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「ショーゴ…」

 目を開けると綺麗な青い瞳が心配そうに俺を見つめていた。そうだ、俺、異世界に来ちゃってるんだったな。すっかり寝ちまった。

「どうしたの?ルネ?」

 ルネのすべすべした白い肌を撫でたら、ルネが俺の胸に頭を乗せてくる。ルネの髪の毛は綺麗なプラチナブロンドだ。癖毛なのかゆるく渦巻いている。俺は彼の頭を撫でた。ルネが再び起き上がって俺を見つめてくる。

「ショーゴがなかなか起きないから怖かった」

 あぁ、爆睡してたのか、俺。まだ疲労で身体が痛いし、完全に筋肉痛だ。基本的に運動不足なんだよな。現代日本はそれだけ恵まれているってことか?

「ショーゴ、大好き」

 ルネがまた抱き着いてくる。いつの間にかめちゃくちゃ懐かれちゃったなぁ。俺は思い出していた。大事なことだから確認しておかなきゃいけない。

「昨日、力を貸してくれたのルネだよな?」

「なんで分かったの?」

 ルネがびっくり!とテロップが入りそうな表情をする。いや、分からない方が逆にびっくりな気がするんだけどな?

「えーと、なんとなく」

 正直に答えるとルネを傷つけそうだったのでぼやかしておいた。ルネが嬉しそうににこにこしている。

「ショーゴが僕を助けてくれたから、そのお礼。ショーゴはだから強くなったんだよ」

「そうなんだ」

 グギュルルルと凄まじい音がして、俺はルネを見つめた。ルネが顔を赤くしている。

「お…お腹空いた」

「朝ごはん食べようか」

 とりあえず今日はこの世界についてもっと調べてみないとな。勇者が早くこの世界に来てくれたらいいんだけど。そしたら俺はどうなるんだろう?

 ルネを連れて俺は昨日のギルドに向かった。確か中に飯屋があったはずだ。ギルドには他の冒険者もいるみたいだな。クエストボードを熱心に見つめている。

「わー、美味しい」

 ルネが焼飯を食べながら綺麗な青い瞳をキラキラさせている。俺も同じものを食べている。よかった、知らない食べ物じゃなくて。虫とか変なものは食べられそうにないもんなぁ。

「お前がショーゴか?」

 ツカツカと高い足音をさせてやって来たのは、小柄な女性だった。綺麗な人だな。赤毛ロング可愛い。まるでゲームのキャラクターみたいだ。露出の高い装備がそう思わせる。

「は、はい」

「私はピンフィーネ。城の騎士団長を務めている。お前が昨日、ドラゴナグルを討伐したと聞いてな」

 ん、とピンフィーネさんがルネを見つめて敬礼した。

龍姫りゅうき様でしたか!!!お食事中のところ、大変お騒がせ致しました!」

 さっきまであんなにふんぞり返っていたピンフィーネさんがペコペコしている。え?ルネって何者?龍姫?

「ともかく、ショーゴよ、今日の午後、城に来るように。お前の腕前が見たいからな」

「は、はあ」

 腕前って言われても、昨日のは、全部ルネのおかげだしなぁ。ピンフィーネさんは再びルネに敬礼して去っていった。

「ルネ、龍姫ってなに?」

 ルネは顔をしかめる。あまり話したくなさそうだな。でも一応知っておいたほうがいい。

「できたら教えて欲しいな。俺はこの世界に来たばかりだし」

 そう頼むと、ルネは渋々といった様子で話し始めた。

「僕は最古龍の一族の一人なの。龍姫っていうのは一族のために占いをして先のことを決める役割をする龍のこと」

「えー、じゃあきっと一族のヒトはルネのことを探してるね!」

 ルネは仲間とはぐれたと言っていたし、探してもらった方がこちらとしても安心だ。

「僕、ショーゴと一緒がいいな」

 ぽつっとルネが言う。可愛いなぁ。

「俺も一緒がいいけど、ちゃんと仲間のヒトに許可を取ったほうがいいんじゃないかな?」

 そう言ったらルネがはにかんで、うんと頷いてくれた。それから俺はカーナさんにこの国のことについて詳しく知りたいからどうすればいいか、と尋ねた。端末に情報が入っていると教えてもらい、俺はルネと休憩スペースに座った。ルネはお腹いっぱいになって眠たくなったのか欠伸をしている。端末はスマートフォンみたいな形だ。タッチ操作できるのもよく似ている。

 地図を見て俺は驚いてしまった。未開の土地が広すぎる。この地方はモアグリアというらしい。
 小さな村がいくつか点在している。俺がいるのもその村の一つのようだ。
しかもつい最近魔王が現れた。謎過ぎる。
ルネが俺の肩に寄りかかってくる。どうやら眠ってしまったらしい。ルネの頭を撫でていたら、誰かがやってきた。ルネが目を覚ます。

「ルネシア、探しました」

ルネと同じプラチナブロンドの長い髪をおろした女性。綺麗な人だな。

「姉さん…」

「その方があなたの番?」

番って…。ルネが立ち上がる。驚くほど冷たい声音だった。

「ショーゴからまだ許可をもらってない」

「そう、なら早く許可を頂くのよ」

 姉さんと呼ばれた彼女は一瞬でいなくなってしまった。

「ルネ、今のって?」

「僕の姉さん。最古龍の里長なんだ。龍姫は番を持つと更に強力な力が得られるなんていう昔話を信じてる頭の硬いヒト。そんなの関係ないのに」

 ぷうとルネが頬を膨らます。先程の冷たい声とは打って変わって可愛らしい声に戻っている。

「えーと、番って確か?」

「結婚するってこと」

 やっぱりそうですよね?!ルネは可愛いけど、急に結婚なんて言われてもな。

「ショーゴ、君は気にしなくていいからね」

「ルネはそれで大丈夫なの?」

 ルネはくすくす笑った。

「大丈夫だよ。あとね、僕、仲間からはぐれたんじゃないんだ。村から飛び出してきたんだよ。もう戻らないつもりだったのに、姉さんにもう居場所がバレちゃった…」

「ルネ…」

ルネにも色々事情がありそうだ。

にしてもルネと結婚かぁ、その甘い響きに惹かれないわけでもないけれど。あれ?俺もルネのこと、めちゃくちゃ好きになっている。ルネのこともっと知りたいな。とりあえずピンフィーネさんと約束している午後までまだ時間がある。俺は再び端末で情報を漁りまくった。
ルネは隣でうつらうつらしている。昨日、良く眠れなかったのかもしれないな。怖い夢をみたのかもしれない。

俺は端末に目を向けた。情報を見る限り、魔王は大陸の中央に位置する土地に拠点を構えたらしい。ここから随分離れているけれど、モンスターが増えたり少なからず土地に影響はあったようだ。魔王はただ君臨しているだけで動きを見せないらしい。それも不気味だ。だから早く勇者を呼ぼうってなったとか。気持ちは分かるけど、巻き込まれた俺みたいなのは困るよなぁ。世界観としては人気作のRPGとそこまで変わらない。ディアじゃないけど死なないようにだけ気を付けよう。
この世界に復活の呪文はないみたいだから。
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