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警察

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僕達は電車を乗り継いで、ようやく東京駅にいる。ここからは新幹線に乗ることになっていた。
でももう今日の電車は終わってしまっている。
出発は明日の早朝だ。

警察の人達はあれから見かけていない。
でもずっと愛斗を探しているのは間違いなかった。愛斗は家族から愛されている。それが僕には純粋に羨ましかった。

愛斗は僕なんかのために不幸になっちゃいけない、そう思う。
本当ならきっぱり『やめよう』って言うべきなんだ。
でも言えないのは僕がどこかで愛斗に嫉妬しているからだろう。
僕はなんて卑しいやつなんだ。
愛斗はそんな僕の気持ちを知らない。


「むぎ、漫画喫茶を探して入ろう。
都内だからどっか近くにあるだろ。
お前、怪我してるんだしちゃんと休まないとな」

「愛斗、やっぱり…」

ここに来るまで僕はずっと迷っていた。
『やめよう、引き返そう』、そう言いたいと願いながらなかなか出来ないでいた。
でも愛斗を見ていたら言わなくちゃって思った。

「ここから引き返してどうするんだ。
俺はもうむぎといるって決めた。
だからお前も俺と居てくれ」

「愛斗…本当にいいの?」

「いい。今やらなかったら俺はきっと後悔するから」

愛斗は優しい。僕のためにここまでしてくれるんだ。
涙が溢れてくる。嬉しい。

「愛斗、ありがとう。大好きだよ」

「俺もむぎが大好きだ」

ネオンが瞬く街を二人で手を繋いで歩いた。幸い通るのは車だけで、人が来る様子はない。

「お、あった」

愛斗が声を上げる。
そこにあったのは漫画喫茶だった。

中に入ると警察の人がいた。
愛斗を探しに来たんだ。

「小早川愛斗くん、だね?」

警察の人はまだ若そうだ。お兄さんというのが相応しいだろう。

「僕と一緒に家に帰ろう」


「むぎ、行くぞ!!」

愛斗に腕を掴まれて、僕達は走り出した。
やっぱり自由なんて僕らにはないんだ。

僕達は大きな公園にある遊具の中に身を潜めていた。
今は6月下旬、天気が悪い。
今にも降り出しそうだ。
梅雨だからしょうがないけれど。

公園のいい所は水飲み場があるところだ。
僕達は全力で走って、喉がカラカラだった。
緊張もあったと思う。
だからいつにも増して水を飲んだ。
トイレもあるから最高に良かった。

「今日はここで野宿だな。俺が見てるからむぎは寝てろ」

「で…でも」

「いいから。北海道ったってここからそんなに離れてないよ。明日新幹線に乗りさえすればすぐだ」

「愛斗…僕達、本当に北海道まで行けるの?大人には敵わないんじゃ」

つい涙声になってしまった。
愛斗が僕の頭を優しく撫でる。

「大丈夫。俺がいる。絶対むぎを守るから」

「愛斗」

僕は愛斗にしがみついていた。
遊具の中は中学生の僕ら二人が一緒にいるのには小さくて、でもその狭さに僕はほっとした。隣には大好きな愛斗がいる。

(ずっとこうしていられたら)

それが無理な願いであることは、もちろん僕にもわかっている。
でも愛斗とこうして一緒にいられるだけですごく幸せだった。

僕はいつの間にか眠ってしまっていたらしかった。
ふと、目が覚めると辺りは明るい。
隣の愛斗も眠っていた。
ずっと活動していたんだ。疲れていても無理はない。

僕はそっと外の様子を窺った。
誰かがいる気配はない。

「むぎ…どうした?誰かいるのか?」

愛斗も起きたらしい。振り返ると目を擦っている。

「大丈夫みたい」

「そうか。ならすぐに駅に行こう!」

僕は頷いた。

(新幹線に乗れるかな、もしかしたら無理かもしれない)

最悪な事が起きる覚悟はしておかなきゃいけない。
僕達は遊具から這い出て歩き始めた。
漫画喫茶からでたらめに走ったから、自分達がどこにいるのかよくわからなかった。

おぼろげな記憶を頼りに歩く。
時折ある標識で自分達の場所を確認した。
東京駅という表示を見つけた時はすごく嬉しかった。
僕達が東京駅に着いた時にはすでに午前10時を回っていた。愛斗が指定していた新幹線には結局間に合わなかった。
でも自由席になら乗れる、と愛斗が教えてくれた。
新幹線が静かに滑り込んでくる。

「逆に間に合わなくてよかったかもな」

愛斗が笑いながら言った。確かにその通りかもしれない。
時間通りに行っていたらおまわりさんに捕まっていた可能性が高い。
愛斗が函館までの切符を買ったことはもうとっくにバレているだろうし、時間だってきっと把握されていたはずだ。

もしかしたら、逆に捜査の目をかく乱できたのかもしれない。

愛斗と新幹線に乗り込む。
僕達は一瞬ホッとした。
このまま無事に函館に行けるかはわからない。
でも行きたい気持ちが僕の中で勝ってきていた。

新幹線がゆったりと発車する。
僕達はお互いを見て笑い合った。
愛斗とずっと一緒にいたい。僕はそれだけを願っていた。
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