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六章

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1・俺は今、ルシファー騎士団のみんなと汽車に乗っている。そう、いよいよヒト族のすむ南の地域に向かっているのだ。魔族がこんなに集まって、と怪しむような目線を投げつけてくるヒトも中にはいたけれど、そんなのを気にしていたら、どこにも行けないわけで、しかもルシファー騎士団のヒトがそんなことを気にするわけもないのだ。みんな清々しいくらい堂々としている。

「汽車ってみんなで移動出来ていいな」

テンゲさんが窓から景色を眺めながら言う。
確かにその通りかもしれない。魔界での移動は基本徒歩だ。魔族には飛べるヒトが多いからという理由も大きいだろう。テンゲさんやスカーさんは走るのがめちゃくちゃに早い。本気を出せば汽車くらいのスピードで走れるのだそうだ。すごすぎる。

「汽車か。駅とか諸々、全部作るのに一体いくらくらいかかるんだ?」

シャオがまったく興味がなさそうに言う。それをフギさんが笑って答えた。

「そうですね。最低でも3億ガリオンは必要です」

「そんなかかるのか?」

シャオが驚いている。

「うちの王はなんとも庶民的ですからな」

ランスロットさんの言葉にみんなが笑った。シャオがそれにむすうと膨れている。

「俺は金を持たない主義なんだ。もし必要でもパルカスが払ってくれていたからな。魔界にあるだいたいの店はただで食えるし」

ぷんすこしながらシャオが言う。シャオってもしかして意外と箱入りだったりする?

「今はましろ姫が一緒にいるから、どこでも安心ですね、王」

睡蓮の言葉にシャオがこくりと頷いた。なんだかやたら素直だな。珍しい。

「ましろ、ヒト族の好きな甘いものはなんだ?」

シャオが神妙な面立ちでそう聞いてきた。急にどうしたんだろう。

「え?魔族のヒトとそこまで差はないと思うけど」

「そこは長い行列ができるって聞いたぞ」

シャオ、もうその店のことを良く知ってるんじゃないか。俺は思わず噴き出してしまった。本当におかしいな。

「シャオの行きたいところ、どこにでも付き合うよ」

「本当か?」

シャオがぱああと顔を輝かせた。シャオにもたまには楽しいお休みがなくちゃね。最近はずっと根を詰めていたし、たまになら楽しんだっていいはずだ。

「せっかくだし、みんなで行こうよ」

「姉御、さすがっす」

「せ、拙者も?」

「当たり前でしょ」

俺がそう言うとスカーさんが目を伏せる。照れてるのかな?スカーさんは優しいいいヒトだ。最近になってますますそう思う。いつも前線で有力で質の高い情報を集めてきてくれる。本当に彼や斥候さんたちには感謝しかない。

「で、王の食べたいものとは?」

そうだ、肝心なことを忘れていた。シャオが緑の目をキラキラさせながら説明してくる。

「かき氷だ。氷がふわふわしているらしい。口に入れると一瞬でなくなると聞いている。バクバク食べても頭が痛くならないとか。だからいっぱい食べるぞ!」

「楽しみですね、王」

「ああ」

それからシャオは寝ると言って窓にもたれかかって眠ってしまった。シャオらしいな。

「俺、お手洗いに行ってくるね」

もうすぐ目的地が近い。俺はそうみんなに断って車両についているトイレに向かった。用を足して手を洗っていると、誰かが叫んでいる。どうかしたのかな?俺は気になって隣の車両に向かった。そこにいたのは。

「かける?」

俺がそう声をかけるとかけるは気まずそうに振り返った。

「ましろか。お前、まだあの魔族たちと一緒なのか?」

「え?うん、そうだけど。かけるはどうしてここに?」

「うん。いろいろあって」

どうやら俺には言いたくないことらしいな。怒鳴っていたのは前にパーティで一緒だった黒魔導士のミーネだったようだ。気の強い彼女に、よくぼろくそに言われていたっけ。今となっては懐かしい。

「ましろ、魔族に不用意に近づくな。あいつらは俺たちをいつでも潰せる」

「そんなこと…」

「俺たちは断固として魔族と・・エネミーと戦う」

かけるたちはそう言って隣の車両に歩いて行ってしまった。俺の頭を戦争の二文字が過る。そんなこと絶対にさせるもんか。
かけるたちは魔族のことを何も分かっていないんだ。魔族がエネミーを殲滅しているのがそれを証明している。
俺が席に戻ろうとするとフギさんがいた。

「姫のお仲間だった方たちですね」

「フギさん」

「盗み聞きはよくないと承知していましたが姫が心配で」

「かけるは悪くないんです。ちょっと思い込んでいるだけで」

「分かっております。ですが、彼はかなりの手練れなのでしょう?」

かけるは強い。それは間違いない。だって戦士より一ランク上の勇者ジョブだ。真正面からぶつかりあったらお互いただじゃすまないだろう。

「おい」

ふと後ろから声を掛けられて俺は振り返った。イサールさんだ。落ち着かないからと彼は車内を歩いて回っていたようだ。昨日彼は、ルシファー騎士団について来てくれることになった。妹さんを亡き者にした誰かを探るために。
彼が話してくれたから知ったことだけど、イサールさんは生まれつき目が見えない。だけど彼は耳や感覚だけであらゆる状況を感知できるらしい。
あの集落で隠れていた俺たちの場所が分かったのもその能力のおかげだ。彼が命がけで習得したかけがえのない業だ。

「ましろ姫、エネミーのボスは間違いなくマザーだ。だが、俺には肝心のマザーの顔が分からない。声さえ聴ければいいんだが。そうすれば妹を殺した相手にも近づけると思うんだ」

イサールさんは悔しそうだ。
エネミーたちの声を頼りにイサールさんは動いていた。でも未だに妹さんを殺した相手に巡り合えていないらしい。俺はあの便箋のことを思い出していた。エリザ様がエネミーを主導しているという事が事実なら大変なことになる。
きっとヒト族のみんなはパニックになるだろう。周りの種族にも示しがつかない。どうしたらいいんだろう。この事を知っているのはルシファー騎士団のみんなだけだ。裏が取れない以上、行動には移せない。どうか間違いでありますようにと俺はただただ祈っている。

「イサールさん、俺たちと一緒に来てくださってありがとうございます。俺たちもあなたに出来る限り協力します」

「ありがとう、きっと妹も喜ぶ」

イサールさんも一緒にみんなの所に戻ってきてくれた。シャオはまだ眠っている。俺は彼の寝顔にちょっとほっとしたんだ。



2・「かき氷の種類がこんなに!」

汽車は無事にヒト族の住む都市に着いている。シャオの希望で入ったお店は本当に混んでいた。この人気じゃあ、行列が出来るのも無理はないな。
まだすぐに入店できただけ運が良かった。
シャオはメニューを食い入るように見つめている。

「シャオ、決まった?」

シャオは悩みに悩んでイチゴシロップのスタンダードなかき氷にしたようだ。それに練乳とソフトクリームをマシマシにしたもの。みんな各々好きなものを頼んだ。イサールさんが抹茶好きということが分かって盛り上がった。フギさんも抹茶のかき氷にしていたから余計だろう。美味しいよね、抹茶。

しばらくするとかき氷がやってくる。思っていたより大きいかも。

「でかいな!」

「本当ですね」

テンゲさんとフギさんも俺と同じことを思っていたらしい。シャオは早速かき氷を食べ始めている。甘いものが本当に大好きなんだよな。

「美味いな、コレ」

シャオの舌に合ったようで何よりだ。シャオはソフトクリームにも手をつけ始めた。ぱく、とスプーン山盛り一杯のソフトクリームを頬張っている。

「なんだこりゃ」

「美味しくないの?」

「馬鹿になりそうなくらい美味い」

「あはは、王の言うこと分かる気がします!」

睡蓮が楽しそうに笑う。そんなに美味しいのかとモウカもぱくりと自分のソフトクリームを頬張っている。

「甘くてうめえ!冷たいし最高っす」

「モウカ、良かったね」

みんなでずっとこうしていられたらどれだけいいか。俺は願う。世界の平穏を。

【ましろ】

「え?」

俺は辺りを見渡した。でも俺たち以外に俺の名前を知っているヒトはいないはずだ。

「ましろ?どうした?」

ただの気の所為かな。俺は首を横に振った。

「ううん、なんでもないよ」

「次は世界一美味いあんこを食べに行くぞ」

シャオがすごく乗り気だ。出かける前にパルカスさんからもらったお小遣いがあってよかった。それからお腹がはちきれそうになるくらい甘いものを食べた。楽しかったな。

3・夜になっている。俺たちは、レエヤさんが紹介してくれたホテルに滞在している。少し休んで明け方前にエネミーの拠点に向けて出発することになっているのだ。エネミーの動きがなるべく鈍い時を狙う作戦だ。相手もそれなりに警戒してくるだろうけど、だからって負けるわけにはいかない。エネミーの殲滅はこの世界にいるヒトすべての願いのはずだ。

「ましろ、大丈夫か?」

さっきまで食べ過ぎでトイレに籠っていたヒトに言われたくないな。ちょっとイラっとして振り返ったらシャオに抱きしめられていた。今の、全然気配を感じなかった。

「シャオ?」

名前を呼んだその瞬間にはキスされていた。さっきから行動が早過ぎない?

「ましろ、フギから聞いた。仲間に会ったんだろう?魔族を敵視してるって」

「仲間だったのはもう過去のことだよ。それに、かけるたちは自分で気が付くって」

シャオが黙って俺を見つめている。あ、心配しているな。

「大丈夫だよ、シャオ。かけるたちは子供じゃない。もう立派な大人なんだし」

「そうだけど」

シャオの返事が煮え切らない。いつもみたいにはっきり言ってくれていいのになあ。言えないのはそれだけ俺を尊重してくれてるってことか。俺はシャオの頬に手で触れた。シャオが俺の手に自分のを重ねて来る。

「シャオ。俺、きみにいつも心配させてるよね」

「俺が勝手に心配しているだけだ」

シャオの声が弱々しい。俺は笑った。

「シャオは俺が助けてって言ったらどこでも来てくれるでしょ?」

「あ、当たり前だ」

俺はその返事が嬉しかった。

「じゃあ安心じゃない。シャオが強いのは、みんな知ってるんだし」

「俺は魔王だぞ。馬鹿にするな」

シャオが俺に噛みつきそうな勢いで言う。俺はそんなシャオに抱き着いた。

「シャオ、俺を守ってね。俺はシャオをしっかりサポートするよ」

「分かった。お前を守る。約束する」

急にシャオが俺の両手を掴んできた。ん?
そのままキスされている。もしかしてこれ、えっちな展開になってる?俺は慌てて抵抗した。

「待って!やだよ、シャオ。そういうの俺たち早いでしょ!」

「じゃあいつになったらいいんだ?俺はずっとお預けなのか?」

え、そういえばいつだろう。俺は改めて考えた。

「えーと、まずはシャオが俺の母さんと家族たちに挨拶して」

「ああ」

「それからえーと」

「つまり結婚式を挙げりゃいいってこったな」

「そんな急に?」

「お前はどうしたいんだ?」

まあ今だってこうしてじゃれ合うくらい仲がいいんだし、いいのかな?

