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二十三章
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1・朝起きて、俺はカーテンを最大まで開けた。窓の外を見ると、雲ひとつない。いい天気だな。こんな日はなんだか良いことが起きそうな気がする。
「ん、ましろ…眩し…」
シャオが薄目を開けて呻く。朝日に弱いんだよね。俺はカーテンを軽く閉めてベッドの隅に腰掛けた。
「ねえ、シャオ?」
「どうしたんだ?俺の姫君」
シャオが欠伸をしながら起き上がる。そして、俺の手に自分の手を重ねてきた。それが嬉しくて、でもなんだか照れ臭い。
「今日のキスの練習してもいい?あ、歯がぶつからないようにチェックするだけだからね」
「あぁ、ご自由にどうぞ」
シャオが目を閉じたので、俺はそっと彼の唇に自分のを重ねた。なんでただ唇を重ねているだけなのに、こんなに気持ちいいんだろう。何度か向きを変えてキスしていたら、シャオに後頭部を支えられた。シャオの舌が口の中に入ってくる。
「っふ…ん…ン…」
シャオの舌に舌を撫でられるのはたまらなく気持ちいい。唾液が絡み合う音にまだ慣れなくて、俺は興奮してきてしまう。
「いいのか?ましろ」
「ん…気持ちいい」
正直に答えたらシャオが優しく笑った。シャオに抱き締められて押し倒される。
「さ、姫のいいところでも探すか」
俺は今日の日程を思い出していた。
「シャオ、そんな時間ない!
今日、結婚式!!」
「あー、そうか。じゃあ夜はたっぷり可愛がってやる」
その言葉に思わずドキリとしてしまった。シャオとちゃんと、最後までするのは初めてだ。今までもお互いの体を触ったりはしていたけれど、その時もシャオはかなり俺を気遣ってくれた。俺が辛くないように怖くないように、大事に大事にしてくれた。俺だって、シャオを大事にしたい、いつもそういうことをする前は、そうやって息巻いているのだけれど、実際すると俺はただのポンコツになってしまうのだ。体に力は入らないし、体の奥にある快感の余韻が強すぎて頭がボーッとするなんてざらだ。そのまま眠ってしまうこともよくある。
そんな俺をシャオは優しく介抱してくれる。温かいタオルで体を拭いてもらったり、水を飲ませてもらったり、完全に介護状態だ。
これではいけない、と思いはしたけど、シャオは気にしていないようだ。でももう少しなんとかならないかと思ってしまう。シャオがベッドからおりて、俺に手を差し伸べてくれた。
「花嫁様、準備するぞ」
「うん」
彼の手を握る。やっぱり今日はなんだかいい日になりそうな気がする。
***
今日の式ではこの間行われた前撮りの衣装とは違うものを着る。
睡蓮がせっかくの式なのだからと選んでくれた華美なものだ。まあ、俺が選んだ衣装が無難すぎたせいもある。
「可愛いー!」
スカーさんと一緒に式場に入ると、睡蓮が席から手を振っている。俺は小さく手を振り返した。今日は母さんたちも来ているからちょっと緊張するなぁ。スカーさんは重たい衣装を着た俺を気遣ってゆっくり歩いてくれている。ウエディングドレスではないけど、それにかなり近い形状をしている。頭には大きな花飾り、そしてヴェールが顔を覆っている。まさに花嫁だ。
シャオが俺を待っている。スカーさんから離れてシャオの手を取った。それから誓いの言葉を述べて、キスをした。シャオが屈んで、俺の唇に触れるだけのキスをする。それに歓声があがる。シャオを見上げると微笑まれる。
優しい笑顔だった。
「姫、おめでとう」
「睡蓮、ありがとう」
ルシファー騎士団のみんながいて、俺の家族やシャオたちがいる。ここは魔王城にある広間だ。魔王城には教会のような設備があった。式はそこでした。それにしてもこの城、なんでもあるな。今度マシャと城を探検してみようかな。テーブルに沢山のご馳走が並んでいる。美味しそうだけど、衣装を汚せないから、後で食べられるようにパルカスさんに取っておいてもらおう。
