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二章
3・開花
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「お前たち、ご飯だよ」
ランスは小屋の中にいる動物たちに餌をやっている。フクロウは当然とばかりにランスの肩に留まっていた。ウサギたちがぴょこぴょこ跳ねながら傍にやってくる。それぞれの区画に、シカやタヌキ、キツネもいた。はじめは何を食べさせたら良いか、まるで分からなかったが、フクロウがランスのためにまるまる太ったネズミを狩ってきてくれるようになっている。はじめはネズミを触るのも躊躇したが、タウからもらった手袋のお陰で随分楽になった。シカやウサギはともかく、タヌキとキツネは肉を欲しがる。ネズミをやると目の色を変えて貪り付いている。タヌキもキツネも一歩間違えば害獣だ。畑を食い荒らさないよう、しっかり管理しなければならない。
「誰が森を燃やしたんだ?なんのために?」
ランスはこの頃そんなことばかり考えてしまう。たとえ理由が分かったとしても、森が返ってくるわけではない。国の皆で新しく植樹したものの、すぐにその木々が成長するわけでもない。動物たちが餌を食べているのを確認し、ランスは庭の手入れを再開した。
「ランスさん、おはよう」
タウがガウン姿で現れる。今日は休みだったはずだ。
「おはようございます、タウ様!その格好、寒くないですか?」
「…寒いな」
「わぁ、上に何か着たほうがいいですよ!」
「そうしよう。ランスさんも一緒に朝食を食べよう」
「ありがとうございます」
一緒に行こうとタウに手を握られ引かれる。
タウ様、好き。―
好きという気持ちを毎回言葉に出すのは難しいが、ランスは必ず心の中で思うようにしている。
「あ、タウ様。後で見せたいものがあるんですが」
「なんだろうか?」
「後のお楽しみです」
ランスがニッコリ笑って言うと、タウも笑う。
ここの食事は毎度美味い。今日は温かいコーンスープに柔らかいパン、ふわとろのスクランブルエッグにパリッとしたソーセージ、色々な野菜の載ったサラダだった。数種類のジャムが鮮やかだ。ホットミルクはほんのり甘い。ランスは一口食べる度に美味しいと感激した。
「ランスさんは本当に美味しそうに食べるな」
「だって美味しいですよ?俺、食べるの好きだし、めちゃくちゃ嬉しくて」
「ランスさんが喜んでくれるなら何よりだ」
ランスがもりもり食べている間、タウは紅茶を飲みながら新聞を読んでいる。彼の前にはカリカリに焼き上がったスコーンが置かれている。それにクロテッドクリームとジャムをたっぷり塗る。ランスが物欲しげに見ていたのに気が付いたのか、タウがスコーンを分けてくれた。
「タウ様、ありがとうございます。美味しい」
ランスがスコーンに齧り付くと、サクリと音がする。バターの風味にジャムの甘みが加わり、なお美味い。
「ふわぁ、幸せー」
ランスが乙女のように喜んでいると、タウが笑った。
「ランスさんには色々食べさせたくなるな」
「タウ様と食べてるから、より美味しいんですよ」
そう言ってランスが微笑むと、タウが照れたのか目を反らした。
✢✢✢
「ランスさんはこんなに寒い中で作業しているのか」
「慣れたら大丈夫ですよ。それに俺、めちゃくちゃ厚着してますし」
「ふうむ…」
ランスはタウを庭の中心にある花壇へ連れて行った。そこはどんな季節でも色とりどりの花が咲いている。ランスの計画通りだ。
「素晴らしい…冬ユリにスノーベリーも植えたのだな」
「はい。どちらも白い花弁が綺麗なんですよ。レッドセチアも映えると思って」
「あぁ、赤い葉が可愛らしいな」
タウは花壇をじいっと見つめている。
「ランスさんに頼んで良かった。私では出来ないことだ」
ランスはタウの手を握った。
「タウ様もこの庭に関わってくれたでしょう?命のあるものは必ず尽きる、それをタウ様に教えられたんです」
「ランスさん…」
「俺、思ったんです。後悔しないように生きようって。命が尽きる時は誰にも分からないから」
ランスはタウにぎゅっと抱き着いた。
「俺、タウ様が大好きです!か、体に触ったり、キスしたりもっと一緒にいたい」
言ってしまってから顔が熱くなったが、タウは呆れるどころか、ランスを抱き締めてくれた。
「私も貴方が好きだ。だが、加減できなかったら怖い」
「タウ様、めちゃくちゃになるかどうか試してみませんか?」
「え…」
ランスは決死の思いだった。ここまできて、引き下がることは出来ない。
「ランスさん、それは…」
「俺を抱いてください」
「!」
タウのことだ、相当押さなければ承知してもらえないだろう、とランスは覚悟していた。
「大丈夫、壊れそうになったら逃げます」
