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おまけSS

アカツキのデート任務

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「アカツキー!頼むよー!!」

「申し訳ありませんが、隊長は不在で」

「えー!!」

ここはアンデルフォン公国騎兵隊の宿舎。
アカツキがようやくフォゼットから帰ってくると、当然仕事が山積みになっていた。

そんな忙しい中、キリトがやってきた。
なんだか嫌な予感がしたアカツキは居留守を使うことにした。
だがそんなことでへこたれるキリトではない。
アカツキが帰ってくるまで帰らないと言ってここに居座るつもりらしい。

「アカツキ隊長、どうされますか?」

他の騎士に聞かれ、アカツキはため息をついた。キリトも忙しいはずなのだが、彼はこうして頻繁にアンデルフォンにやってくる。

「仕方ない。キリトを通せ」

「は!!」

アカツキはやれやれと頭を抱えた。キリトに関することは大抵面倒なことである。
今回もそうなることが目に見えている。

(俺も大概お人好しだよな)

「アカツキー!やっぱり居たんだ!
居留守なんて寂しいよー!俺はこんなにアカツキを想っているのに」

キリトはこういう男である。
アカツキは盛大にため息をついた。

「気持ち悪いこと言うな。で、用ってなんだ?」

「ラッセちゃんが買い物に行くから荷物持ちしてって」

アカツキは一瞬固まった。固まらざるを得なかったのだ。

「おま…!そんなことの為にここまで来たのか?」

「そんなことじゃないよ。女の子の言うことは聞くものでしょう?」

「トミーに冷たいお前がそれを言うのか?」

「まあまあ」

「いや、まあまあじゃなくてだな」

キリトが、あ!と立ち上がる。

「俺、これから仕事だから!ラッセちゃんのことは頼んだよ!じゃ!」

キリトは逃げるように去っていった。 

「あいつ…一回絞め落とす」

アカツキが物騒な言葉を吐いているのを聞いた他の騎士は震え上がったそうだ。

✣✣✣

「アカツキ?」

アカツキは普段バイクで移動している。
未だにフォゼット国の機能は回復していないが、国民は変わらず生活出来ているようだ。
高い科学力が上手く働いたらしい。

ギルドの前に向かうと、ちょうどラッセが出てきたところだった。
ラッセがこちらにててて、と駆け寄ってくる。

「アカツキ、なんでここに?」

「キリトがお前の買い物の荷物持ちをしてやれって言いやがってな」

「え…それでわざわざアンデルフォンから来てくれたのか?ほとんど冗談だったのに」

アカツキはため息を吐いた。

(キリトは絞め落としたあとぶん殴る、グーで)

アカツキは心の中でそう誓った。

「でも来てくれて助かる。今日は本当に重たいものばかりで」

ラッセがにっこり笑う。
人形のような顔立ちをしている彼女が笑うと華やかさが増す。

「じゃあ行くか」

アカツキはバイクを近くの駐車場に停めた。
無料で使えるのは助かる。

「で、何を買うんだ?」

ラッセはメモを取り出した。

「えっと液晶ディスプレイ3つにキーボード。
あと外付けのハードディスクだ。あとはケーブルとかだな」

「本当にでかい買い物だな」

ラッセが笑う。

「国が金を出してくれるからな。セキュリティに必要なんだ」

「なるほど」

あれからラッセは改めて国のセキュリティという役目を買って出たのだと言っていた。
毎日姉と交代で休息を取りながら見ているらしい。

二人はそんな近況を話しながら街を歩いていた。ラッセ目当ての店は街の郊外にあるらしい。

「なあアカツキ。なんで今日は来てくれたんだ?」

ちらちらとラッセに見つめられて、アカツキは困った。
ラッセはやっぱり可愛らしい。
今日の彼女は黒いプリーツスカートにベージュのコートを着ていた。足元はヒールが付いた黒いブーツを履いている。

「俺がここに来なきゃお前が困るだろーが。キリトはどうせ来れないんだろうし」

「ありがとう、アカツキ」

彼女の笑顔にドキリとしてしまう。

「アカツキ。俺、お前のこと好きだ。
ずっと言いたかった」

「…」

ラッセの言葉は純粋に嬉しかった。自分も彼女に好意を抱いている。
アカツキは言った。


「俺にだけ、お前の本当の名前を教えてくれ」

ラッセは屈んだ彼にだけ聴こえる様に囁いた。

「内緒だからな!」

ラッセが慌てたように言う。

「あぁ、誰にも言わないよ。約束する。
ほら、買い物するんだろ、行くぞ」

二人の恋は始まったばかりだ。


おわり
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