僕の死亡日記

はやしかわともえ

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十一話・鵺②

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獅子王がすやすや眠る中、僕は課題をやっつけていた。もし、ここまで鵺が来たらどうしよう、とか思う。僕は本当にあいつを倒せるだろうか?この中で戦ったら先に家が壊れてしまうかもしれないな。僕は首を振って続きを始めた。もやもや考えても解決しない。この部屋には姿見が置いてある。鵺はきっとそれを嫌がるはずだ。

「獅子王、ちゃんと寝よう」

獅子王の体勢が眠るにはあまりにきつそうで僕は彼に声を掛けた。そんな獅子王がパチリ、と目を覚ます。まさか。

「鵺が来た、主人、行くぜ!」

獅子王が走り出した。僕も慌てて追いかける。
結構な音を立てたのに、誰も咎める人がいなかった。おばあちゃんの時と同じだ。あいつがいると周りから人がいなくなる。

「ねえ獅子王!なんで僕たちしかいないの?」

走りながら聞いたら獅子王が振り向く。

「トバリがおりてるからだ」

トバリってなんだろう?その間にも獅子王はどんどん走っていく。僕もそれに続いた。ぜいぜい言っていると、獅子王が僕の肩に触れる。すると少し楽になった。獅子王の力だろうか?

「やぁ、獅子王。久しいな」

目の前にいたのは紛れもなく鵺だ。また人の形をしている。

「お前は絶対にぶっ殺す。じっちゃんと約束したからな!」

「ほう」

じっちゃんって誰だろう?と考えている暇なんてなかった。獅子王が僕の左手に宿る。

「主人、行くぞ!」

僕は鵺に向かって駆け出した。何故僕がこうして戦えるのかは分からない。獅子王のおかげ?刀を振るうと鵺に剣先を握られた。鵺の血が手から溢れ出している。獅子王はそれだけ切れ味の鋭い刀だ。

「なかなかいい太刀さばきだね。でも君は前の主人と同様、体が軽すぎる」

あ、と思っている間に蹴飛ばされていた。僕は後ろに吹っ飛ぶ。背中が痛い。瞬間的に受け身を取れたのが幸いだった。なんでそんな事ができるのかも分からないけれど。

「ほう。君は戦いのセンスがあるようだね。それとも君は前の主人の写し身なのかな?容貌も似ているようだしね」

「ぼ…僕は…」

写し身ってどういうことなんだろう。

「主人、お前はお前だ!自分を信じろ!」

そうだ、鵺の言葉に耳を貸す必要なんかないんだ。僕は鵺の腕に獅子王を叩き込んだ。
腕がどさりと地面に落ちる。鵺はそれを自ら拾い上げた。狙うなら首か。あまりにも冷静な自分に驚く。

「ふむ…君は相当悩んでいるようだね。君は周りの人間から浮いている。違うかな?」

「主人!耳を貸すな!」

僕は困ってしまった。鵺の言う事は全てその通りだったからだ。僕は人の皮を被ったモンスターなんだ。そんなのずっと分かっていたことだ。
僕はその場に蹲ってしまっていた。鵺が高らかに笑う。

「獅子王、君の主人は皆、常に悩んでいるようだね」

「人間は皆そうだ!悩んだり苦しんだり、そうやって前に進んできたんだ!お前なんかが嗤うな!!」

「そうがなるな。とりあえず腕を付けねばな。さらば」

鵺の姿が消える。人の姿に戻った獅子王が僕に肩を貸してくれた。

「獅子王、僕…ごめん」

「主人の気持ちを考えなかった俺も悪い。ごめんな」

僕は泣いてしまった。最近すぐに泣いてしまう。これからどうなってしまうんだろう。誰にも分からない。僕は確かに周りから浮いている。学校に行った時に感じた疎外感が辛くてだんだん通えなくなっていったんだ。やっと思い出した。僕は誰かに友達になってもらいたかった。でも僕は誰とも友達になれなかったんだよな。獅子王は優しい。僕が主人だから?そう思うとますます悲しくて泣いてしまった。獅子王はずっと僕の傍にいてくれた。

「獅子王、泣いてばかりでごめんね」

「主人は優しい。そんなところも大好きだぜ!」

へへ、と獅子王がはにかむ。僕はそれに救われた。獅子王を少しでも疑った自分を呪った。獅子王は主人だからとかじゃなくて、まっすぐ僕自身を好きでいてくれている。それが嬉しかった。
僕は獅子王に思わず抱き着いていた。

「僕も君が大好きだよ」

もう僕は、そう。僕自身が写し身でもなんでもいい。鵺を絶対に殺す。
僕は改めてそう決意していた。手応えを確かに感じていた。
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