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二章
2・冬の庭
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季節はまた移り変わり、既に初冬が来ている。アルバシアはそこまで雪が降らないものの厳しい底から冷えるような寒さがある。ランスははぁとかじかむ手に息を吹きかけて作業していた。
冬の庭は寒さに強い植物がすくすく育っている。この季節には神様の生誕を祝うお祭りと、年末という大きな区切りがある。ランスはスノーベリーの様子を見に行った。いきいきと葉を広げている。
「タウ様が喜んでくれたらいいなあ」
ランスはそうぽそっと独り言を言って笑った。
「ランスさん!」
さらに植物の手入れをしているとタウが慌てた様子で駆け寄ってくる。スーツだったので、出掛けるところなのだろう。
「ランスさん、これを渡したいと思っていた」
す、と渡されたのは紺色のマフラーと作業用の滑り止めがついた手袋だった。
「タウ様ありがとうございます!嬉しい」
ぎゅーとタウに抱き着くと、タウが照れたように笑う。
「ら、ランスさんに喜んでもらえたら私も嬉しいのだ」
「タウ様、スノーベリーを見てください」
す、と指差すとタウもそちらを見る。
「おぉ、大きくなった」
「そうなんです、もうぐんぐん育ってて」
「蕾がもう膨らんでいるな」
タウが間近でスノーベリーを見つめている。その様子にランスはホワッとした気持ちになった。
タウ様、可愛い。―
「あ、タウ様お仕事ですよね!引き留めてしまってすみません!」
「いや、貴方と話せて良かった。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
タウを見送る。
タウ様、今日も頑張ってるなぁ。―
「よし、俺も頑張ろう!」
ランスはもらったばかりのマフラーを首に巻き、手袋を嵌めた。お陰で体だけではなく、心まで暖かい。
タウが自分を思ってこれらを選んでくれたのだと思うとすごく嬉しかった。
ランスは冬ユリの様子を見に行った。寒いとは言っても、今年はまだ暖かい。冬ユリの開花はまだ先になりそうだ。ランスは花を優しく撫でる。
「このまま元気でいろよ」
ユリの気持ちが伝わってきた気がしてランスは笑った。は、とランスは上を見上げる。雪だ。だがそれだけではない。フクロウが飛んできたのだ。
「ホー」
フクロウは鉤爪でランスの腕にしっかり留まった。
「フクロウ、急にびっくりするじゃないか」
「ホー」
フクロウはどこ吹く風である。ランスがそっとフクロウの首元を撫でると目を閉じている。
「お前たち、皆でここまで来ちゃったのか?」
ランスは辺りを見渡してはああとため息を吐いた。ひょこりとウサギからシカまで顔を覗かせる。よくこんな街中まで、とランスは逆に感心してしまった。
「とりあえず出ておいで」
あの森の火事で、動物の大半は焼け死んでしまったようだ。こうして生き残っているものは僅かしかいない。
「ここはタウ様のお屋敷だから俺が勝手に決められないけど、とにかくタウ様を怖がらせちゃ駄目だぞ」
承知とばかりに動物たちが鳴く。
大丈夫かなぁ。―
とランスは心配していた。動物たちには庭の裏手にいてもらうことにし、ランスは作業の続きを始めた。雪が降っているので外は寒いはずだが、ランスは汗をかいている。
土を運んだり、レンガを運んだりと庭師には力仕事が欠かせないのだ。
今は春に向けての花々の苗を育てている。春先に咲く花房の球根も冬越えのための準備を始めている。
ランスは土を作り、そこに苗を植えた。
額から汗が流れ出してくる。気が付いたら日が暮れかけている。
「ランスさん!」
声を掛けられ振り向くとタウがいる。ランスはタウにぎゅっと抱き着いた。抱き着いてから、自分が汗臭いかもと気が付き、離れようとしたのをしっかり抱きしめられてしまっている。
「ランスさん、どうか離れないでほしい」
「タウ様」
二人は見つめ合った。タウがそっと口付けてくる。ランスはそれに応えた。
「っ…ンん…、ん」
タウはランスの唇をたっぷり堪能して、ようやく離れた。
「ランスさん、ただいま」
「お帰りなさい」
思わずよろめきそうになったのをタウが支えてくれる。
「大丈夫か?」
「はい。あの…ちょっとお知らせがありまして」
なんだろう、とタウが首を傾げる。ランスはタウを連れて庭の裏手に向かった。動物たちの姿にタウも戸惑ったようだ。
「この子たちは?」
「はい、森の子たちです」
「ここでは餌が足りないのでは…」
「森が焼けたせいで餌がないみたいで」
ハッとタウが気が付いたらしい。
「確かにその通りだな。まだ森が形成されるまで時間がかかる。その間、この子たちをここで預かろう」
「え!いいんですか?」
ランスはびっくりした。
「こうしてあてにされてしまった以上仕方がない」
タウは死を恐れている。それは彼が優しいからだとランスは思っている。
「それなら明日、小屋を造りますね」
「ランスさんはそんなことも出来るのか!」
「簡単な物しか造れないですけど」
「ランスさんが家に来てくれて本当によかった、正に天使だな」
「タウ様のお役に立てるなら何よりです」
