、漆黒ながらも朝の光を反射して金の光を放っていた。

朝風は夜にまして冷たい。

「おはよう、アセナ、アスカ。」

「おはよう、ルア、アスカさん。」

「おはよう、アセナちゃん、ルア。」

「早いな。」

その朝焼けの中、目を覚ましたのはルアとアスカだった。

アセナは明け方近くに薄っすらと一度目を覚ましたが、アセナの頭の上でジッと座っているクラウスを見て安心してもう一度眠ってしまった。

「なんだ、こいつ、まだ寝てんのか?」

こいつ、とルアが指差すのはきっと夜中ずっと起きて、アセナ達を守ってくれていたであろうクラウスだった。

彼でもこんなに気持ちよさそうに眠るのだと思うと、アセナは思わずその寝顔に微笑んでしまう。

その瞬間、怖い声がアセナの微笑みに言葉を突き刺した。

「人の寝顔を見て笑うのか、お前は。」

そういうとクラウスはムクッと体を起こしてこっちを見た。

その目からは軽い怒りが見え隠れしている。

「えっと、そのっ!可愛いなぁって!」

何のフォローにもならないアセナの言葉に、クラウスはそっぽを向いていしまった。

アスカはルア、クラウス、アセナの会話から一歩身を引き、クスクス笑いながらその会話を眺めている。

昨日名前を教えてもらい、アセナの名前も呼んでくれたというのに、何だか悲しくなった。

黒いローブは寝る前は畳んで置いておいたのに、いつの間にかアセナにかぶせられている。

その正体はきっと、クラウス以外何者でもない。

「クラウス!」

アセナは思い切って名前を呼ぶ。

それまで眩しそうに朝日を眺めていたクラウスの黒い眼がアセナを映した。

ほんの少しの事なのに、アセナはとても嬉しく感じられて仕方なかった。

「何だ。」

そっけなくて、怖くて、ぶっきらぼうなのに、とても優しい。

「ありがとう。」

アセナが笑ってお礼を言うと、クラウスは何のことだかさっぱり、という顔を見せた。

そんなアセナ達を見ていたルアが急に声を上げた。

「恋愛禁止だからな!!」

いきなりのその言葉にアセナだけでなく、アスカさえ思わず、マヌケ面を二人の前にさらしてしまった。

「ぁはははっ!おかしっ!もうむ……り………っ!はは……!恋愛!?」

「あははははッ」

「フッ」

その言葉に耐え切れずクラウスとアスカでさえ笑い声を上げると、ルアはポカンとした顔を見せている。

恋愛感情は微塵もないアセナとクラウスにそんな事をいう、ルアが考えられなかった。

確かにクラウスは大好きなアセナだが、それはルアとも同じである。

アセナは恋愛感情として、2人を見たことなどない。

アセナがそんな感情を抱くのは、たった一人だけだからだ。

「クラウスってお前の名前だろっ!?そんな親しげな所見て、恋愛じゃねーとは言えねーだろ!?」

「ルアって、おバカさんなんだね!!」

「どこまでも、そうだな。」

「う、るせぇ!!」

賑やかな声が朝日と共にパセルに響いた。

何もないこの町に、静かな朝は何度も何度もやってきては、過ぎ去っていく。

その間、民は皆苦しんでその時をしのぐしか出来ない。

そんな場所にアセナ達はやって来て、朝を迎えている。

全てを平等に照らすオレンジに近い黄色の太陽の光は、アセナ達に力を与えてくれている。

まだ誰も目覚めていない朝を、アセナ達は静かに堪能していた。

その時。

ダァンッ。

物凄い音が静かな朝を一瞬にして壊して行った。

ドスン、と一度地は揺れて、小刻みに震える。

その振動に、アセナ達は急いで立ち上がりその音の方向を見た。

土ぼこりと、黒い炎が黙々と立ち上っている。

「何あれ!?」

アセナのその声にアスカは顔を動かすことなく答えた。

「この匂いは火薬ね。大砲でしょう。………ウェリア、止めるわよ。」

そのアスカの声に、空から深紅の鱗を持つ竜が舞い降りてきた。

その竜、ウェリアはどすん、と音を立てて着陸した。

一般の竜は一階建ての家ぐらいの大きさだが、ウェリアは二階建ての建物ぐらいの大きさである。

そんな巨大なウェリアに、アスカは僅かな鱗の突起を足掛かりにして、素早く登った。

ウェリアは翼を上下に動かし、離陸する。

大地に突風が吹き荒れた。

するとまだ薄い赤の色をした空から、大きな玉が2つ降ってくる。

そのうちの1つは炎をまとっていて、2つは同時に地上を目指していた。

町がまだ完全に壊れていない場所を目指して、二つの玉は生き物のように飛んでいく。

「ウェリア!!」

3人はその光景から眼をそらすことができず、ただ呆然とその様子を目を見開いて焼き付けているようだった。

『分かっている!』

ウェリアは叫ぶと、首をぐっと弓形にしならせ、一気に首を伸ばすとガッと口を開き、青白い高温の炎を吹き出した。

じゅうっ、と2つの玉が蒸発した音が聞こえ、2つの玉は消えた。

アセナ達はここを守るためにきたのだ。

唯見ているだけなんて、嫌だった。