「ましろ…!」
マシャが腰に抱きついてきた。彼を抱き締めると、マシャも更にしがみついてくる。
「か…わいい…ね?」
睡蓮にそう言うように教わったのか、マシャがちらちら睡蓮を見ながら言う。
「そうだよ。ましろ姫、可愛いねー」
睡蓮が屈んでマシャの頭を撫でながら言った。マシャが声を上げて笑う。まだ、神々の件に関しては終わっていない。シャオは自分の目の力について調べ始めたようだ。本当に不思議な力だよな。
確か、ホミールさんが封神の力とか言っていたような。そして、世界には神々が封印されていると言われる五つの祠があることも分かった。なにか分かるかもしれないから、そこを巡ってみよう、とシャオは言っていた。シャオと一緒なら何かあってもなんとかなりそうな気がする。きっと大丈夫だ。ルシファー騎士団のみんなも手伝ってくれる、心強いな。
「姫、お手を」
睡蓮が手を差し出してくる。俺はその手に自分の手を乗せた。はっきり言って睡蓮だって相当かっこいい。いつもは可愛い感じだけど、それは睡蓮のキャラクターによるものだ。ルシファー騎士団は基本的にイケメン集団だ。恐るべし。
「これから写真撮るんだってさ。
そしたら姫も着替えられるから何か食べよ?」
「!…うん!」
よかった。だってお腹がすごく空いていたからね。重たいドレスタキシードを脱ぐと解放感がすごかった。着飾るって体力要るんだなぁ。勉強になった。俺は白いフードの付いたケープと茶色いハーフパンツを身に付けている。
体が軽くなりすぎてちょっと恐ろしい。でもこれでご馳走にありつける。嬉しくなって、ありとあらゆる料理を皿に盛り付けた。
「ましろ、食ってるか?」
シャオもタキシードから着替えたらしい。ラフなシャツとパンツ姿だった。お皿にはケーキが三つのっている。ぶれないなあ。
「ケーキ、良かったね」
ウエディングケーキも食べられるようだから、あとで俺も食べてみよう。
「兄ちゃあーん!!」
突撃してきたのは一番下の弟だ。
どうしたのかな?母さんたちもやってきた。
「陛下、うちのましろがいつもお世話になっております」
シャオがしっかりモードになる。
「お母様、とんでもありません。魔界の住み心地はいかがですか?」
「ええ、すごくいいです。こんなに良いところだとは」
「それならよかったです。ましろも案じていたので、様子を見に行きたかったのですが・・・」
シャオが母さんの手を優しく握る。母さん、困ってるな。
「兄ちゃん、エネミーの子が学校に来るって本当なの?」
一番上の弟に不安そうに聞かれた。それは知らなかった。シャオはすっかり忘れていたという顔をする。最近忙しかったし仕方ないか。
「エネミーって怖いんでしょ?」
俺は屈んだ。弟の目線に合わせる。
「それなら俺と収容所に行ってみない?」
「え?」
弟はびっくりしたようだ。でもしばらく考えてこくりと頷いた。
「俺行ってみたい」
「俺も行く!ましろ兄ちゃんと一緒がいい」
わらわらと弟たちに取り囲まれてしまった。ふと見るとマシャが困ったように立ち尽くしている。
「マシャ、おいで」
そっと手を伸ばすとマシャもやってきた。
「この子はマシャっていうんだよ。仲良くしてあげて」
「お前、キャッチボールできる?」
「きゃ?」
マシャにとっても学校に行くっていう選択は良いかもしれない。ただ城にいて俺たち大人に囲まれているより同年代の子と遊んだほうがきっと楽しいはずだ。
「マシャはまだ上手く喋れないから優しく教えてあげて」
「分かったよ、兄ちゃん!ねえ、庭で遊んできていい?」
「うん。気を付けてね」
子どもたちが走り出す。マシャもいいのかな?って言う顔をしたけれど、俺が頷くと走っていった。
母さんとシャオはエネミーについて話している。まだまだエネミーの影響は大きい。それだけ大きな事件だった。
「あのくらいの子たちってかっわいいよね。はい、ジュース」
