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第二話「サチの結婚式」
怪現象と国王
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次の日、レイラが目を覚ますとまだ明け方だった。
隣りにいたラウはもういない。
「おはようございます。レイラさん」
レイラが起き上がると、ラウは椅子に座ってお茶を飲みながら新聞を読んでいた。
レイラは慌てて目を擦って、欠伸を噛み殺す。
「お、おはようございます、ラウ様。もう起きていらしたんですね」
「ここは暖かいですね。ベッドからすぐ出られました」
ラウがニコニコしながら言う。
確かにラクサスに比べれば、ここは遙かに暖かい。
それだけラクサスは過酷な環境にある。
「ラウ様もベッドから出られなかったりするんですね」
パートナーの意外な一面を知って、レイラは笑ってしまった。
いつもラウは早起きなのだ。
「今日は隣にレイラさんがいましたから、早く起きたかったんです」
「そう、なんですか?」
なんでだろう?とレイラは首を傾げた。
ラウが近寄って来て、レイラを抱き締める。
「ら、ラウ様?!」
ちゅ、とそのままラウに額にキスされて、レイラは真っ赤になった、
「レイラさんの寝顔も見られました。何よりです」
「~っ!!」
照れて、声にならない叫びをあげるレイラだった。
それから、子供たちを起こして朝食を宿で摂った。
「城は大通りに面してる。ようするにすぐそこだ。さて、一体なにがわかるやら」
カヤはそう言ってパンに齧り付く。
「カヤ、危険なことが起こりそうならば私達は引きます。あなたもそうすると約束してください」
カヤはしばらく黙っていた。
レイラはこの沈黙にドキドキした。この兄は基本的に自由を好む。
「分かったよ、ラウ。お前の方が立場は上だ。それに俺だって自分の命は惜しいからな」
「ありがとう。カヤ」
カヤがそう言ってくれてよかった、とレイラも胸を撫で下ろした。
「じゃ、城に行くか!」
こうしてカヤたちは宿を後にして、城に向かった。
城へ続く大通りには市場が並び賑やかだ。
もうしばらく先に行くと、人だかりができている。何かの店の前のようだ。
「なんだ?ありゃあ」
カヤが背伸びをして様子を窺った。
「アメリア…」
イヴがそう呟いたのをレイラは聞いた。
レイラは屈む。イヴの大きな瞳を見つめて尋ねた。
「イヴ、何か知っているのか?」
「あたしの妹…」
イヴは明らかに動揺している。
レイラは震えている彼女を抱き締めた。
「あたし、アメリアを泉に置いてきちゃったの。アメリアは外に行きたく無いって。だから…!」
「そのアメリアさんがここにいるのか?」
レイラの言葉にイヴが頷いた。
「ま、確認してみるか」
カヤが静かに言う。
レイラたちはなんとか人だかりを避けて一番前に出た。
いつの間にかとてもいい匂いが漂っている。
パンだ。
それをみんなが求めてこの騒ぎが起きているらしい。
「姉さん!!来てくれたの?」
そう叫んだ綺麗な女性がイヴに抱き付いている。
イヴとは違い、大人の女性だ。白いエプロンが眩しい。
その差にレイラは絶句した。
「アメリアなの?」
イヴの言葉に彼女は頷いた。
「姉さん、無事でよかった。心配だった」
「うん、れいらたちにちゃんと会えたよ。
アメリアはどうしてここに?」
「理由はあとで話すね。先にパンを売ってしまいたいから」
パンが欲しいと騒いでいる客に淡々と接客する青年の姿も確認できた。
彼女の恋人かもしれないな、とレイラは思う。
「アメリア、後でくるね」
イヴの言葉にアメリアは手を振って応えてくれた。
