兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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サエさん、はじめまして

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土曜日当日。

待ち合わせ場所の駅に到着すると、そこにはタカがいた。

「こんにちは、ハルさん」

いつもの笑顔でむかえるタカに、ハルは安心した。

「タカさん、こんにちは。お疲れ様です!」

「元気にしてましたか」

「はい!ありがとうございます」

「サエちゃん、もうお店にいますよ」

「はい。あの、サエさん大丈夫そうですか……?」

「ハルさんと会うってこと?」

「はい。僕からお願いしておいて今更ですけど……」

「大丈夫ですよ。気持ちの準備はできてたみたいですよ。僕がハルさんのこと話したときから」

「……そうですか」

「ハルさん。サエちゃんもハルさんに会いたがってたから、彼女が無理して来ているわけじゃないってことは、伝えておきますね」

「はい、ありがとうございます」

「あと、サエちゃん……つまりお兄さんの彼女、めっちゃ美人ですからね。ハルさん目ん玉飛び出るかも」

ハルの肩の力を抜かせたいのか、からかうような口調で、くすくすと笑いながらタカが言った。

5分ほど歩きカフェに着く。

お店に入ると、奥のボックス席にサエが座っていた。

サエはタカとハルに気づきスッと立ち、会釈をする。

ハルに緊張感が増す。タカが言ったとおり美しい顔立ちの女性がハルを見つめ立っていた。

「あ、どうも、こんにちは。初めまして。ハルセです」

「ああ、どうも……」

「みんなからはハルと呼ばれてます」

「……」

「キヨヒロの弟です」

「……」

「サエ……さんですよね」

「……」



「サエちゃん」

サエがハルを見つめたまま何も言わないので、タカがサエの名を呼んだ。

「ああ!ごめん、ごめんね。はい、サエです。はじめまして」

「はじめまして」

「ごめんね、似てるなと思って。固まっちゃった」

「あ、いえ」

ハルは、こんな綺麗な女性が兄の……そう思うと緊張なのか、なんだか少し恥ずかしい気分にもなった。

「今日は、会って下さってありがとうございます」

「いえ。私のほうこそ、会いたいと思ってくれてありがとう……ねハル君」

「いえ」

「あ、あのね、勝手にハル君って、呼んじゃってます」

「ありがとうございます。お好きな呼び方で、呼んでください」

ニコっと笑うハルの表情を、サエがまた黙ったまま見つめる。

その様子に気づいたタカが笑いながら言う。

「サエちゃん、またガン見したまま固まってるよ」

「うあああ、ごめんね、本当ごめん、あはは。じっと見つめられたら怖いよね。ごめんねハル君」

「いえ、全然大丈夫です。僕は、サエ……さんって呼んでいいですか」

「うん、もちろん」

「ありがとうございます。タカさんから、サエさんのこと少しお聞きしました。もちろん兄のことも」

「うん、そうだよね」

「はい」

「……」

「……」

2人の会話が途切れたのたで、タカが口を開く。

「サエちゃんが甘いもの好きなのも話しておいたよ。よくケーキとかお菓子作ってるんだよね」

「え、あ!そう。うん、お菓子作って、そうそう。ヒロにも食べてもらってた」

「へえ。兄は甘いもの好きだったんですね」

「うんたぶん!あ、でもどうだろう……私が無理やり食べさせちゃってたのかも」

「あはは。そうかもね、でもヒロは喜んでたと思うな。ヒロの家で俺もよく食べてたよ、サエちゃんのケーキ。タルトとか、パイとか、クッキーにチョコもね」

「あはは。私かなり作ってたもんね、消費してくれてありがとうタカ君」

タカとサエの談笑に、兄は確かにこの2人の世界で生きていたのだなとハルは思った。

「なんだか、今こうしてタカさんたちの会話を聞いてると、兄の笑顔が浮かびます。顔は分からないけど、幸せに暮らしてたんだなって」

「ああ……そっか。タカ君から聞いてると思うけど、いまのハル君と似てるよ。声はちょっと違うけど」

「ああ、それ聞きました。そうみたいですね」

「あ、あとね。あまり緊張したり、気負いしないでね。私はハル君とこうして会えて嬉しいと思ってるから。何かあったらいつでも言ってね。お兄さん……ヒロのこと、いくらでも話すから」

「はい……ありがとうございます。サエさんも優しそうな方ですね」

「ええ!そう?」

サエがタカを見る。

「うん、俺からしたからヒロもサエちゃんも優しさのかたまりだよ。美男美女だし光ってるよ」

「何それ笑」

また2人は笑いあった。

そしてしばらく3人は談笑し、タカがトイレのため席を外す。

タカの姿が見えなくなったのを確認し、少し神妙な面持ちになったハルが言う。

「サエさん、あの……もしよかったら連絡先、交換してもらえますか?」

「あ、もちろん、交換しよしよ。メール?メッセージアプリ?」

「あ、アプリの方で」

2人は連絡先を交換した。

「サエさん、兄のこと聞かれるの大丈夫と言ってましたけど、本当に大丈夫ですか?辛くないですか?あの……僕似てるみたいなので、思い出すから」

ハルは、タカが涙を流しながら自分を抱きしめたことを思い出していた。

「ああ……大丈夫だよ。いろいろあったんだけどね、最近ね何かタイミングがきているような気がして。ヒロのこと忘れるわけじゃないよ。でももう、ね……」

「そうですか。わかりました」

「ヒロがタカ君に何を頼んでたのか、私は詳細までは分からないけどさ、私も協力したいって思ってるんだ。それにハル君に会うことはヒロのためにもなってる気がして……って意味不明なこと言ってごめんね」

「あ、いえ、なんとなく分かります。タカさんもそういうこと言ってましたし。兄は本当に愛されてますね。タカさんとサエさんに」

「そ、そうだよー!とびっきりの愛を注がれてたと思う!あはは」

サエが笑いながら話していると、タカが戻ってきた。

「お、またヒロの笑い話?」

「タカ君おかえり。そんな感じ。ヒロは愛されてたよね~私たちにって話」

「ああ、そうだね。とてもね」

サエに対しニコっと笑うタカ。

ハルはそんなタカを見て、心が苦しくなった。
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