「でもエネミーを全部倒してからだからね」

「分かってる。最初の約束だしな」

シャオ、ちゃんと覚えていてくれたんだ。それがまた嬉しい。
シャオにまた抱き寄せられてキスをされる。もっとって、俺も思わない訳じゃない。これは単純に俺たちなりのけじめ、みたいなものかもしれない。俺たちがちゃんと結ばれるために必要なことなんだ。

 ***

明け方、俺たちは拠点に向けて、出発している。
スカーさんの情報によれば、三つの拠点が連携して動いているらしい。もちろん、ヒト族のエネミーもいて、町に侵入しては強盗まがいのこともしているようだ。
そんなの見過ごせるはずがない。ヒト族の住む地域を抜けると、突然砂漠地帯が広がっている。ここには昔、ヒト族が住んでいたようだ。ヒト族はここ一帯にあった限りある資源を全て吸い付くしてしまった。そのことを反省して、これ以上、星の環境を壊さないと誓った。ヒト族は少しずつ前進しようとしている。
でも、俺は最近になって思うことがある。種族なんてもう気にしなくていいんじゃないかって。
シャオや、ルシファー騎士団のみんなと出会って、ますますそう思うようになった。

みんな、それぞれ得意なことや不得意なことがある。
それをお互いが補い合えたらどれだけいいだろうって。
そんな未来を築けたらいい。

【夢みたいな話だね】

俺の頭に声が響いてくる。あの時、俺の名前を呼んだ声と一緒だ。
気の所為じゃなかった。この子は誰なんだろう?何度か俺から話しかけてみたけど返事はなかった。
とにかく今はエネミーの殲滅に集中しないと。

俺たちは集落に突撃した。
誰もいない?俺は気配を辿ろうとした。

「覚悟!!」

「ましろ!危ない!!」

シャオが俺を庇ってくれる。爆発音が辺りに響き渡った。衝撃で建物がパラパラと崩れる。
今のって。俺は震えが止まらなかった。子供が爆弾を体に巻いていた?まさか自爆したのか?

「ましろ、相手も本気なんだ。怯むな」

「こんなのひどすぎるよ」

俺はなんとか立ち上がった。足が震える。次は自爆なんかさせない、そう決意する。

俺はフィールドマップを展開した。敵がどこにいるか探り出すためだ。スカーさんの見様見真似だけどやらない手はない。

エネミーは方々に散って、俺たちルシファー騎士団と戦いを繰り広げている。でも負けるわけにはいかない。
俺はマップに手を翳した。魔力が増えて、随分色々な魔法が打てるようになっている。

「眠れ」

これは妨害魔法の一つだ。
マップ上にいる敵に対して使うことが出来る。もちろん恐ろしく魔力を使うから、これを行った後の俺はなにも出来ないポンコツと化す。

敵が眠ったのを確認した。俺たちはすぐさま彼らを収容所に送ったのだった。

***


「いよいよ相手も手段を選ばなくなっていますね」

フギさんが呟く。今回の戦いで先程向かった拠点の大半は潰した。でもまだ終わったわけじゃない。拠点を完全に潰さなくては。三か所の拠点を一度に潰すには、やっぱりこっちの人数が少なすぎる。

子供のエネミーの存在が今回浮き彫りになった。大人にそう教育されて命を散らす子供たち。
俺は先ほど自爆した子を思い出した。彼はただの肉片になってしまった。なんとか止められなかったのか。もやもや考えるけどどうすれば正解だったんだろう。分からない。

「ましろ姫、なにかご意見はありますか?」

フギさんがぼうっとしていた俺を見越してか声を掛けてくれる。俺は首を横に振った。

「大丈夫です。今は拠点を潰しましょう。子どもをもう自爆させません」

俺の言葉にみんな頷いてくれた。

少し休んだら大分魔力が回復してきた。俺は一人、バルコニーにいる。

【ましろ、気になるんでしょ。僕が誰か。君が誰なのか】

声がまた一方的に聞こえる

「気になるよ。君は誰なの?」

俺の言葉にその子はくすくす笑った。
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