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龍の里で昼飯を食べ終えて、俺は売店の会計の列に並んでいる。もちろん、お土産のおせんべいを買うためにだ。辺りに漂う醤油の香ばしい香りが食欲をそそる。皆には箱に入った甘辛のおせんべいを買った。そして、もう一枚、巨大なぬれせんを買ってみた。顔くらいのサイズがあるうえ、ぬれせんとはいえ、ほかほかしている。それを持ってルネのところに戻った。

「ルネ、これ食べる?」

「うん、たまにはいいかも!」

せんべいの入った袋の中でせんべいを半分に割った。

「はい、姫様」

「ありがと」

二人でせんべいに齧り付く。焼き立てはやっぱり美味いな。ぬれせんだからちょっとしっとりしてるのもまたいい。

「うん、やっぱりこの味だよ」

ルネにとっては地元の味なんだろうな。

「美味しいね。ねえ、なんで龍の里でせんべいなの?」

「龍の里はね美味しいお米がとれるの。だからお餅も美味しいし。お酒だってあるよ」

至れり尽くせりだなぁ。お米が美味しいのは間違いない。さっき食べた卵かけご飯定食で、卵もさることながらご飯の美味しさに驚いたもんな。もうせんべいも残りひと口か。ルネも幸せそうに食べているな。

「あぁ、美味しかった。お腹いっぱい」

ルネが腹をさすっている。随分お腹も膨らんできたな。

「これから飛空艇で王城都市に戻ってピンフィーネさんに報告しよう」

「お土産もあるしね!」

俺たちはもう一度屋敷に向かった。

「あの、俺たち王城に帰ります。良くしていただいて本当にありがとうございました」

「気を付けて帰ってね」

ルネのお母さん、優しいな。ルネは全然って言うけれどそんなことないと思う。ハクを連れて俺たちは再び飛空艇に乗り込んだ。再び厩舎にハクを連れて行く。馬番のヒトはこの間とは違うおじさんだったけど、ハクを見て一言、綺麗だと呟いた。皆思うことは一緒なんだな。さすが馬番さん。
俺たちは飛空艇の自分の部屋に入った。快適そうなのは間違いない。その瞬間だった。耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

「今のなに?」

ルネが尋ねてくる。何かが起きたのは間違いない。

「行ってみよう」

俺たちは部屋を飛び出した。廊下に出るとその場は騒然としていた。誰かが倒れている。男のヒトか?

「はいはい、下がってねー。ブロリア、死因分かる?」

「あぁ、恐らく毒殺だな」

「ブロリア!」

俺は思わず声をかけていた。ブロリアがこちらを見るなり破顔する。

「ショーゴか。お前も乗っていたんだな」

「知り合い?」

そのヒトは長い赤毛を一つに束ねていた。男性だけど妖艶な雰囲気があるな。

「あぁ。こいつはショーゴっていうんだ。異世界からの召喚者だぞ」

「え!めっちゃレアキャラ!しかも龍姫様も一緒?すごーい!」

喜んでいるところ申し訳ないけれど、ヒトが死んでしまっている。

「あの、何が起きたんですか?」

俺の言葉にブロリアが頷く。そして声を張り上げた。

「皆さん、ヒトが亡くなってしまっています。落ち着いて自分の部屋に戻ってください。飛空艇は今、山の上空を飛んでいます。そのため、着陸が難しい状態です」

「これは殺人なのか!殺人だとしたら犯人がいるだろう!」

ステッキを振り上げながら帽子をかぶった初老の男性が大声を出す。それに周りの人がざわざわし始めた。
それでもブロリアは冷静だ。

「今、警察から指示待ちの状態です。落ち着いてください」

「落ち着くも何も、あんたらを信用しろってのが無理な話じゃないか?」

金色の髪の毛をオールバックにした若い男性が言う。ますますざわついてきたな。

「皆、落ち着いて」

いつの間にかルネがブロリアの隣りにいた。

「な…龍姫様?」

場がどよめく。ルネはやっぱり有名人だもんな。

「僕がこのヒトたちを見ているから安心して」

龍姫であるルネの言葉は皆に響いたらしい。それぞれの自室に戻り始めた。さすがルネだ。

「ありがとう、龍姫様」

「ううん。とにかく警察が来るまで待とうよ」

ブロリアが少し困ったような顔をして笑った。くい、と親指で先ほどの赤毛の男性を示す。

「こいつ、ルイって言うんだけど一応警察関係者。今謹慎中」

ルイさん、何やったんだろう。俺の心配をよそに、彼は朗らかに笑った。

「ショーゴ、龍姫様、ルイだ!よろしくな!」

握手、と言われてルイさんに手を握られてブンブン振られた。無邪気なヒトだな。

「二人にも情報集めを頼みたい」

え、俺たち素人だぞ?俺が戸惑ったのが伝わったのか、ブロリアは笑った。

「大丈夫だ。難しい話じゃない。防犯カメラの映像を取ってきてほしいんだ。その方が捜査も捗る」

「取ってくる…ってどういうこと?」

ルネが首を傾げる。

「あぁ、ここのセキュリティは抜群だからな。全ての映像データが地上の中継局を通過して本部に送られるんだ。ショーゴ、お前にはここから一番近い中継局に向かって欲しい。龍姫様は俺たちといたほうが都合がいいんだろう?」

確かにその通りだ。ルイさんはともかく、ブロリアは信頼出来る。

「キータ」

「キィ」

ブロリアが肩に乗った小さなサル、キータの頭を撫でている。可愛いけどこの子、俺には塩対応である。

「ショーゴに力を貸してやれ」

「キィ」

ぴょんっとキータが俺の肩に飛び乗ってきた。うわ、意外と重たいな。

「キィ?」

大きな瞳が俺を見つめている。俺を窺っているようだ。

「よろしくね、キータ」

「キィ?」

キータは俺の肩の上で丸くなった。お昼寝タイムか。

「ショーゴ、気を付けてね」

「ルネもね」

俺たちはお互いを見合って頷いた。
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