睡蓮が飲み物を持って来てくれた。
「ありがとう、睡蓮。結構生意気だよ。言ってほしくない時に正論言ってくるし」
「姫でもそう思うんだ」
「そりゃあそうだよ」
ジュースは桃の果肉が入っていた。冷たくて美味しい。
「これから忙しくなるね」
睡蓮の言葉には力が籠っていた。神々のこと、エネミーのこと、そしてマシャのこと。まだ分からないことばかりだけど、シャオはそれらが全て繋がっているのではという仮説を立てている。
ルシファー騎士団はそれを調べることにしたのだ。
「大丈夫。俺たちなら」
俺がぎゅっと拳を握って言ったら睡蓮がふわりと笑った。
「それにしても姫様って本当どこにいってもマドンナだよね」
「え?マドンナ?」
なんのことだろう?って思って首を傾げたら睡蓮が笑う。
「だって男の子にモテモテだし」
「そ、それは弟だからであって」
慌てて言ったら睡蓮が噴き出した。そして真顔になって言う。
「僕たちルシファー騎士団にとっても姫は大切な存在だよ」
顔がめちゃくちゃ熱くなった。睡蓮はイケメンだから尚更だよね。
はあ、心臓持たない。
***
「すっげー」
子どもたちがそろそろ喉が渇いているかなと思って呼びに行ったらマシャがくるんと反転してボールを掴んでいた。え?キャッチボールだよね?使っているボールはゴム製のよく跳ねるやつだ。
「マシャ、今度一緒に野球しよう。お前ならプロになれる」
「てか、このボール古すぎて変なとこに飛ぶんだよね。ずっと使ってるんだよ」
それは申し訳ないことをしたな。マシャが首を傾げている。
「みんな、おやつだって」
声を掛けたら子供たちが歓声を上げて走ってきた。
「ま・・・しろ?」
マシャが困ったように見上げてくる。俺は屈んだ。
「大丈夫?楽しかった?」
「ん」
マシャが嬉しそうに頷いている。子どもたちは素直だから態度ですぐ分かるよなあ。なんだかんだ大人の様子もしっかり窺っているし。子どもだからと侮れない。
「マシャもおやつ食べよう」
「や、きゅう」
マシャが目をきらきらさせて言う。
「カード・・」
カード?って何かな?
マシャが服のポケットから何かを取り出した。それは金色に箔押しされた凝ったカードだ。野球選手が写っている。
「わ、これどうしたの?」
確か子供向けのお菓子について来るやつだっけ?いいカードじゃないか。
「あげるって」
「マシャ、もらったの?」
「ん」
マシャがそれを大事そうに撫でる。よほど嬉しかったんだろうな。
「よかったね。お礼言った?」
「あ・・・」
マシャがふるふる首を横に振る。しまったって顔だな。
「マシャ、おやつ食べに行こ。お礼もその時にちゃんと言えば大丈夫」
「ん」
この後マシャがお礼を言って、めちゃくちゃに照れた弟はしばらく俺の背中の後ろに隠れて出てこなかった。
可愛いな。よかった、みんなと仲良くなれそうで。
「ん、ましろ…眩し…」
シャオが薄目を開けて呻く。朝日に弱いんだよね。俺はカーテンを軽く閉めてベッドの隅に腰掛けた。
「ねえ、シャオ?」
「どうしたんだ?俺の姫君」
シャオが欠伸をしながら起き上がる。そして、俺の手に自分の手を重ねてきた。それが嬉しくて、でもなんだか照れ臭い。
「今日のキスの練習してもいい?あ、歯がぶつからないようにチェックするだけだからね」
「あぁ、ご自由にどうぞ」
シャオが目を閉じたので、俺はそっと彼の唇に自分のを重ねた。なんでただ唇を重ねているだけなのに、こんなに気持ちいいんだろう。何度か向きを変えてキスしていたら、シャオに後頭部を支えられた。シャオの舌が口の中に入ってくる。
「っふ…ん…ン…」
シャオの舌に舌を撫でられるのはたまらなく気持ちいい。唾液が絡み合う音にまだ慣れなくて、俺は興奮してきてしまう。
「いいのか?ましろ」
「ん…気持ちいい」
正直に答えたらシャオが優しく笑った。シャオに抱き締められて押し倒される。
「さ、姫のいいところでも探すか」
俺は今日の日程を思い出していた。
「シャオ、そんな時間ない!
