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一話・詩史
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それはある雨の日のことだった。この日の僕は居間にある革張りのソファの上で、今、話題沸騰中のライトノベルを読んでいた。今日は月曜日で、本当なら僕は堅苦しい制服を着て、つまらない学校にいる時間だ。でも僕はこうして雨が外で滴る音を聞きながら家という守られた空間で一人、読書をしている。さすがに読書に完全に没頭とまではいかない。でも雨の音のお陰でいつもより心が落ち着いていた。外の世界が雨の音で、なんだか遠ざかった気がするからだ。
ライトノベルの内容は、主人公の女の子が相棒の魔剣と共に多難な道を切り開いていく冒険ものだ。多分僕にはそんなの、一生無理だろうな。正直に言って、僕はこの女の子が少し妬ましい。僕がひっくり返っても出来ないことを、この子は軽々とやってしまうのだから。
僕が冒険なんてしようものなら、道に迷って野垂れ死にがいいところだろう。それか、誤って崖から転落死?ああ、なんだかゾッとして体が冷えてきた。
僕は栞を本のページに挟んでソファから立ち上がった。お昼でも食べよう。お母さんが仕事に行く前に作ってくれたサンドイッチとスープがある。学校へ行かない僕に、両親はなにも言わない。学校に行かなくなったのはなんでだったっけ。もう遠い過去過ぎて、はっきり言って思い出せない。僕は何を理由に登校拒否を続けているんだろう?学校が面倒なのは紛れもない事実だ。今更、毎日学校に通うのが恥ずかしいというのももちろんある。担任の先生が時折家にやってきて、お楽しみ会があるから来てみないか?と誘ってくれるのも正直うざったい。ああ、僕は本当に何をやってるんだろう。頭を抱えそうになった時、玄関から音がした。
「詩史、ただいまー」
僕は玄関に向かった。夢々兄さんが帰ってきたのだ。兄さんと僕は年子だ。今日高校は中間テストだって言ってたっけ。兄さんはお腹をすかせているらしい。温めたスープの匂いにすぐ気が付いた。
「詩史、俺にも分けてくれ」
「いいよ」
僕はスープを二つの器に盛り付けた。お母さんはこれを見越していたのかぴったりの量だった。
サンドイッチも多めに作ってあった。
「いただきまーす」
僕たちはそれぞれサンドイッチに齧り付く。うーん、シャキシャキレタスと酸味の効いたトマトが美味い。齧り付いているうちにびろんと、ハムが出てきた。ハムとマヨネーズってなんでこんなに合うんだろう。作った人は天才だ。
「なあ、詩史。週末、じっちゃんの蔵、行ってみねえ?」
「おじいちゃんの?」
兄さんがニヤリと笑った。
「蔵にはお宝があるからな」
「お宝はさすがにないと思うけど」
お宝があったらとっくに騒ぎになってるだろう。でも久しぶりに行ってみても良いかもしれない。僕は亡くなったおじいちゃんが大好きだった。
「詩史、行くだろ?」
「うん」
僕は頷いていた。それが恐怖の始まりだと誰が分かっただろうか。そして、それが僕の人生を左右する。
ライトノベルの内容は、主人公の女の子が相棒の魔剣と共に多難な道を切り開いていく冒険ものだ。多分僕にはそんなの、一生無理だろうな。正直に言って、僕はこの女の子が少し妬ましい。僕がひっくり返っても出来ないことを、この子は軽々とやってしまうのだから。
僕が冒険なんてしようものなら、道に迷って野垂れ死にがいいところだろう。それか、誤って崖から転落死?ああ、なんだかゾッとして体が冷えてきた。
僕は栞を本のページに挟んでソファから立ち上がった。お昼でも食べよう。お母さんが仕事に行く前に作ってくれたサンドイッチとスープがある。学校へ行かない僕に、両親はなにも言わない。学校に行かなくなったのはなんでだったっけ。もう遠い過去過ぎて、はっきり言って思い出せない。僕は何を理由に登校拒否を続けているんだろう?学校が面倒なのは紛れもない事実だ。今更、毎日学校に通うのが恥ずかしいというのももちろんある。担任の先生が時折家にやってきて、お楽しみ会があるから来てみないか?と誘ってくれるのも正直うざったい。ああ、僕は本当に何をやってるんだろう。頭を抱えそうになった時、玄関から音がした。
「詩史、ただいまー」
僕は玄関に向かった。夢々兄さんが帰ってきたのだ。兄さんと僕は年子だ。今日高校は中間テストだって言ってたっけ。兄さんはお腹をすかせているらしい。温めたスープの匂いにすぐ気が付いた。
「詩史、俺にも分けてくれ」
「いいよ」
僕はスープを二つの器に盛り付けた。お母さんはこれを見越していたのかぴったりの量だった。
サンドイッチも多めに作ってあった。
「いただきまーす」
僕たちはそれぞれサンドイッチに齧り付く。うーん、シャキシャキレタスと酸味の効いたトマトが美味い。齧り付いているうちにびろんと、ハムが出てきた。ハムとマヨネーズってなんでこんなに合うんだろう。作った人は天才だ。
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お宝があったらとっくに騒ぎになってるだろう。でも久しぶりに行ってみても良いかもしれない。僕は亡くなったおじいちゃんが大好きだった。
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