「キルア!!」

アセナがキルアを呼べば、アセナの近くに緩りと着陸した。

『何です、アレ』

「敵が攻めてきたのっ !!急いで!止めに行く!!」

飛んできたキルアにアセナは飛び乗って、キルアの上でバランスをとった。

冷たい朝の風が紅いローブを強くなびかせている。

キルアは猛スピードでアスカを追って飛んでいく。

早く、早く。

そんな思いがキルアからも伝わってくる。

「おいっ!」

「アセナ!!」

二つの声が後ろから、聞えるか聞こえないかの距離から届いてくる。

アセナはその声に一度振り返って、すぐに前を見た。

そんなアセナにルアとクラウスは最大限のスピードで追いついてきた。

「はえぇ!」

竜がこの世で最も早く飛べる生き物であることを、彼らは知らないのだ。

アセナが乗っているため、これでもかなり速度を落としているのに、彼らはキルアの尾を追うので必死だった。

もうアスカは随分前まで行ってしまっている。

ルアとクラウスはアセナに大声をかけた。

「あそこに行ったら、お前死ぬぞ!?」

「無茶だ!!」

「アスカさんは、もう先に行ってるんだよ!」

アセナはルアとクラウスに叫ぶ。

アスカは直径20メートルもありそうな砲台へと突っ込もうとしているところだった。

その砲台はアスカへと焦点を合わせている。

アスカに大砲が発射されると、ウェリアは危なげなく、それを炎で溶かした。

「天を貫け!ライトニングボルト!」

アスカの右手に雷が渦巻き、右手を掲げるとその雷は砲台へと龍の如く駆けた。

ドォォォォン!

巨大な音を響かせ、ライトニングボルトは砲台へと直撃する。

砲台は焦げ、一部は溶けている。

これでは使い物にならないだろう。

パセルはというと、アスカの攻撃の飛び火がしないように、術で町全体を覆うシャボン玉のようなドームが町全体を囲っている。

アスカが全てを終わらせた。

アセナはキルアの背に座り、下の町を覗きこんだ。

アセナの元に、ルアとクラウス、アスカが近づいてくる。

その距離からして、町を覆うドームは3人の魔法ではないようだった。

「アスカ、凄かった!!」

「凄い魔力だ。」

2人も驚いた顔をしてアスカを見る。

「それにしても、町を覆うほどのバリアを張るなんて、すげぇ魔力だなぁ。」

ルアのその言葉にアセナ達はパセルを見る。

そこにあるのは未完成のバリアを張り損ねているドームと、その上空に小さく浮いている1頭の竜だった。

その竜の色は月もないような夜の漆黒。

漆黒ながらも星のように煌く鱗を持っていた。

その背には、朱色の巫女装束を纏った女性。

「あれって……ドラゴーネ?」

「本当だな!!竜連れてるしな!」

「あの女が、あの魔法を……」

「………」

クラウス達が驚きの声を上げる中、アスカのみが沈黙した。

「アスカさん?」

なんの反応もしないアスカを怪訝に思ったアセナがアスカを呼ぶ。

「………ヒナ!」

アスカはアセナに答えることなく、その女性の名前を呼んだ。

「…………アスカ?」

口を開いてその女性は呟いた。

「それと、白竜。」

それは驚くでも、見惚れているでもなく、ただそのモノを眺めているような。

その髪は長く、煌めくような漆黒で、その眼は何かを必死で求めているようだった。

「ヒナはここにいたの?」

「ええ。ところでその白竜と契約してるドラゴーネはその子?」

漆黒の竜はしっかりとした体格で、程よく鍛えられていた。

その竜に並ぶと、ぼやけていた顔がくっきりと見えた。

その竜は美しく、瞳は炎のような深紅。

「ええ、そう。アセナって言うのよ。」

「ア……セナ?もしかして、アセナ・シャルトス?」

その言葉に驚きが隠されておらず、どこか懐かしさを見せる目をアセナに向けていた。

優しい目だった。

アセナはヒナが名前を知っていた驚きを隠せずに、ヒナを見る。

そんなアセナをヒナは気にすることなく、にっこりと笑うとキルアの頬に触れた。

「……あぁ、綺麗な竜。運命の神が導いたのかしらね。」

「運命の神ですか?」

「そう。私の名前はヒナ。私は時々この村に来て世話を焼いているの。」

優しく微笑んだヒナにグルゥ、と漆黒の竜が鳴いた。

「彼は私の騎竜よ。あんまり喋りたがらない竜だけど、よろしくね。」

「俺はルア!で、こっちが……」

「……クラウス。」

「今、彼らとこの地を守ってるの。」

アスカたちは短く会話をして空から降りて行った。

アセナはその間もずっと考える。

地上に足を下ろしても、空を見上げても。

耳に入ってくる彼女の声がアセナを不思議と縛り付けるように、聞き入らせて。

誰なのかと聞いたところで、答えは変わりない。

そうして、ヒナとアセナは出会った。
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