今日、結婚式!!」
「あー、そうか。じゃあ夜はたっぷり可愛がってやる」
その言葉に思わずドキリとしてしまった。シャオとちゃんと、最後までするのは初めてだ。今までもお互いの体を触ったりはしていたけれど、その時もシャオはかなり俺を気遣ってくれた。俺が辛くないように怖くないように、大事に大事にしてくれた。俺だって、シャオを大事にしたい、いつもそういうことをする前は、そうやって息巻いているのだけれど、実際すると俺はただのポンコツになってしまうのだ。体に力は入らないし、体の奥にある快感の余韻が強すぎて頭がボーッとするなんてざらだ。そのまま眠ってしまうこともよくある。
そんな俺をシャオは優しく介抱してくれる。温かいタオルで体を拭いてもらったり、水を飲ませてもらったり、完全に介護状態だ。
これではいけない、と思いはしたけど、シャオは気にしていないようだ。でももう少しなんとかならないかと思ってしまう。シャオがベッドからおりて、俺に手を差し伸べてくれた。
「花嫁様、準備するぞ」
「うん」
彼の手を握る。やっぱり今日はなんだかいい日になりそうな気がする。
***
今日の式ではこの間行われた前撮りの衣装とは違うものを着る。
睡蓮がせっかくの式なのだからと選んでくれた華美なものだ。まあ、俺が選んだ衣装が無難すぎたせいもある。
「可愛いー!」
スカーさんと一緒に式場に入ると、睡蓮が席から手を振っている。俺は小さく手を振り返した。今日は母さんたちも来ているからちょっと緊張するなぁ。スカーさんは重たい衣装を着た俺を気遣ってゆっくり歩いてくれている。ウエディングドレスではないけど、それにかなり近い形状をしている。頭には大きな花飾り、そしてヴェールが顔を覆っている。まさに花嫁だ。
シャオが俺を待っている。スカーさんから離れてシャオの手を取った。それから誓いの言葉を述べて、キスをした。シャオが屈んで、俺の唇に触れるだけのキスをする。それに歓声があがる。シャオを見上げると微笑まれる。
優しい笑顔だった。
「姫、おめでとう」
「睡蓮、ありがとう」
ルシファー騎士団のみんながいて、俺の家族やシャオたちがいる。ここは魔王城にある広間だ。魔王城には教会のような設備があった。式はそこでした。それにしてもこの城、なんでもあるな。今度マシャと城を探検してみようかな。テーブルに沢山のご馳走が並んでいる。美味しそうだけど、衣装を汚せないから、後で食べられるようにパルカスさんに取っておいてもらおう。
「ましろ…!」
マシャが腰に抱きついてきた。彼を抱き締めると、マシャも更にしがみついてくる。
「か…わいい…ね?」
睡蓮にそう言うように教わったのか、マシャがちらちら睡蓮を見ながら言う。
「そうだよ。ましろ姫、可愛いねー」
睡蓮が屈んでマシャの頭を撫でながら言った。マシャが声を上げて笑う。まだ、神々の件に関しては終わっていない。シャオは自分の目の力について調べ始めたようだ。本当に不思議な力だよな。
確か、ホミールさんが封神の力とか言っていたような。そして、世界には神々が封印されていると言われる五つの祠があることも分かった。なにか分かるかもしれないから、そこを巡ってみよう、とシャオは言っていた。シャオと一緒なら何かあってもなんとかなりそうな気がする。きっと大丈夫だ。ルシファー騎士団のみんなも手伝ってくれる、心強いな。
「姫、お手を」
睡蓮が手を差し出してくる。俺はその手に自分の手を乗せた。はっきり言って睡蓮だって相当かっこいい。いつもは可愛い感じだけど、それは睡蓮のキャラクターによるものだ。ルシファー騎士団は基本的にイケメン集団だ。恐るべし。
「これから写真撮るんだってさ。
そしたら姫も着替えられるから何か食べよ?」
「!…うん!」
よかった。だってお腹がすごく空いていたからね。重たいドレスタキシードを脱ぐと解放感がすごかった。着飾るって体力要るんだなぁ。勉強になった。俺は白いフードの付いたケープと茶色いハーフパンツを身に付けている。
体が軽くなりすぎてちょっと恐ろしい。でもこれでご馳走にありつける。嬉しくなって、ありとあらゆる料理を皿に盛り付けた。
「ましろ、食ってるか?」
シャオもタキシードから着替えたらしい。ラフなシャツとパンツ姿だった。お皿にはケーキが三つのっている。ぶれないなあ。
「ケーキ、良かったね」
ウエディングケーキも食べられるようだから、あとで俺も食べてみよう。
「兄ちゃあーん!!」
突撃してきたのは一番下の弟だ。
どうしたのかな?母さんたちもやってきた。
「陛下、うちのましろがいつもお世話になっております」
シャオがしっかりモードになる。
