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二十五章

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1・祠の中に入ると、中は正にダンジョンそのものだった。薄暗くて、湿気がある。モンスターたちが巣くっているのか、いきなり襲いかかられる。ここでやられるわけにはいかない。油断するな、俺。

「ましろ!来るぞ!!」

「光の壁よ、我らを守りたまえ」

詠唱がなんとか間に合って、敵の攻撃を防ぐことに成功した。よし。

「焔を纏え!ファイアランス!!」

ズガガガガと睡蓮の魔法が敵に炸裂する。それにスカーさんが得意のクナイで追撃を加える。シャオの魔剣、ロザリアは今日もお休みモードだ。本気を出す程の相手じゃないってことか。シャオも特に気にせずロザリアでモンスターに斬りかかる。

「グギャッ」

ドスっという剣が突き刺さる重たい音がして、モンスターは全滅した。

「ちっ、いちいち面倒だな」

あ、シャオさんが例のごとく、やる気をなくしたようだぞ。

「面倒って言ったって…あ!」

睡蓮とスカーさんが青ざめる。二人の様子に嫌な予感がした。シャオからいつも以上に強烈なオーラが漂っている。それがぶわっと一気に解き放たれたのだ。

「俺たちに絶対に近付いてくるなよ、魔物ども」

ぎぃんっという鋭い音が響いたような気がした。シャオの声が祠中に伝わっている。
これが魔王の威嚇か。
空気がびりびり震えている。
怖すぎるでしょ。先程まであった、なにかがいるような雰囲気が完全に消え去っている。シャオがそれににこっと笑った。

「さあ、奥に行こう」

シャオがるんるんしながら歩き出す。いきなりピクニックみたいになった。周り薄暗いけどね。

「姫、大丈夫?」

睡蓮が声を掛けてくれる。慣れているんだろうな。俺はといえば足が小刻みに震えている。本能がここは危険だと伝えてきている。

「こ、怖かった」

涙目で答える。

「拙者も最初はそうだった」

「スカーさんが?」

「うむ」

それは意外だな。シャオがずんずん歩いていくので俺たちも先を急いだ。結局一番奥のフロアまでモンスターに一度も会わずに済んだな。シャオの威嚇、恐るべし。さすが最強魔王様だ。

奥のフロアには祭壇のようなものがあった。そこには神を模したと思われる像が置いてある。

「ん?これぶっ壊れてるな」

シャオが祭壇に近付いて像を観察し始めた。シャオの言う通り、像には爪でひっかいた痕みたいなものがついている。故意に傷つけられたのは間違いない。それに傷としては新しそうだ。

「おい、睡蓮。見てくれ」

「はーい」

睡蓮が像に残っている魔力を確認している。

「んー、僕たちの知らない魔力素で傷つけられてるみたい」

「そうか。もしかしたらマシャかと思ったんだが。参ったな」

「そこのお主たち」

「さて、次の祠に行ってみるか」

「お主たち」

シャオがふと下を見つめる。俺は足元にいた彼をそっと抱き上げた。かたつむりさんだ。小さい。こんなところで何をしていたんだろう?話が出来るということは普通のモンスターではないと思うけど。

「お前、ナメクジか?」

シャオが盛大に間違うのを、かたつむりさんは優しく笑ってスルーした。小さいのに懐広いな。

「わしはナメクジではなくかたつむりである」

「どう違うんだ?」

シャオが困ったように問い返す。今、このくだりいるのかな?

