僕の死亡日記

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
4 / 22

四話・脱出

しおりを挟む
蔵の中で僕たちは鏡を探している。だんだん蔵の中も暑くなってきた。そりゃあそうだろう。今は梅雨時でただでさえ湿度が高い。しかもこの狭い蔵のなかを二人の人間が動き回ってるんだから。鏡は今のところ見当たらないな。

「チッ、暑いな」

兄さんは額を腕で擦った。汗が嫌でも垂れてくる。先程買ったスポーツドリンクも底を尽きた。このままだと熱中症で倒れてしまってもおかしくない。そんなの本末転倒じゃないか。

「詩史、どうする?」

兄さんがこうして僕に何かを聞いてくる時は、大抵僕も同じことを思っている時だ。

「鏡台を壊そう。おばあちゃんの大事な物だったのかもしれないけど」

兄さんが笑う。

「ばっちゃんなら、きっと分かってくれる。二人で絶対にここから逃げよう」

僕たちは鏡台を蔵の中にあったスコップでなんとか壊した。鏡の一部をそれぞれ持つ。兄さんの推測が正しければ鏡を嫌がるはずだ。
僕たちはそっと蔵を出た。きよおじさんはまだ家の中にいるんだろうか。あぁ、おばあちゃんの遺体をこれ以上放置したくない。でも今はここから逃げて大人を呼ぼう。静かに家の横を通り過ぎた。上手く逃げられたと思った瞬間だった。

「うがああぁっ」

おじさんがすごい勢いで追いかけてくる。これはやばい。鉈を振りかぶってきている。僕は咄嗟に鏡をおじさんに向けた。

「グギャアアア」

兄さんも鏡を向けている。気が付いたら、おじさんは仰向けに倒れていた。急に兄さんのスマートフォンが鳴り出す。僕のもだ。相手はお父さんだった。兄さんにはお母さんが掛けてきたらしい。もう外が薄暗くなってきているから心配していたんだろう。僕たちは二人に詳しく事情を説明した。しばらくそこにいるとパトカーがやって来る。救急車のサイレンも鳴り響いていた。何事かと近隣の人が顔を出す。さっきまで人の気配なんてなかったのに。

傍に停まったパトカーから警察の人が三人降りてきた。皆制服を着ている。

「君たちが夢々くんと詩史くん?」

僕たちは頷いた。

「とりあえず病院に行こう、ね?」

僕たちは促されるまま救急車に乗っていた。

「痛いよね?これ」

救急隊の人が僕に目を合わせて聞いてくれる。気が付くと右足首からかなり出血していた。
いつの間に怪我をしていたんだろう?痛くないから困る。僕はどうしたんだ?

「君、こんな怪我でよく歩けたね。とりあえず応急処置だけするからね」

「はい」

病院に着いたら傷口を縫うからと言われて麻酔をした。それが恐ろしい程痛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

少年少女怪奇譚 〜一位ノ毒~

しょこらあいす
ホラー
これは、「無能でも役に立ちますよ。多分」のヒロインであるジュア・ライフィンが書いたホラー物語集。 ゾッとする本格的な話から物悲しい話まで、様々なものが詰まっています。 ――もしかすると、霊があなたに取り憑くかもしれませんよ。 お読みになる際はお気をつけて。 ※無能役の本編とは何の関係もありません。

小径

砂詠 飛来
ホラー
うらみつらみに横恋慕 江戸を染めるは吉原大火―― 筆職人の与四郎と妻のお沙。 互いに想い合い、こんなにも近くにいるのに届かぬ心。 ふたりの選んだ運命は‥‥ 江戸を舞台に吉原を巻き込んでのドタバタ珍道中!(違

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

ねえ知ってる?この噂を聞くとね、

下菊みこと
ホラー
ある夏の日のこと。 なっちゃんは、伝染系の怖い噂を耳にした。 なっちゃんは一人でお留守番の時に、ドアのチャイムを鳴らされる。 なっちゃんは無事にやり過ごせるだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

あやかしのうた

akikawa
ホラー
あやかしと人間の孤独な愛の少し不思議な物語を描いた短編集(2編)。 第1部 虚妄の家 「冷たい水底であなたの名を呼んでいた。会いたくて、哀しくて・・・」 第2部 神婚 「一族の総領以外、この儀式を誰も覗き見てはならぬ。」 好奇心おう盛な幼き弟は、その晩こっそりと神の部屋に忍び込み、美しき兄と神との秘密の儀式を覗き見たーーー。 虚空に揺れし君の袖。 汝、何故に泣く? 夢さがなく我愁うれう。 夢通わせた君憎し。   想いとどめし乙女が心の露(なみだ)。 哀しき愛の唄。

処理中です...