僕の死亡日記

はやしかわともえ

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六話・鵺

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ここはどこだろう?僕は気が付いた。目の前の壁に掛かった金縁の時計が七時を示している。電気がついているから多分、夜だろうか?目の前にはご馳走が沢山並んでいるし、僕は銀で出来ているらしい、重たいフォークとナイフを持っている。いや、これは僕の腕じゃない。もっと色白で華奢な腕だ。でも、僕とこの子はそんなに年が離れていないはずだ。そんな確信がある。にしても、お金持ちの家なのかな、すごく広いし立派な家だ。

「いただきます」

僕の意思に関係無く、は喋った。僕はただ様子を見ているだけということらしい。眼の前のご馳走はどんどん無くなっていく。食べたり飲んだり、食器が擦れる音。何気ない食事風景だ。そんな折だった。ガチャンと食器が割れる音がする。バタン、と扉が外れて倒れた。メイドさんが悲鳴を上げる。瞬間、彼女の首から出血する。メイドさんがぐったりと倒れた。

「何者だ!!」

ヒゲをたくわえたおじさんが立ち上がって叫ぶ。現れたのはいかにも紳士風な男だった。今なら僕にも分かる。これは現代ではない。でもいつの時代なのかも分からない。西洋の文化が日本に入ってきているということは近代なのは間違いない。僕は様子を窺った。僕には意識しかないからどうにも出来ないけど。その男が言う。

「私に貴様らにおいて価値あるものを差し出せ。でなければ皆殺しだ。あぁ、人間の欲しがる金品が欲しい訳では無い。もっと価値のあるものが欲しい」

彼は笑う。恐ろしい言葉に僕?がじっとり汗をかいていた。男はあぁ、と恍惚めいた表情で笑った。

「そうだ。今日はお前の目玉にしよう」

「なっ、なにを!ぐあああっ!!」

男がヒゲのおじさんの目玉を力ずくで抉り出している。その子の食器を持った手がぶるぶる震えているし、今にも食べたものを戻しそうな感覚がある。僕は意識だけだ。でも本当に恐ろしかった。なんでこんなことになったんだ。ようやく男は目玉を抉ると、満足気にニヤリと笑っておじさんを突き飛ばした。

「私は明日もここに来る。いいな?明日も同じように差し出せ」

僕は蔵の中で見たあの日記の内容を思い出していた。確か日記には「ぬえ」と書いてあった。この男が「ぬえ」なんだろうか?目玉を抉り取られたという記述もあの日記と合致している。それが、偶然とは思えない。つまり僕は、その日記を書いた子の中から日記に綴られた瞬間を見ているらしい。この子は一体誰なんだろう?でも、僕は自然と思っていた。不思議な感情だった。僕ならこの子を助けてあげられる、そう思ったんだ。

「っ…」

僕は病室のベッドでもぞりと寝返りを打った。傷口が熱を持ってきてめちゃくちゃ痛い。あまりの痛みに目が冴えてしまって、僕は思わず起き上がった。サイドテーブルに置いてあるショルダーバッグからスマートフォンを取り出す。
折角だから、「ぬえ」について調べてみよう。検索窓に文字を打ち込むと「鵺」という漢字が出てきた。これで合っているのかは分からないけど検索をかけてみる。
するといくつかヒットした。
「鵺」というのは、猿の頭、狸の胴体、虎の手足、尾が蛇という妖怪のことらしい。さっきの男は普通の人間だった。もしかしたら「鵺」が人間に化けているのかもしれないな。妖怪ならそれくらいのことはするだろう。そしてもう一つ、面白い記述を見つけた。「鵺」は過去に人間の手によって、退治されているらしい。つまり、人間でも倒せる相手なんだ。僕は高揚感すら覚えていた。あの子を助けられる可能性が更に増した。僕は兄さんにメッセージを打った。一緒に考えてくれないかと。きっと、明日の朝一番には返事が返ってくるはずだ。
僕は痛み止めの薬を飲んで再び目を閉じた。

鵺をなんとかしなければ。でもどうやって?僕の思考はそこで停止した。眠ってしまったからだ。
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