「かたつむりには自分だけの住処があるのだ。ほうら背中に殻があるだろう?この中に入って身を守れるのだ」

「すごいな!」

シャオ―、すごく緩い会話している最中に申し訳ないけど、今は緊急事態だよー。
俺の言葉にシャオがハッとする。

「かたつむり、悪いが俺たちは急いでいて」

「銀髪の男の子を探しておるのではないか?」

「かたつむりさん、マシャくんを知っているの?」

睡蓮の声のトーンが上がる。俺も同じ気持ちだった。

「あの子はマシャというのか。見た所、無理やり言うことを聞かされていたようだった。そこの像を傷付けたのは、マシャと一緒にいた大柄の男だ。神々の封印を解くと息巻いていた。ふぅむ」

シャオがかたつむりさんに顔を近付ける。

「神々の封印が解けたらどうなる?」

かたつむりさんは目を閉じた。

「わからぬ。ただ、この世界はなくなるのかもしれぬ」

大変なことになってきた。かたつむりさんが笑う。

「まだ大丈夫だ。ここの神の封印は解けておらぬ。おそらく技量不足だったのだろう。マシャを連れていた男は上手く行かず地団駄を踏んでいたからの」

ちょっとホッとした。

「お前さんたちに忠告をしておこう。クラリスに気を付けろ」

「クラリス?」

シャオが首を傾げる。

「旧き神々の封印を解き、倒そうとしている神々の一派だ。まさかエネミーなんていう組織まで作り出すとはな。獣人国の内乱にも驚いたわ。あれにも奴ら神々が関わっていたのだろう?」

かたつむりさんはただのかたつむりさんじゃないみたいだ。

「魔王よ、お主も気が付いているのじゃろ?今までのこと全てが繋がっていることを。ワシは年寄りだ。できることは何もない。だからこそ、知っている全てを話した。役に立ったかは不明だが」

「かたつむり、サンキューな。
随分モチベーションが上がったぜ」

「マシャを連れて奴は自分のアジトに向かったようだ。地図を広げなさい」

睡蓮がすかさず魔界のマップを広げる。更に北に面している山の中腹辺りにかたつむりさんは赤くマーキングしてくれた。ここがクラリスのアジト?ここから大分離れているな。

「ワシはジジイじゃ。しばらく休むことにしよう」

かたつむりさんの姿が消えていく。不思議なヒトだったな。

「よし、そのクラリスとかいうアジトに潜入するぞ。
マシャを絶対に取り返す!」

シャオ、張り切ってるな。

「ウウウ…」

振り返ると巨大なモンスターが唸っていた。この前のケルベロスではないけれど十分怖い。シャオが舌打ちする。先程の威嚇の効果が薄れてきている証拠だ。他の小型モンスターの姿も見える。