「…」
タウはしばらく考えて、ようやく頷いてくれたのだった。
ランスは小屋の中にいる動物たちに餌をやっている。フクロウは当然とばかりにランスの肩に留まっていた。ウサギたちがぴょこぴょこ跳ねながら傍にやってくる。それぞれの区画に、シカやタヌキ、キツネもいた。はじめは何を食べさせたら良いか、まるで分からなかったが、フクロウがランスのためにまるまる太ったネズミを狩ってきてくれるようになっている。はじめはネズミを触るのも躊躇したが、タウからもらった手袋のお陰で随分楽になった。シカやウサギはともかく、タヌキとキツネは肉を欲しがる。ネズミをやると目の色を変えて貪り付いている。タヌキもキツネも一歩間違えば害獣だ。畑を食い荒らさないよう、しっかり管理しなければならない。
「誰が森を燃やしたんだ?なんのために?」
ランスはこの頃そんなことばかり考えてしまう。たとえ理由が分かったとしても、森が返ってくるわけではない。国の皆で新しく植樹したものの、すぐにその木々が成長するわけでもない。動物たちが餌を食べているのを確認し、ランスは庭の手入れを再開した。
「ランスさん、おはよう」
タウがガウン姿で現れる。今日は休みだったはずだ。
「おはようございます、タウ様!その格好、寒くないですか?」
「…寒いな」
「わぁ、上に何か着たほうがいいですよ!」
「そうしよう。ランスさんも一緒に朝食を食べよう」
「ありがとうございます」
一緒に行こうとタウに手を握られ引かれる。
タウ様、好き。―
好きという気持ちを毎回言葉に出すのは難しいが、ランスは必ず心の中で思うようにしている。
「あ、タウ様。後で見せたいものがあるんですが」
「なんだろうか?」
「後のお楽しみです」
ランスがニッコリ笑って言うと、タウも笑う。
ここの食事は毎度美味い。今日は温かいコーンスープに柔らかいパン、ふわとろのスクランブルエッグにパリッとしたソーセージ、色々な野菜の載ったサラダだった。数種類のジャムが鮮やかだ。ホットミルクはほんのり甘い。ランスは一口食べる度に美味しいと感激した。
「ランスさんは本当に美味しそうに食べるな」
「だって美味しいですよ?俺、食べるの好きだし、めちゃくちゃ嬉しくて」
「ランスさんが喜んでくれるなら何よりだ」
ランスがもりもり食べている間、タウは紅茶を飲みながら新聞を読んでいる。彼の前にはカリカリに焼き上がったスコーンが置かれている。それにクロテッドクリームとジャムをたっぷり塗る。ランスが物欲しげに見ていたのに気が付いたのか、タウがスコーンを分けてくれた。
「タウ様、ありがとうございます。美味しい」
ランスがスコーンに齧り付くと、サクリと音がする。バターの風味にジャムの甘みが加わり、なお美味い。
「ふわぁ、幸せー」
ランスが乙女のように喜んでいると、タウが笑った。
「ランスさんには色々食べさせたくなるな」
「タウ様と食べてるから、より美味しいんですよ」
そう言ってランスが微笑むと、タウが照れたのか目を反らした。
✢✢✢
「ランスさんはこんなに寒い中で作業しているのか」
「慣れたら大丈夫ですよ。それに俺、めちゃくちゃ厚着してますし」
「ふうむ…」
ランスはタウを庭の中心にある花壇へ連れて行った。そこはどんな季節でも色とりどりの花が咲いている。ランスの計画通りだ。
「素晴らしい…冬ユリにスノーベリーも植えたのだな」
「はい。どちらも白い花弁が綺麗なんですよ。レッドセチアも映えると思って」
「あぁ、赤い葉が可愛らしいな」
タウは花壇をじいっと見つめている。
「ランスさんに頼んで良かった。私では出来ないことだ」
ランスはタウの手を握った。
「タウ様もこの庭に関わってくれたでしょう?命のあるものは必ず尽きる、それをタウ様に教えられたんです」
「ランスさん…」
「俺、思ったんです。後悔しないように生きようって。命が尽きる時は誰にも分からないから」
ランスはタウにぎゅっと抱き着いた。
「俺、タウ様が大好きです!か、体に触ったり、キスしたりもっと一緒にいたい」
言ってしまってから顔が熱くなったが、タウは呆れるどころか、ランスを抱き締めてくれた。
「私も貴方が好きだ。だが、加減できなかったら怖い」
「タウ様、めちゃくちゃになるかどうか試してみませんか?」
「え…」
ランスは決死の思いだった。ここまできて、引き下がることは出来ない。
「ランスさん、それは…」
「俺を抱いてください」
「!」
タウのことだ、相当押さなければ承知してもらえないだろう、とランスは覚悟していた。
「大丈夫、壊れそうになったら逃げます」
「…」
タウはしばらく考えて、ようやく頷いてくれたのだった。
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