65 / 79
母から聞いたのに
しおりを挟む
それから3日ほど経ってハルの風邪はすっかり治り、このタイミングで母に電話をすることにした。
風邪が治りきる前に電話することもできたが、なんとなく体調が全て元に戻ってから話したい、そう思っていた。
電話をかけて、すぐに母は出た。
「もしもし、あのさ」
ハルは母に今の状況と心情を話し、そして"あのこと"を聞いた。
「でさ、電話で悪いんだけど、話してほしいんだよね」
しばらくの沈黙のあと、母はハルの気持ちを理解し、当時のことを話しだした。
母は時より言葉をつまらせたが、ハルはその都度静かに相槌をうち聞いていた。
電話の時間は30分ほどで終わった。
ハルは電話を切って、ゆっくりと深呼吸をする。
その瞬間、ガタン、とスマホをテーブルの上に落とし、そのまま気を失ってしまった。
その後、数秒も経たないうちに、ハルのスマホが鳴る。
タカからの着信だ。
呼び出し音が何度も何度も鳴り響くが、気を失ったハルの耳には届かない。
それから2時間ほどが経ち、ハルが目を覚ました。
座った状態のまま、無造作に顔をテーブルに押し付けている状態だったので、体を起こした瞬間、首に痛みが走った。
スマホを見ると、タカからの着信が何件も入っており、メールも届いていた。
「急にすみません。いまからハルさんの家に行きます」
メールが届いた時間は2時間前。
まさかと思いエントランスへと走る。
重く分厚いドアを開けると、そこにタカが立っていた。
「えっ……」
「あ、ハルさん」
ハルの顔を見たタカが、ほっと安心したような表情で言った。
「えええ!なんで」
「すみません。嫌な予感がして」
「え、いつからここに!?」
「少し前です」
「すみません!電話あったのさっき気づいて。あとメールも」
「いやいや、全然大丈夫ですし、僕こそ急におしかけてすみません。コンビニ行ったりしてたんで、ずっとここにいたわけじゃないです」
「ええ!あ、あの、どうぞ。入って下さい」
「ありがとうございます。あ、ハルさん、僕たちこのパターン2回目ですね。あはは」
「あ、この前の風の時の……ですね。あはは。ほんとだ」
2人がハルの部屋に戻ってきた。
テーブルに座り、ハルがタカに聞く。
「タカさん、その、どうして連絡くれたんですか」
「ああ。本、読んでたんです」
「え?」
「ちょっと苦手な本、読んでたんです」
「はあ……」
「そしたら、視えて」
「えっ。視えた、っていうのは、目の奥の……ですか?」
「はい」
「……何が……え、あ、僕ですか?」
「はい」
「えっ」
「視えたといっても、くっきりと視えたわけじゃなくて、男性が倒れているような、ぼわーっとした感じで」
「あ……」
「何か、あったんですよね?ハルさん」
ハルは、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
「気になったし、行かなくちゃと思って。またおしかけてしまいました」
「あ、ありがとうございます!体は今はもう大丈夫なんですけど、何かおかしくて」
「人が倒れてるような、そんな映像でした。ハルさん、気を失った、とかですか?」
「たぶん……はい」
「何かあったんですか?」
「……」
「大丈夫ですか?」
「母と電話を……あ、そうだ!そうですよ、母と話したはず」
「ああ、この前のことの」
「はい。それで、その……」
ハルがタカの目を見たまま、言葉を詰まらせる。
「ハルさん?」
「……」
タカが心配そうな表情でハルを見つめる。
ハルの視線がタカの目からテーブルへと移動する。
「え……どうしよう」
「え、何?」
「……」
「ん?」
「思い出せません」
「思い出せないって、お母さんとの会話を?」
「はい」
タカがハルの目を見て言う。
「ハルさんが聞きたかったこと、聞いたんですか?」
「聞いた、と思うんです。長い時間、通話してたはず」
「その内容を思い出せないということですか?」
「はい。母の声は少しまだ、耳に残ってるんですけど。……タカさん」
「何?」
「なん……だか……」
「ん?」
「思い出せないってことがショックですし、それに、考えたくないというか……すみません……頭がパンク……しそうというか」
「えっ!ハルさん」
「また……気を……失いそ……うです」
「えっ、ちょっと」
「視界が……」
「ハルさん、あっ」
そう言ってハルはまたテーブルに顔を押し付け、気を失ってしまった。
風邪が治りきる前に電話することもできたが、なんとなく体調が全て元に戻ってから話したい、そう思っていた。
電話をかけて、すぐに母は出た。
「もしもし、あのさ」
ハルは母に今の状況と心情を話し、そして"あのこと"を聞いた。
「でさ、電話で悪いんだけど、話してほしいんだよね」
しばらくの沈黙のあと、母はハルの気持ちを理解し、当時のことを話しだした。
母は時より言葉をつまらせたが、ハルはその都度静かに相槌をうち聞いていた。
電話の時間は30分ほどで終わった。
ハルは電話を切って、ゆっくりと深呼吸をする。