魔剣のロザリアが形を変えた。それだけ強敵なんだ。シャオが飛び掛かっていく。

「行くぞ!!」

「アイシクルレイン!!」

睡蓮の強烈な氷魔法がモンスターに突き刺さる。シャオが間髪いれずに斬撃を加えていく。

「ふんっ!!」

急所を的確に狙ったスカーさんの攻撃。俺も負けてられないな。

「光の精霊よ、顕現せよ!
ブライトクイーン!」

モンスターに光のつららが落ちてくる。

「ロザリア!行くぞ!」

シャオの一撃でモンスターは倒れた。ホッとしたのもつかの間。俺は恐ろしいことに気が付いていた。いつの間にかロッドが壊れてしまっている。

「ましろ、それ…」

シャオが驚いている。

「戦い激しかったもん。街に直しに行こ?」

睡蓮の言葉に俺は首を振った。

「これは特別な鉱石で出来てるからそんな簡単には直せないよ…」

「そうだったんだ」

シャオがどこからか取り出して差し出してきたのは一番最初の村でもらったレアな鉱石だった。冒険の始まりだった場所だ。よく覚えている。

「これを使え。今のお前になら相応しいだろ」

「シャオ…!ありがとう!」

俺はシャオに抱き付いていた。
祠を出ると、あまりの明るさに目がしょぼしょぼする。
マシャ、無事だよね。きっと元気だよね。また遊べるよね。

魔界の街に入ると大勢のヒトで賑わっている。
ここのヒトもシャオたちに慣れているのか誰も騒がない。

武器屋に行ったら鉱石があまりにも珍しかったらしい。武器商人さんはしばらく鉱石を眺めていた。

「こんな珍しい石、久しぶりに見たぜ。博物館に泥棒にでも入ったのか?」

「なわけないだろ」

武器商人さんの軽口にシャオも軽く返す。たははと武器商人さんは笑っていた。

「ま、そうだよな!じゃあ早速作るよ。完成は明日の午後だ。また取りに来てくれ!お代はその時でいいから」

「あぁ、頼んだぞ」

今の俺は素手だ。師匠が作ってくれた大事な武器を壊してしまうなんて。俺が落ち込んでいるのを見越してか、シャオが頭を撫でてくれた。

「ましろ、とりあえず腹ごしらえするぞ。街から出れねえから今日はもう食って寝るだけだ」

シャオの決断力の速さには相変わらず舌を巻くなぁ。
俺たちは近くにあった食堂に入った。

「チョコバナナパフェ!!これ食べる!!」

シャオが真っ先に飛び付いたのはやっぱり甘いものだった。本当、こうゆうとこ幼女だなぁ。俺たちはそれぞれ定食を頼んだ。シャオはプラスチョコバナナパフェだ。

「これは要らない」

シャオがトマトを含む野菜たちを俺の皿に移している。

「もう王ってば。本当に野菜嫌いなんだから」

睡蓮の言葉にシャオがぷい、と顔を背ける。はい幼女。

「バランスよく食べねば健康な体の維持が出来ませんぞ」

スカーさんに窘められるとちょっと食べるんだよな。もしゃもしゃとキャベツの千切りを咀嚼している。だんだん困ったような顔になってきたな。

「まひろ…」

シャオがキャベツを噛みながらムグムグ言う。この現象は。

「また飲み込めなくなっちゃった?」

「に…がい…」

シャオがそう言いながら、コクコク頷いてくる。
可愛いけどシャオにとっては、緊急事態なんだよな。

「ほら、思いきってごくんって」

「んぐ…」

シャオがぜいぜいしている。野菜が本当に苦手なんだよな。甘く味付けすれば食べられないかな?パルカスさんの偉大さが改めて分かる。よくこのヒトに野菜を食べさせてたよな。

「偉かったね、シャオ」

「俺が本気を出せばこれくらい朝飯前だ」

睡蓮、何か言いたそう。気持ちはよく分かる。キャベツ一口分しか食べてないからね。
気持ちを切り替えて、俺たちは食事に集中した。

「あ、フギさんから連絡来た」

睡蓮がみんなに見えるようにしてくれた。フギさんの姿が空間に映る。

「お疲れ様です。噂なのですが、一応報告をと思いまして」

「なにがあった?」

「は、精霊が動きだしたと」

フギさんの言葉にシャオが考えている。

「それは、精霊界が動いているのか?」

「その通りです」

「分かった、警戒する。ありがとうな」

「は」

フギさんとの通信が切れる。精霊界ってなんだろう?初めて聞いたな。食べ終わってみんなでご馳走さまをした。店を出たら睡蓮が口を開いた。

「王、これからどうするんです?」

「んー、そうだなぁ。色々起こってるからな。はっきり言って、もう眠い」

「王!!!」

スカーさんと睡蓮が叫ぶ。シャオらしいな。

「冗談だよ。ちゃんとやりゃあいいんだろ?」

「はじめからそう言ってください」

もぉー、と睡蓮が呆れている。

「そういえば、姫は精霊を知らないのでは?異神のことも」

「うん、知らない。教えて」

「よし、それなら宿に行こう。フギにももっと詳しい話を聞きたいしな」

「マシャ、大丈夫かな?」

俺を焦りの気持ちが取り巻いてきていた。

「ましろ、あいつは何かに利用されるために連れ去られたんじゃないかと俺は思う。それにマシャは強いからな」

「姫、焦らず行こう。マシャくんは心配だけど先に手がかりを集めなくちゃ」

「うん」

「姫、マシャ殿を必ず救いだそう」

「うん」

俺たちは宿に向かった。


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