僕の死亡日記

はやしかわともえ

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十八話・振り返り

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どうやら、鵺は人が沢山いるところにやってくるらしい。そうだ、鵺は人間になりたいんだったな。自分の体を人間に寄せて、人間のように振る舞う。それが快感なのだ。でもやつは自分の狂気を隠せない。妖怪としての狂気を。元々残忍なやつだ。人を、自分以外のものを傷付けるのを厭わない。
でも自分は人間になりたいと言う。勝手な言い分だと僕は思う。それを許してはいけないと思う。

兄さんの協力もあって、地域の夏祭りのチラシには鏡の持参を呼びかける文章が追加された。高校の先生にも文化祭で使えるクーポンが配られれば、それだけお客さんが来てくれるのではないかと兄さんは上手に打診したらしい。さすが、兄さんだ。最近の文化祭の入客数が落ち込んでいたのも決め手だったそうだ。兄さん、まだ高校一年生なのに文化祭の実行委員長になるだけのことはある。
そしてついに今日、地域の夏祭りが行なわれる。
時間は夕方の四時から。本当にささやかなお祭りだけど、この辺りに昔から住む人は周りに住む人に挨拶をしにこの祭りにやってくる。僕の場合は、生まれた時からここに住んでいるので、兄さんと一緒にお母さんかお父さんが連れてきてくれていた。金魚すくいは飼えないから絶対に駄目だと言われていた幼い僕は、スーパーボールすくいをよくやったものだ。小さい僕にスーパーボールすくいはなかなか難しかった。結局一個も取れない僕に、店主さんが沢山ボールの入った袋を手渡してくれたっけ。あの時のスーパーボールは今も宝物だ。小学生の時まではそれを思い出しては取り出して眺めていた。ふと考える。僕はいつまで子供でいられるんだろう。どうしても大人にならなきゃいけないんだろうか。でも子どもで居続けるなんて不可能だ。それくらい僕にもよく分かっている。

「主人、考えてるのか?」

最近、獅子王の定位置になった僕の膝の上で彼に心配そうに尋ねられた。僕は答える代わりに彼の頭を撫でた。今日、鵺を仕留める。僕は、いや、僕たちはそう決めている。もしかしたら返り討ちにあうかもしれない。そう思うと恐怖で体が震える。でもこれが出来るのは僕だけだから、やるしかない。名刀獅子王に選ばれた僕だから。

「獅子王は、鵺を倒したらどうするの?」

僕の声は自分で思っていたより冷静だった。

「詩史と一緒にじっちゃんたちの墓参りに行きたい」

僕を主人じゃなくて名前で呼んでくれる獅子王が可愛くて、僕は笑った。そうか、戦いが終わっても一緒にいられるんだね。
僕は獅子王の頭を再び撫でた。
もう時間だ。行かなくちゃ。
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