その瞬間、ガタン、とスマホをテーブルの上に落とし、そのまま気を失ってしまった。
その後、数秒も経たないうちに、ハルのスマホが鳴る。
タカからの着信だ。
呼び出し音が何度も何度も鳴り響くが、気を失ったハルの耳には届かない。
それから2時間ほどが経ち、ハルが目を覚ました。
座った状態のまま、無造作に顔をテーブルに押し付けている状態だったので、体を起こした瞬間、首に痛みが走った。
スマホを見ると、タカからの着信が何件も入っており、メールも届いていた。
「急にすみません。いまからハルさんの家に行きます」
メールが届いた時間は2時間前。
まさかと思いエントランスへと走る。
重く分厚いドアを開けると、そこにタカが立っていた。
「えっ……」
「あ、ハルさん」
ハルの顔を見たタカが、ほっと安心したような表情で言った。
「えええ!なんで」
「すみません。嫌な予感がして」
「え、いつからここに!?」
「少し前です」
「すみません!電話あったのさっき気づいて。あとメールも」
「いやいや、全然大丈夫ですし、僕こそ急におしかけてすみません。コンビニ行ったりしてたんで、ずっとここにいたわけじゃないです」
「ええ!あ、あの、どうぞ。入って下さい」
「ありがとうございます。あ、ハルさん、僕たちこのパターン2回目ですね。あはは」
「あ、この前の風の時の……ですね。あはは。ほんとだ」
2人がハルの部屋に戻ってきた。
テーブルに座り、ハルがタカに聞く。
「タカさん、その、どうして連絡くれたんですか」
「ああ。本、読んでたんです」
「え?」
「ちょっと苦手な本、読んでたんです」
「はあ……」
「そしたら、視えて」
「えっ。視えた、っていうのは、目の奥の……ですか?」
「はい」
「……何が……え、あ、僕ですか?」
「はい」
「えっ」
「視えたといっても、くっきりと視えたわけじゃなくて、男性が倒れているような、ぼわーっとした感じで」
「あ……」
「何か、あったんですよね?ハルさん」
ハルは、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
「気になったし、行かなくちゃと思って。またおしかけてしまいました」
「あ、ありがとうございます!体は今はもう大丈夫なんですけど、何かおかしくて」
「人が倒れてるような、そんな映像でした。ハルさん、気を失った、とかですか?」
「たぶん……はい」
「何かあったんですか?」
「……」
「大丈夫ですか?」
「母と電話を……あ、そうだ!そうですよ、母と話したはず」
「ああ、この前のことの」
「はい。それで、その……」
ハルがタカの目を見たまま、言葉を詰まらせる。
「ハルさん?」
「……」
タカが心配そうな表情でハルを見つめる。
ハルの視線がタカの目からテーブルへと移動する。
「え……どうしよう」
「え、何?」
「……」
「ん?」
「思い出せません」
「思い出せないって、お母さんとの会話を?」
「はい」
タカがハルの目を見て言う。
「ハルさんが聞きたかったこと、聞いたんですか?」
「聞いた、と思うんです。長い時間、通話してたはず」
「その内容を思い出せないということですか?」
「はい。母の声は少しまだ、耳に残ってるんですけど。……タカさん」
「何?」
「なん……だか……」
「ん?」
「思い出せないってことがショックですし、それに、考えたくないというか……すみません……頭がパンク……しそうというか」
「えっ!ハルさん」
「また……気を……失いそ……うです」
「えっ、ちょっと」
「視界が……」
「ハルさん、あっ」
そう言ってハルはまたテーブルに顔を押し付け、気を失ってしまった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?
左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。
それが僕。
この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。
だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。
僕は断罪される側だ。
まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。
途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。
神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。
男性妊娠の描写があります。
誤字脱字等があればお知らせください。
必要なタグがあれば付け足して行きます。
総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます
はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる