兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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ちゃんとお話しします

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「……呼ばれたって、どういうことですか?」

ハルはタカの目を見て聞いた。少し声も震えていた。



「お兄さんが、ハルさんと会えって。会って伝えてほしいことがあるって」



「それ……いつ言われたんですか」



「最近です。先月の終わりくらいに」


「……えっ。じゃあ兄が亡くなったのって…」
「違います。お兄さんはもう何年も前に亡くなっています」

タカはハルの言葉を遮るかのように言った。


「じゃあ何か視えた、ということですか」


「はい。僕たちみたいなタイプの人間って、人によって感じ方違うのはハルさんも知っていると思います。僕が具体的にどういう視え方をしているかは後でお話しすることになると思います」



「……」



「呼んでくれたのは最近ですけど、ただ、お兄さんは亡くなる直前にもハルさんの名前を呼んでいて。僕にハルさんに会ってほしい、そんなようなことも言っていました」

タカはハルの兄が事故で苦しみながら死んでいったこと、そしてその時話した内容を思い出していた。



「え、亡くなる直前って……」





「はい。お兄さんは僕の目の前で息を引き取りました」



「……」




「ハルセさん」
タカがハルの目をチラッと見て言う。



「え?あ、はい」



「キヨヒロさんがそう呼んでいました」



ハルの本名はハルセ、兄の名前はキヨヒロという。


ハルは、タカが自分と兄の本名を言ったので、これから話す内容がいよいよ真実なのだと思った。




「……」



「お兄さんにとってハルさんがどれだけ大切な存在か、あの時すごく感じたんですよね。それとね、サエちゃんって子も僕の隣にいました。お兄さんの彼女です」



タカは一瞬目を細めて、そして小さく深呼吸をした。



「……」



「お兄さんが亡くなったあとは僕もサエちゃんも……相当こたえてしまって、何も考えられませんでした。とくにサエちゃんは深刻で。僕以上にお兄さんのそばにいましたから」



ハルは、だんだんと喉の奥が何かで詰まったような感覚になり、苦しくなっていた。

次々とタカの口から発せられる言葉と内容に頭がついていけていない、整理ができない。

それに加えて悲しい気持ちだけじゃない複雑な感情が頭の中を巡っていた。



そんなハルを見てタカが言う。

「僕、だいぶ混乱することばかり言っていますよね、昨日から。すみません」



「いえ……大丈夫です」



「僕がこれから話す内容、とくに亡くなる直前の話はハルさんにとって酷だし辛いことと思います。けどハルさんなら大丈夫だって言っていたので。だからちゃんとお話ししますね」




「はい」





「お兄さんは、ハルさんに対して何か伝えたい"言葉"があるわけじゃないみたいです。それよりもお兄さんに何があったかとか、そういうことを伝えたいみたいです。それには僕も関わっていて。たぶんですけど、ハルさんがそれを知ることによって何を感じるのか、それを考えてのことだと思うんですけどね」


タカは、そう言って今度は大きめの深呼吸をした。



「僕はお兄さんのこと視えたといっても、本人の本当の想いというところは僕は読み取れないので。それは透視になるから」


タカは、透視できればいいのに、夢でもいいから会いに来てくれたらいいのに、と当時の光景を思い出しながら心の中でつぶやいた。




「……はい」
ハルが小さな声で答えた。



「それと、僕はお兄さんに呼ばれたことも、こうやって弟のハルさんに会えたことも、嬉しく思っているんです。嬉しいなんて言うべきじゃないんでしょうけど。僕がそう思う理由もちゃんとあります。それもお話ししますね」



「わかりました」



「ハルさん、聞きたくなくなったり途中しんどいなと思ったらすぐに言ってくださいね」




「あ、いえ、大丈夫です。僕も知りたいです。兄が死ぬまでのこと……知りたいです。タカさんとのこともサエさんとのことも、全部知りたいです」






「ちゃんとお話しします。それが僕がここに来た理由ですから」






"ちゃんと話す" それがどこまでできるのか。タカは、この言葉はいずれ自分を苦しめることになるのだろうな、と思っていた。



「あ、ありがとうございます」
ハルは目線を海に逸らし、そう答えた。



「ハルさん、僕の目って少し怖くないです?そのまま海の方を見て聞いていてください」



「……わかりました」



ハルは海を見ながらタカの言葉に耳を傾けた。


こうして、タカはハルの兄のことを話し始めた。





昨日のように、今日も心地よい風が2人を優しく包み込んでいた。



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