「夕飯がまだだろう、一緒に食べよう」
こうして食事に誘われるのも恒例になってきている。
「お言葉に甘えて」
こういう日はタウに思い切り甘えられるので、ランスはすごく嬉しいのだ。
冬の庭は寒さに強い植物がすくすく育っている。この季節には神様の生誕を祝うお祭りと、年末という大きな区切りがある。ランスはスノーベリーの様子を見に行った。いきいきと葉を広げている。
「タウ様が喜んでくれたらいいなあ」
ランスはそうぽそっと独り言を言って笑った。
「ランスさん!」
さらに植物の手入れをしているとタウが慌てた様子で駆け寄ってくる。スーツだったので、出掛けるところなのだろう。
「ランスさん、これを渡したいと思っていた」
す、と渡されたのは紺色のマフラーと作業用の滑り止めがついた手袋だった。
「タウ様ありがとうございます!嬉しい」
ぎゅーとタウに抱き着くと、タウが照れたように笑う。
「ら、ランスさんに喜んでもらえたら私も嬉しいのだ」
「タウ様、スノーベリーを見てください」
す、と指差すとタウもそちらを見る。
「おぉ、大きくなった」
「そうなんです、もうぐんぐん育ってて」
「蕾がもう膨らんでいるな」
タウが間近でスノーベリーを見つめている。その様子にランスはホワッとした気持ちになった。
タウ様、可愛い。―
「あ、タウ様お仕事ですよね!引き留めてしまってすみません!」
「いや、貴方と話せて良かった。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
タウを見送る。
タウ様、今日も頑張ってるなぁ。―
「よし、俺も頑張ろう!」
ランスはもらったばかりのマフラーを首に巻き、手袋を嵌めた。お陰で体だけではなく、心まで暖かい。
タウが自分を思ってこれらを選んでくれたのだと思うとすごく嬉しかった。
ランスは冬ユリの様子を見に行った。寒いとは言っても、今年はまだ暖かい。冬ユリの開花はまだ先になりそうだ。ランスは花を優しく撫でる。
「このまま元気でいろよ」
ユリの気持ちが伝わってきた気がしてランスは笑った。は、とランスは上を見上げる。雪だ。だがそれだけではない。フクロウが飛んできたのだ。
「ホー」
フクロウは鉤爪でランスの腕にしっかり留まった。
「フクロウ、急にびっくりするじゃないか」
「ホー」
フクロウはどこ吹く風である。ランスがそっとフクロウの首元を撫でると目を閉じている。
「お前たち、皆でここまで来ちゃったのか?」
ランスは辺りを見渡してはああとため息を吐いた。ひょこりとウサギからシカまで顔を覗かせる。よくこんな街中まで、とランスは逆に感心してしまった。
「とりあえず出ておいで」
あの森の火事で、動物の大半は焼け死んでしまったようだ。こうして生き残っているものは僅かしかいない。
「ここはタウ様のお屋敷だから俺が勝手に決められないけど、とにかくタウ様を怖がらせちゃ駄目だぞ」
承知とばかりに動物たちが鳴く。
大丈夫かなぁ。―
とランスは心配していた。動物たちには庭の裏手にいてもらうことにし、ランスは作業の続きを始めた。雪が降っているので外は寒いはずだが、ランスは汗をかいている。
土を運んだり、レンガを運んだりと庭師には力仕事が欠かせないのだ。
今は春に向けての花々の苗を育てている。春先に咲く花房の球根も冬越えのための準備を始めている。
ランスは土を作り、そこに苗を植えた。
額から汗が流れ出してくる。気が付いたら日が暮れかけている。
「ランスさん!」
声を掛けられ振り向くとタウがいる。ランスはタウにぎゅっと抱き着いた。抱き着いてから、自分が汗臭いかもと気が付き、離れようとしたのをしっかり抱きしめられてしまっている。
「ランスさん、どうか離れないでほしい」
「タウ様」
二人は見つめ合った。タウがそっと口付けてくる。ランスはそれに応えた。
「っ…ンん…、ん」
タウはランスの唇をたっぷり堪能して、ようやく離れた。
「ランスさん、ただいま」
「お帰りなさい」
思わずよろめきそうになったのをタウが支えてくれる。
「大丈夫か?」
「はい。あの…ちょっとお知らせがありまして」
なんだろう、とタウが首を傾げる。ランスはタウを連れて庭の裏手に向かった。動物たちの姿にタウも戸惑ったようだ。
「この子たちは?」
「はい、森の子たちです」
「ここでは餌が足りないのでは…」
「森が焼けたせいで餌がないみたいで」
ハッとタウが気が付いたらしい。
「確かにその通りだな。まだ森が形成されるまで時間がかかる。その間、この子たちをここで預かろう」
「え!いいんですか?」
ランスはびっくりした。
「こうしてあてにされてしまった以上仕方がない」
タウは死を恐れている。それは彼が優しいからだとランスは思っている。
「それなら明日、小屋を造りますね」
「ランスさんはそんなことも出来るのか!」
「簡単な物しか造れないですけど」
「ランスさんが家に来てくれて本当によかった、正に天使だな」
「タウ様のお役に立てるなら何よりです」
「夕飯がまだだろう、一緒に食べよう」
こうして食事に誘われるのも恒例になってきている。
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