「お母様、とんでもありません。魔界の住み心地はいかがですか?」
「ええ、すごくいいです。こんなに良いところだとは」
「それならよかったです。ましろも案じていたので、様子を見に行きたかったのですが・・・」
シャオが母さんの手を優しく握る。母さん、困ってるな。
「兄ちゃん、エネミーの子が学校に来るって本当なの?」
一番上の弟に不安そうに聞かれた。それは知らなかった。シャオはすっかり忘れていたという顔をする。最近忙しかったし仕方ないか。
「エネミーって怖いんでしょ?」
俺は屈んだ。弟の目線に合わせる。
「それなら俺と収容所に行ってみない?」
「え?」
弟はびっくりしたようだ。でもしばらく考えてこくりと頷いた。
「俺行ってみたい」
「俺も行く!ましろ兄ちゃんと一緒がいい」
わらわらと弟たちに取り囲まれてしまった。ふと見るとマシャが困ったように立ち尽くしている。
「マシャ、おいで」
そっと手を伸ばすとマシャもやってきた。
「この子はマシャっていうんだよ。仲良くしてあげて」
「お前、キャッチボールできる?」
「きゃ?」
マシャにとっても学校に行くっていう選択は良いかもしれない。ただ城にいて俺たち大人に囲まれているより同年代の子と遊んだほうがきっと楽しいはずだ。
「マシャはまだ上手く喋れないから優しく教えてあげて」
「分かったよ、兄ちゃん!ねえ、庭で遊んできていい?」
「うん。気を付けてね」
子どもたちが走り出す。マシャもいいのかな?って言う顔をしたけれど、俺が頷くと走っていった。
母さんとシャオはエネミーについて話している。まだまだエネミーの影響は大きい。それだけ大きな事件だった。
「あのくらいの子たちってかっわいいよね。はい、ジュース」
睡蓮が飲み物を持って来てくれた。
「ありがとう、睡蓮。結構生意気だよ。言ってほしくない時に正論言ってくるし」
「姫でもそう思うんだ」
「そりゃあそうだよ」
ジュースは桃の果肉が入っていた。冷たくて美味しい。
「これから忙しくなるね」
睡蓮の言葉には力が籠っていた。神々のこと、エネミーのこと、そしてマシャのこと。まだ分からないことばかりだけど、シャオはそれらが全て繋がっているのではという仮説を立てている。
ルシファー騎士団はそれを調べることにしたのだ。
「大丈夫。俺たちなら」
俺がぎゅっと拳を握って言ったら睡蓮がふわりと笑った。
「それにしても姫様って本当どこにいってもマドンナだよね」
「え?マドンナ?」
なんのことだろう?って思って首を傾げたら睡蓮が笑う。
「だって男の子にモテモテだし」
「そ、それは弟だからであって」
慌てて言ったら睡蓮が噴き出した。そして真顔になって言う。
「僕たちルシファー騎士団にとっても姫は大切な存在だよ」
顔がめちゃくちゃ熱くなった。睡蓮はイケメンだから尚更だよね。
はあ、心臓持たない。
***
「すっげー」
子どもたちがそろそろ喉が渇いているかなと思って呼びに行ったらマシャがくるんと反転してボールを掴んでいた。え?キャッチボールだよね?使っているボールはゴム製のよく跳ねるやつだ。
「マシャ、今度一緒に野球しよう。お前ならプロになれる」
「てか、このボール古すぎて変なとこに飛ぶんだよね。ずっと使ってるんだよ」
それは申し訳ないことをしたな。マシャが首を傾げている。
「みんな、おやつだって」
声を掛けたら子供たちが歓声を上げて走ってきた。
「ま・・・しろ?」
マシャが困ったように見上げてくる。俺は屈んだ。
「大丈夫?楽しかった?」
「ん」
マシャが嬉しそうに頷いている。子どもたちは素直だから態度ですぐ分かるよなあ。なんだかんだ大人の様子もしっかり窺っているし。子どもだからと侮れない。
「マシャもおやつ食べよう」
「や、きゅう」
マシャが目をきらきらさせて言う。
「カード・・」
カード?って何かな?
マシャが服のポケットから何かを取り出した。それは金色に箔押しされた凝ったカードだ。野球選手が写っている。
「わ、これどうしたの?」
確か子供向けのお菓子について来るやつだっけ?いいカードじゃないか。
「あげるって」
「マシャ、もらったの?」
「ん」
マシャがそれを大事そうに撫でる。よほど嬉しかったんだろうな。
「よかったね。お礼言った?」
「あ・・・」
マシャがふるふる首を横に振る。しまったって顔だな。
「マシャ、おやつ食べに行こ。お礼もその時にちゃんと言えば大丈夫」
「ん」
この後マシャがお礼を言って、めちゃくちゃに照れた弟はしばらく俺の背中の後ろに隠れて出てこなかった。
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