再び一行は城を目指して歩いていた。
「イヴ、妹がいたんだ」
トウマが言う。イヴは首を振った。
「本当は妹じゃないの。
あの子は捨てられていた人間の赤ちゃん、あたしが育てた最後の赤ちゃん」
「え?」
「あの子はあたしが育てた。名前をつけて、言葉を教えた。あの子はずっと泉で暮らすのだと思っていた」
イヴが笑う。
「あたし、前は人間じゃなかったから」
その笑顔が悲しそうで、レイラは思わず彼女を抱き締めていた。
「今は人間だ、妖精だったとしてもイヴはイヴだ」
「れいら…」
イヴが、いろいろな物を捨ててレイラたちの元へ来てくれていたのがようやく分かる。
「なんで俺達の所に来てくれたの?」
トウマが尋ねるとイヴが言う。
「あたしもずっと人間になりたかった。れいらと生きてみたかった。れいらがあたしにそう決意させてくれた」
「そっか。俺達の所に来てくれてありがとうな、イヴ」
レイラは彼女の頭を撫でた。
「着いたぞ」
目の前に見えるのは巨大な門だった。
両端に兵士が槍を持って立っている。
いよいよ城内に入るのだ。
兵士に、国王にアポイントメントを取ってあることをラウが告げると、あっさり門が開いた。
間近で見る城は厳かにそびえている。
「すごい…」
トウマが呟く。レイラも全く同じ気持ちだった。
レイラ達が通されたのは謁見の間ではなく、国王の寝室だった。
朝はゆっくりするのが国王の日課らしい。
「陛下、ラクサス地方のラウ伯爵がお見えです!!」
兵士がハキハキと言う。
国王は笑った。立派な髭だな、なんてレイラは思う。
「久しぶりだな、ラウ。
会うのは何年ぶりだろうか?ラクサスで上手くやっていると聞いた」
ラウが跪く。
「ご無沙汰してしまい申し訳ありません。ラクサスの経済は回復してきています。
それとご報告が」
「なんだ?」
「もうすぐ、花弁症の治療法が分かるかもしれません」
国王はしばらく何も言わなかった。
驚いているようだ。
「そうか…良くやった。
では、本題に入ろうか。カヤがいるということは、私に褒められに来ただけじゃないのだろう?」
カヤも前に出て跪く。
「この城で何かが起きていると聞いています。私の聞いたところ、不審な人物が城を出入りしてるのだとか…」
国王は愉快そうに笑いだした。
「ふむ、なるほどな。大丈夫だ、危険ではない。私が頼んで来てもらっている」
「そうなのですか?」
ラウの言葉に、国王はいたずらっぽく笑ってみせた。
「ラウ、お前なら分かるだろう。
私は甘いものに目がない」
「はぁ…」
結局分からずじまいで、謁見は終わりを告げたのだった。広い城内から出るために、ラウたちは中を歩いていた。
「危険ではないということだけは、分かりましたが」
ラウが呟く。
「ま、心配しなくて良さそうだし、大丈夫じゃ」
キラっと廊下の片隅で何かが光る。
「今光った?」
トウマの言葉にレイラは頷いた。確かに何かが光った。
これが怪現象だろうか。
害はないが気味が悪いのは確かだ。
「報告の通りですね」
ふむ、とラウが頷いている。
また向こうで光が走った。
「追いかけてみようぜ」
カヤが走り出した。レイラ達もそれに続く。
光はどんどん国王の寝室に向かって行っている。
「あの光、知ってる」
イヴが呟く。レイラには言葉の意味が分からなかった。
寝室のドアは奇跡的に少し開いていた。
レイラ達はそっと中を窺う。
そこには嬉しそうにパンを頬張っている国王とアメリアがいた。
楽しそうに二人で会話をしている。
「彼女が陛下にパンを持ってくるためにああしていたのですね」
ラウがそっと囁いた。
「確かに城に入るのに一般市民じゃ難しいもんな」
カヤも同意する。
「あたしが教えた魔法・・・使えるようになったんだ」
