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食事会

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夏風邪もすっかり良くなって、ついに食事会の日になった。
私は朝から緊張して、胸がドキドキしていた。昨日はなかなか寝付けなかった。

相手の方がどんな方なのかついに分かる。素敵な人だといいのだけど。

「ムギ、このワンピースはどう?新しく作ってみたのよ」

お母様が差し出してくれたのはワインレッドのワンピースだった。
袖がパフスリーブになった可愛らしいものだ。お母様が作るワンピースは全部可愛い。

「うん!これ可愛い!」

「よかったわ。じゃあ着替えましょうか」

お母様に手伝ってもらってワンピースを着る。背中にホックがあるタイプだ。
私は鏡を眺めた。
肩までの金髪の髪。そして紅い瞳。
私の家の人はみんなこの紅い瞳を受け継いでいるらしい。
この紅い瞳があったからこの家は続いてきたと言われているくらいだ。
何か私の知らない不思議な力があるのかもしれない。

(だったらいいのにな)

鏡を見ながらそんなことを思っていたら、ドアがノックされる。
お母様が代わりに答えてくれた。

「ムギー、俺も行っていいでしょ?」

やって来たのはユイ兄様だった。
私は思わず笑ってしまった。
これはもう四度目だったから。

お母様も笑っている。

「ユイ、他のお兄様にも言ったけれど、今日は私達三人で行くのよ」

「でも…!」

ユイ兄様は本当に私を心配してくれている。

「ユイ兄様、帰ってきたらちゃんとお話するわ」

「約束だかんなー?」

「うん、約束する」

ユイ兄様はしばらく私を見つめていた。そして言う。

「ムギ、可愛いな。そのワンピースもよく似合っているし」

「ありがとう」

「ほらほらユイ。もうすぐ先生がいらっしゃるのだから」

ユイ兄様が口を尖らせる。今日は家庭教師の先生が来るのだ。

ユイ兄様は教えてもらわなくてもなんでもそつなくこなせる。
だからなんでもつまらないのだ、とお母様は言っていたっけ。

「じゃあ、ムギ。いってら」

「行って来ます」

私達は馬車に乗り込んだ。
お父様が向かいに座って、私とお母様は並んで座る。

馬車がガタゴトと走り出す。
今日は街にあるレストランを貸し切って食事会をすることになっている。

「いいお天気ね」

「本当に」

街に入ると途端に騒がしくなる。
最近は車が走り始めているから余計だろう。

「ツムギ、失礼のないようにな」

お父様が顎髭をなでながら言う。
私は頷いた。
馬車を降りてレストランに入る。

「これはこれはお待ちしておりました!
ヴァル様!!お席はこちらになります」

そう言って出迎えてくれたのはレストランのオーナーさんだった。
天井にはシャンデリアが飾られている。

(綺麗)

シャンデリアに見惚れていたら誰かが店に入ってくる。
その人は眼帯をしていた。
私は何故だか泣きたくなった。

(私はこの人を知っている)

そんな訳はないのに、そう思った。
お父様が駆け寄るようにその人に近付く。
そして頭を下げた。私達もそれに倣う。

「クヴェール様、お待ちしておりました」

「私はキリトといいます。好きなように呼んでください」

キリト様は平板な声でそう言って私を見つめてきた。
私も彼を見つめた。
なんて綺麗な人なんだろう。
だから、余計黒い眼帯が目立つ。
彼の瞳はエメラルドグリーンだった。
まるで宝石みたいだ。

「こら、キリト。先に行かないでくれ」

後ろからふうふう言いながら歩いてきたのは丸いお腹のおじさまだった。

「クヴェール伯爵!!」

お父様が声を上げる。

「やぁヴァルくん。久しいね。
うちの息子がなにか失礼をしていなければいいのだけど」

「は、滅相もない!とりあえず、席に!」

こうして食事会は始まったのだった。
キリト様は自分から話すことはなかった。
ただ、たまに私をじっと見つめてくる。

(嫌われているわけじゃないみたい)

私もキリト様を見つめ返して笑いかけた。
そうするとキリト様もほんのりと表情が緩むような気がして嬉しかった。
私達は黙々と食事をした。

お父様達は雑談で盛り上がっていたし、お母様もそれに相槌を打つのに忙しかったようだ。
私達の行動には気が付いていなかった。

食後のお茶が出る。食事会はもう終わってしまうのだ。
このままキリト様が帰ってしまうのに私は耐えきれなかった。

もっと一緒にいたかった。

(はしたないって思われるかしら)

キリト様が口を開く。

「父さん、私はツムギさんと街を歩いてきます。待っていて頂けますか?」

「む、構わんがツムギさんは?」

クヴェール伯爵が私を見つめる。

「私もキリト様とお話したいです」

「そうか。やはり若いもの同士がいいよなあ!!」

ガハハとクヴェール伯爵が笑う。

「ツムギさん」

キリト様が私に手を差し伸べてくる。
私はドキドキしたけれど彼の手に自分の手を置いた。

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