兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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ハルの子供の頃の話

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この男はなぜこんな見ず知らずの男の人生に興味があるのか、とハルは思った。


「な、なんですか?」


「お兄さんのこと。……子供の頃のこととか。思い出話とか」


「はい?えっ……僕の子供の頃……ですか?そんなこと興味あります?」

変な声を出しながら吹き出すハルに対し、タカはニコっと笑いながら

「ありますよ」

そう答えた。


ハルは少し戸惑ったが、他に提案できる話題もないし、と話すことにした。
話の流れ的に、兄のことも話そうと思った。


「あー……子どもの頃。とりあえず、まあ普通の子供でした」


「そこを詳しく」
笑いながらタカが言った。


「傷の絶えない子供ってやつで、外でよく遊んでましたよ。かくれんぼとか、鬼ごっことか。色鬼って知ってます?あれ好きでした」


「ああ!懐かしいですね。鬼が赤ー!って言ったら、鬼にタッチされる前に赤色の物探して触りに行かないといけないアレですよね」


「そうそう!あれ好きでした。そういう遊びばっかしてたからよく転んだりしてて」


「家ではどんなことしてたんですか?」


「家……ああ、僕家が嫌いでした、その頃は」


「そうなんですか?」


「はい。さっき言った兄。兄とよく外で遊んでましたね。友達も遊んでましたけど、兄との思い出が多いですね」


「お兄ちゃん子って感じだったんですか?」


ハルはクスっと笑って頷いた。

「一緒に秘密基地作ったりタイムカプセル埋めたり、いつも一緒にいました。完全なお兄ちゃん子だったと思います」


ハルは子供の頃、兄とずっと一緒にいた。

どこへ行くにも兄の後ろを歩き、兄の言うことなら素直に聞いていた。

「あと僕、よく親を怒らせてたんですけどいつも兄が慰めてくれてて。兄弟にしては喧嘩もあまりしなかったし、仲良かったと思います」
ハルは目を細め、また笑いながら言った。


「へえ、いいですね、それ」


「はい。僕の理解者でいてくれたし。うち子供の頃は親たちの喧嘩絶えなかったんですけど、喧嘩が始まると兄はいつも話しかけてくれたり音楽聞かせてくれてたんですよね」


「そうなんですね」


ハルは視線を海の奥の、ずーっと奥の方へ向けた。
そんなハルの横顔を、チラッとタカが見た。


「兄がどう思ってたかは知らないけど、めちゃくちゃ好きでした」


「好きでした?過去形?……今は?」


「ああ、そうですよね。今でも好きです。ただ中学生の頃に親の都合で離れて暮らすことになって」


「離婚?」


「はい。そこから一切連絡とってないんです」


「えっそうなんですか……ハルさん今いくつですか」


「29です、兄はたぶん31、のはず」


「じゃあ15年くらい?一歳連絡なし?親は連絡先知ってるはずですよね?」

「全く教えてくれなくて。親の都合で離婚しておいて兄弟同士も会わせないって、どういうことだよって感じですよね」


「たしかに」


「けど僕どうしても会いたくなって、大学生になった頃に親に本格的に説得しようと思ったんですよ。高校からバイトしてたし貯金あったから兄を探す旅~みたいなことするつもりでいたんです」
またクスクスっと笑いながら、ハルは言った。


「お兄さん探すためにバイトしてたの?」


「1番の目的はそうです。でもまあ遊びたい年頃でもありましたし」

ハルは続けて言った。
「調べたら戸籍を辿っていけば分かるらしくて。それを母に言ったらすごい形相で止められたんですよね」


「え……なんで」


「そんなことをしたら縁を切るとまで言われて。はあ?なんでよ兄弟なのに、って感じですよね。今ならおかしいでしょって思うんですけど……思うんですけど……けどその時は従いました」
 

「なんで?」
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