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神殿付近から、またコトリタクシーに乗って、俺たちは最近出来たばかりの街に来ている。その名は「クロガネ」。そもそもさっきまでいた神殿が、「くろがねの神殿」という名前だったらしい。それがこの街の名の由来なのではないかとルネが言っていた。アイアンさんも言っていたもんな。神殿周りにはモンスターが出にくいって。だんだんモンスターの数は減ってきているみたいだけど、いなくなるということはないらしい。まだまだ凶暴なモンスターが闊歩している場所もあるようだ。俺たちはその街の宿に泊まることにした。まだ真新しい施設で、木の匂いがした。部屋に入ると畳だった。い草のいい匂いがする。

「日本みたいだな」

思わず言ったら、ルネが首を傾げた。

「ショーゴが生まれた国?」

「うん。ここからすれば異世界なんだよね」

俺はテーブルの上にお茶のパックがあることに気がついた。お菓子もあるぞ。

「ルネ、お茶飲む?お菓子もあるよ」

「わぁ!飲むー!」

お菓子は紛れもなく和菓子だった。渋いお茶によく合う甘さだ。

「美味しい」

ルネの口にも合ったみたいだな。

「ね、ショーゴ」

「ん?」

ルネが不安そうな表情で言う。

「もし、もしね、元にいた世界に帰れるってなったら帰りたい?」

俺はびっくりしたけど、考えた。もう随分長いことここにはいるしなぁ。

「うーん、帰らないかなぁ。だって俺、あっちに居場所なかったし」

「え?そうなの?」

「うん、仕事はろくに出来ないし、友達もいなかったしなぁ」

「ショーゴが?」

「うん」

ルネは本当に驚いていた。

「ショーゴの周りにいたヒト、見る目なさ過ぎない?」

呆れたように言って、ルネが俺の傍にやってくる。俺はルネを抱き寄せて膝に乗せた。可愛いなぁ。

「僕、もし行けたらショーゴのいた世界に行ってみたいな。それでショーゴの家族にご挨拶したい
の」

そうか、一応孫が出来たことになるのか。父さんたちが喜んでくれるかはまた別として。でもルネは見たとおり美人さんだ。受け入れられないとはならないような気がする。

「そうだね、二人で行けたら行こう」

ルネがぱっと顔を輝かせた。そういえば、連絡をピンフィーネさんに入れなくちゃいけなかった。俺は端末を手に取った。くろがねの神殿に行ったことを書く。明日はまた移動して、次の神殿を目指すことになっている。そのようなことをつらつら書いていたら、地面が揺れた。

「地震?!」

「ショーゴ、見て!モンスターだよ!」

「な…なんでまた?!」

神殿周りにはモンスターが少ないんじゃなかったか?話が違うじゃないか!ドシンドシンと巨大なモンスターが走ってくる。つぶらな目が可愛いな、じゃなくて。
俺は外に出てモンスターの前にたちはだかった。
ちょっと強めに威圧のオーラを出してみる。

「ギュウウ」

モンスターたちが俺のオーラに怯えて足を止めた。体を優しく撫でると、その場に座り込む。ルネもまたモンスターたちの体を撫でていた。

「ショーゴ、この子たち逃げて来たみたい」

逃げて来た?

「きゃあああ!!」

悲鳴があちらこちらから上がる。その後ろからやってきたそれに、俺は固まってしまった。雷を纏ったモンスターが咆哮を上げながら迫ってくる。巨大な翼をはためかせるとバリバリと電流が走る。なんだこいつ。俺はそいつを見ていた。

「ルネ、皆の避難の誘導を頼む。俺はこいつを追い払うから」

「ショーゴ!気を付けてね!」

「あぁ!」

ルネが街の人たちに落ち着いて行動するように声を掛けている。俺は鳥に向かい合った。

「人間ごときがルネ姫に命令するとは…」

なんかこんなセリフ、つい最近聞いた気がするな。

「えーと、もしかして、神殿の関係者様ですか?」

「…」

鳥が黙った。図星だったのかな?俺たちはしばらく見合った。

「ええい!!人間ごときがうるさいぞ!!バチバチにしてやるからな!」

奴が羽ばたくと風がすごいな。バリバリと電流も走るし当たったら死ぬかな?んー、高いところは怖いけどやってみよう。俺は地面を蹴って跳んだ。うん、怖いけど思ったより高く跳べるな。

「な…!!」

鳥が一瞬戸惑ったのを狙って奴の背中に飛び乗った。うわぁ、毛がモフモフしてる。鳥がジタバタし始めた。

「ちょ!なにすんだ!降りろ!!」

「クソ!!人間!モフモフすな!!」

「ニッケルー?チタンー?何やってるのー?」  

戻ってきたルネがジト目で言う。

「姫様!!」

「あたいたちはそんな!!」

俺はルネの前に跳んだ。鳥が消えて、二人の少女が現れる。双子なのかな?浅黒い肌の子と、真っ白な肌の子だ。二人共すごく焦った様子だ。

「知り合い?」

俺がルネに尋ねると、ルネはため息を吐いた。

「浅黒肌がニッケル、白いのはチタン。二人共、神殿を守護する精霊だよ。くろがねの神殿からそんなに離れてなかったはず…」

「姫様!こいつに無理やり迫られたって!」

ニッケルにビシィッと指を差される。またか。

「姫様の処女が」

うっうっ、とチタンが泣き始めてしまった。うーん、大変気まずいな!

「それ、誰情報?」

ん?ルネからとてつもない殺気が。

「「アイアン」」

二人は同時に声を揃えた。声が震えていたのは気の所為じゃない。

「アイアン…まだ信じてないわけ?」

「姫様は純情だからって」

ニッケルが慌てたように取り繕う。

「いい?二人共。他の子にも伝えて。僕はショーゴが好きで子供を作ったの。無理やりにとかじゃないんだよ。むしろ迫ったのは僕なんだからね」

「…」

二人共黙ってしまったな。ルネに言われたことがまだ信じられないのかもしれない。

「ならあたいらと力比べをさせてくださいよ!」

「そうです!姫様の隣にいるためにはそれだけの力量が求められるはず!」

ニッケルとチタンは食い下がった。

「俺は構わないよ」

そう言ったら、ルネにため息を吐かれた。

「ショーゴはホントお人好しだなぁ。ま、そこも好きなんだけどね。いいよ。どこか広い場所に行こうか」

ルネが笑ってくれてホッとしたのは多分俺だけじゃないはずだ。
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