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一章

4・お買い物

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「ランスさん、ちょっと来て欲しい」

季節はいつの間にか移り変わり、暑い夏が来ている。ランスがいつも通り庭の手入れをしていると、タウが現れた。彼はネクタイを締めて立派なスーツを着ている。仕事から帰ってきたばかりなのだろうかとランスが首を傾げていると、タウに腕を掴まれ優しく引かれた。

「え…と…タウ様?どこに行かれるのですか?」

「貴方の服を買いに行くのだ」

そう言われて、ランスはかあっと顔が熱くなった。自分の服が上等じゃないことは知っていたが、まさか主人に心配をかけてしまうとはと、申し訳なくなった。

「あ、あの、服なら自分で買いに行けますし」

タウに連れてこられたのは、屋敷の裏にある駐車場である。アイボリーの車が停まっている。彼に助手席に座るように言われる、タウは運転席に座った。

「たまたま私も服を買いに行く予定だった。良ければ貴方に選んでもらいたい」

それってデート?!とランスは顔が熱くなるのを感じた。自分の格好はともかく、タウは何を着てもかっこいい。

「私も可愛らしい貴方に服を見立てたいのだ」

タウにそうはっきりと告げられて、ランスは俯くことしか出来ない。恋心であることは分かっていたが、この気持ちをどうすればいいかまでは分かっていなかった。

「タウ様とお買い物、嬉しいです」

「私もだ」

庭師という職業上、長く屋敷を離れることは出来ないが、数時間程度ならこうして出掛けられる。 タウが連れてきてくれたのは、街にある服屋だった。色々な服が置かれている。

ランスが珍しくてあれこれ眺めている間に、タウは数着見繕ってきたらしい。

「試着室がある。着て見せて欲しい」

そう頼まれて、ランスは試着室に入った。一面の鏡に一瞬ギョッとしてしまったが、こういうものなのだと心を落ち着かせる。ランスはいつも、親方のお古をもらっていたので、服屋に服を買いに来たのは初めてだ。タウが選んでくれた服は明らかに上等で、恐る恐る袖を通した。紺色のシャツと黒色の細身のパンツ。着るものが違うだけでこんなに見違えるものかと驚く。

「ランスさん、どうだろうか?」

「あ、えーと。こんな感じです」

タウがランスをじいっと見つめる。

「よく似合っていると思う。新しい作業着も買おう。ランスさんは働き者だから汚れるだろうし」

いつも着ている作業着が泥まみれであることは確かだ。ランスは恥ずかしくなり、すみませんと小さい声で謝った。

「ランスさんが謝ることはない。庭師としてしっかり働いてくれている証拠だ」

「でも、ご主人様に買っていただくなんて申し訳ないです」

「主人だからこそだ。当然の義務だろう」

そんなタウにランスはときめいてしまう。好きという二文字がずしっと頭の上にのってくる。自分は女性のような見た目をしているが、間違いなく男性だ。心の中で、タウに謝る。

「ランスさん、私の服を選んでくれないだろうか?」

「あ!はい!!今着替えますね」

「いや、それらはもう購入してある」

「え」

タウのスマートさにランスは再びときめいた。タウ様素敵…とランスは思いながら服を見てみる。

だが服を買った経験がランスにはなかった。しかもタウはかなり大柄で、これはと思ってもサイズがなかった。

「ごめんなさい、タウ様」

「いや、私もなかなか新鮮な経験だった」

あ、とランスは目の端で捉えたものを見つめた。

「ランスさん、それは」

タウもそれを見つめる。二人の視線の先にあったのは、緑色の石が付いたネクタイピンだ。

「わぁ、綺麗」

「この石はまるで、ランスさんの瞳のようだね」

「え…」

タウの言葉にドキッとしていると、彼はそのネクタイピンを大きな手で優しく掴んだ。

「これをくれ」

「ありがとうございます!」

二人は帰路についている。タウのネクタイには先程購入したピンが光っている。ランスはドキドキしながらそれを見つめていた。

「楽しかった、ありがとう。ランスさん」

まさかお礼を言われるとは、とランスは慌てた。

「お、お礼を言わなきゃいけないのは俺の方です、ありがとうございます」

タウがそんなランスの様子に目を細めている。
二人の時間はあっという間だった。屋敷でそのまま夕飯をご馳走になり、ランスは離れに戻った。

やばい、タウ様のことすごく好きになってる―

先程まで、タウとした会話を反芻してニヤニヤしてしまう。そうだ、とランスは思い出していた。
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