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三話

好きな人

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(ウル様が好き!!)

最近、私の中で何度も反復される言葉だ。
格好良くて、余裕があって、優しくて。
こんな人を好きにならない女性、いるのかな。
他にライバルがいないか、心配になってきた。
私はまだ子供だし、大人で素敵な女性に敵う気がしない。悔しい。

「ゆうかさま!ボーッとしてどしたの?」

リゼが心配そうに声をかけてきた。
いけない、まだ宿題の途中だった。

「疲れてるならおやつを食べたらいいじゃない」

リゼがどこかの王女のように朗らかに言う。
今日のおやつはチョコレートがたっぷりのったエクレアとホットミルクティーだった。

「わぁ!美味しそう」

「ロゼちゃんの手作りだよ!」

「ロゼはなんでも作れるんだね」

「うんっ!」

リゼが嬉しそうに笑う。ロゼのことが本当に大好きなんだな。

私はエクレアにかぶりついた。中からトロッとしたクリームが溢れてくる。

「美味しい」

「よかったー!」

エクレアを食べてミルクティーを飲み干したらお腹いっぱいになった。
宿題ももう少しで終わるし、集中しよう。

宿題をこなしていたらコンコン、とノックされた。誰だろう?

「どうぞ」

「夕夏、お友達が来ている」

やってきたのがウル様でびっくりした。
それにお友達って?
私は教科書を閉じて、応接間に向かった。

ちょこん、とソファに座っていたのは水樹だった。

「水樹、どうしたの?」

声をかけると彼女が立ち上がる。
あれから、彼女とはだんだん親しくなってきていた。彼女はサバサバした性格で、一緒にいて気持ちが良い。

水樹は私に抱きついてくる。
彼女は泣いているようだった。

「水樹、大丈夫?」

彼女の背中を撫でながら尋ねると、水樹は小さな声で話し始めた。

「トウマに好きな人がいるって聞いて、あたし、普通にできなかった。トウマが誰を好きになるかなんて、トウマの自由なのに」

「そう、だったんだ」

そのモヤモヤは私にもわかる。

「夕夏、あたし、どうしよう?」

水樹にはもう答えが見えていると思う。
私は彼女の肩を掴んだ。

「トウマくんに告白しよ!」

「そうだよね、悩むなんて、あたしに似合わないよね」

「水樹は笑顔が一番似合うよ!」

「夕夏」

コンコン、とノックされる。
入ってきたのはミカエルさんだった。

「お茶をお持ちしました。
水樹様、お夕飯を召し上がっていかれたらいかがでしょうか?
お家の方にはご連絡致しますので」

水樹が困ったように私を見つめる。

「水樹、食べていきなよ」

「うん、そうします」

話を聞くと、水樹はまだ家に帰っていなかったらしい。
トウマくんのことが相当ショックだったようだ。

「ねえ、夕夏?」

お茶を飲みながら水樹が言う。

「夕夏が話してた獣人さん、素敵だね!」

「うん」

「さっきも思ったけど、めちゃくちゃ格好いいね!」

「でしょう?」

水樹にはウル様が好きなことを話していた。

水樹が一人、ぽつんと道に立ち尽くしていたところにウル様が声を掛けたらしい。
きっと心配になったんだろうな。

「夕夏は告白、しないの?」

「したいけど、迷惑じゃないかな?」

「そんなことないでしょ」

そっか、迷惑じゃないんだ。
ちょっとホッとした。

それから水樹と一緒に夕飯を食べて、ミカエルさんが彼女を送っていった。
よかった、水樹が少しでも元気になってくれて。

「夕夏、水樹さんはいい友人だな」

ウル様が呟く。

「うん、一番仲良しだよ」

「それは何よりだ」

今なら告白できそう。
私は手をぎゅっと握りしめた。

「えと、ウル様、私ね」

「どうした?」

なかなか次の言葉が継げなかった。

「夕夏?」

ウル様が首を傾げる。
やっぱり告白なんてまだ無理だ。

「なんでもないよ」

「そうか」

私は立ち上がって自室に駆け戻った。
言えなかった。
ちゃんと伝えたいのに。
自分が情けない。

ベッドに潜り込むと、情けなさのあまり泣きたくなってきた。
自分に自信のない私なんか大嫌いだ。
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