イヴが嬉しそうに笑っている。
その笑顔が誇らしそうでレイラも嬉しくなった。
隣りにいたラウはもういない。
「おはようございます。レイラさん」
レイラが起き上がると、ラウは椅子に座ってお茶を飲みながら新聞を読んでいた。
レイラは慌てて目を擦って、欠伸を噛み殺す。
「お、おはようございます、ラウ様。もう起きていらしたんですね」
「ここは暖かいですね。ベッドからすぐ出られました」
ラウがニコニコしながら言う。
確かにラクサスに比べれば、ここは遙かに暖かい。
それだけラクサスは過酷な環境にある。
「ラウ様もベッドから出られなかったりするんですね」
パートナーの意外な一面を知って、レイラは笑ってしまった。
いつもラウは早起きなのだ。
「今日は隣にレイラさんがいましたから、早く起きたかったんです」
「そう、なんですか?」
なんでだろう?とレイラは首を傾げた。
ラウが近寄って来て、レイラを抱き締める。
「ら、ラウ様?!」
ちゅ、とそのままラウに額にキスされて、レイラは真っ赤になった、
「レイラさんの寝顔も見られました。何よりです」
「~っ!!」
照れて、声にならない叫びをあげるレイラだった。
それから、子供たちを起こして朝食を宿で摂った。
「城は大通りに面してる。ようするにすぐそこだ。さて、一体なにがわかるやら」
カヤはそう言ってパンに齧り付く。
「カヤ、危険なことが起こりそうならば私達は引きます。あなたもそうすると約束してください」
カヤはしばらく黙っていた。
レイラはこの沈黙にドキドキした。この兄は基本的に自由を好む。
「分かったよ、ラウ。お前の方が立場は上だ。それに俺だって自分の命は惜しいからな」
「ありがとう。カヤ」
カヤがそう言ってくれてよかった、とレイラも胸を撫で下ろした。
「じゃ、城に行くか!」
こうしてカヤたちは宿を後にして、城に向かった。
城へ続く大通りには市場が並び賑やかだ。
もうしばらく先に行くと、人だかりができている。何かの店の前のようだ。
「なんだ?ありゃあ」
カヤが背伸びをして様子を窺った。
「アメリア…」
イヴがそう呟いたのをレイラは聞いた。
レイラは屈む。イヴの大きな瞳を見つめて尋ねた。
「イヴ、何か知っているのか?」
「あたしの妹…」
イヴは明らかに動揺している。
レイラは震えている彼女を抱き締めた。
「あたし、アメリアを泉に置いてきちゃったの。アメリアは外に行きたく無いって。だから…!」
「そのアメリアさんがここにいるのか?」
レイラの言葉にイヴが頷いた。
「ま、確認してみるか」
カヤが静かに言う。
レイラたちはなんとか人だかりを避けて一番前に出た。
いつの間にかとてもいい匂いが漂っている。
パンだ。
それをみんなが求めてこの騒ぎが起きているらしい。
「姉さん!!来てくれたの?」
そう叫んだ綺麗な女性がイヴに抱き付いている。
イヴとは違い、大人の女性だ。白いエプロンが眩しい。
その差にレイラは絶句した。
「アメリアなの?」
イヴの言葉に彼女は頷いた。
「姉さん、無事でよかった。心配だった」
「うん、れいらたちにちゃんと会えたよ。
アメリアはどうしてここに?」
「理由はあとで話すね。先にパンを売ってしまいたいから」
パンが欲しいと騒いでいる客に淡々と接客する青年の姿も確認できた。
彼女の恋人かもしれないな、とレイラは思う。
「アメリア、後でくるね」
イヴの言葉にアメリアは手を振って応えてくれた。
再び一行は城を目指して歩いていた。
「イヴ、妹がいたんだ」
トウマが言う。イヴは首を振った。
「本当は妹じゃないの。
あの子は捨てられていた人間の赤ちゃん、あたしが育てた最後の赤ちゃん」
「え?」
「あの子はあたしが育てた。名前をつけて、言葉を教えた。あの子はずっと泉で暮らすのだと思っていた」
イヴが笑う。
「あたし、前は人間じゃなかったから」
その笑顔が悲しそうで、レイラは思わず彼女を抱き締めていた。
「今は人間だ、妖精だったとしてもイヴはイヴだ」
「れいら…」
イヴが、いろいろな物を捨ててレイラたちの元へ来てくれていたのがようやく分かる。
「なんで俺達の所に来てくれたの?」
トウマが尋ねるとイヴが言う。
「あたしもずっと人間になりたかった。れいらと生きてみたかった。れいらがあたしにそう決意させてくれた」
「そっか。俺達の所に来てくれてありがとうな、イヴ」
レイラは彼女の頭を撫でた。
「着いたぞ」
目の前に見えるのは巨大な門だった。
両端に兵士が槍を持って立っている。
いよいよ城内に入るのだ。
兵士に、国王にアポイントメントを取ってあることをラウが告げると、あっさり門が開いた。
間近で見る城は厳かにそびえている。
「すごい…」
トウマが呟く。レイラも全く同じ気持ちだった。
レイラ達が通されたのは謁見の間ではなく、国王の寝室だった。
朝はゆっくりするのが国王の日課らしい。
「陛下、ラクサス地方のラウ伯爵がお見えです!!」
兵士がハキハキと言う。
国王は笑った。立派な髭だな、なんてレイラは思う。
「久しぶりだな、ラウ。
会うのは何年ぶりだろうか?ラクサスで上手くやっていると聞いた」
ラウが跪く。
「ご無沙汰してしまい申し訳ありません。ラクサスの経済は回復してきています。
それとご報告が」
「なんだ?」
「もうすぐ、花弁症の治療法が分かるかもしれません」
国王はしばらく何も言わなかった。
驚いているようだ。
「そうか…良くやった。
では、本題に入ろうか。カヤがいるということは、私に褒められに来ただけじゃないのだろう?」
カヤも前に出て跪く。
「この城で何かが起きていると聞いています。私の聞いたところ、不審な人物が城を出入りしてるのだとか…」
国王は愉快そうに笑いだした。
「ふむ、なるほどな。大丈夫だ、危険ではない。私が頼んで来てもらっている」
「そうなのですか?」
ラウの言葉に、国王はいたずらっぽく笑ってみせた。
「ラウ、お前なら分かるだろう。
私は甘いものに目がない」
「はぁ…」
結局分からずじまいで、謁見は終わりを告げたのだった。広い城内から出るために、ラウたちは中を歩いていた。
「危険ではないということだけは、分かりましたが」
ラウが呟く。
「ま、心配しなくて良さそうだし、大丈夫じゃ」
キラっと廊下の片隅で何かが光る。
「今光った?」
トウマの言葉にレイラは頷いた。確かに何かが光った。
これが怪現象だろうか。
害はないが気味が悪いのは確かだ。
「報告の通りですね」
ふむ、とラウが頷いている。
また向こうで光が走った。
「追いかけてみようぜ」
カヤが走り出した。レイラ達もそれに続く。
光はどんどん国王の寝室に向かって行っている。
「あの光、知ってる」
イヴが呟く。レイラには言葉の意味が分からなかった。
寝室のドアは奇跡的に少し開いていた。
レイラ達はそっと中を窺う。
そこには嬉しそうにパンを頬張っている国王とアメリアがいた。
楽しそうに二人で会話をしている。
「彼女が陛下にパンを持ってくるためにああしていたのですね」
ラウがそっと囁いた。
「確かに城に入るのに一般市民じゃ難しいもんな」
カヤも同意する。
「あたしが教えた魔法・・・使えるようになったんだ」
イヴが嬉しそうに笑っている。
その笑顔が誇らしそうでレイラも嬉しくなった。
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