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6・ライア観光
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「茜、こっちだ」
「わああ」
茜はキョロキョロと辺りを見渡した。都市というだけあって、高い建物が建ち並んでいる。ライアには大規模な漁港があり、新鮮な魚が早朝から食べられるようだ。
茜はイブに手を引かれて歩いていた。部屋にいた時は気が付かなかったが、今は夏らしい。なるべく涼しい格好をした方がいいと、茜は水色の薄手のシャツにデニムのパンツを履いている。イブに案内され、次にやって来たのは巨大なタワーだった。
明らかに観光地といった風情に茜は口を開けたままタワーの頂上を見上げた。自分は先程まで、同じくらいの高さのマンションにいたのだが、そんなことはとうに忘れている。
「茜、登ってみるか?」
イブに問われ茜はふるふると首を横に振った。やはり高所は怖い。
「そうか、茜は高所恐怖症なのか。だからいつもブラインドを下ろしているんだな」
「うん」
茜はすっかりイブの住むタワーマンションでの暮らしに慣れてきている。窓から下をうっかり眺めないように、茜はブラインドを下ろしたのだ。こうすることで、随分快適になった。
「じゃあ次に行こうか」
「次はどこへ行くの?」
「昼飯を食べよう」
食事と聞いて、茜の碧色の瞳が輝き出す。
「茜は食べるのが好きだもんな」
「うん、大好きだよ」
イブに茶化されたが、茜は大真面目に頷いた。
「何が食べたい?この辺りならタクシーを拾って鰻を食べようか?」
「食べる!!」
茜の頭はすっかり鰻に夢中だ。イブはサッとタクシーを停めて茜が車に乗るのを手伝ってくれた。
この世界は異世界だが、茜がもともといた地球とそう変わらないらしい。魔法や伝説級の魔物もいるらしいが、タワーマンションから滅多に出ない茜にはあまり関係のない話だ。イブがタクシーの運転手に店の名を告げると、運転手はすぐに分かったらしい。二つ返事で答えて車を走らせた。
イブの言った店は路地の奥まった所にあるらしい。知る人ぞ知る名店だとイブは笑いながら説明してくれた。イブの後をついて茜が店に入ると、こじんまりとしていた。照明はやや薄暗いが、それがまた良い雰囲気だ。イブと茜が席に着くと店員らしき男がにこやかな表情でやってきた。
「らっしゃい」
「特上2つ」
「あいよ。飲み物は?」
「任せる」
「へい、今お持ちします」
茜はそっとイブに話しかけた。
「ここ、高いでしょ」
「まぁそれなりにはな」
「イブの金持ち…」
「それ、貶してるのか?」
イブが困ったように笑っている。茜はじっと彼を見つめた。全く隙のない完璧なイケメンぶりについ溜息が出てしまう。
「茜、疲れたか?」
「うん、でもゲーム買ってもらうし頑張る」
「あぁ。食べたら見に行こうな。茜はどんなゲームがしたいんだ?」
「RPGがいい。いいのある?」
「あぁ、名作が揃ってる。好きなのあるといいな」
「お飲み物になります」
話しているとグラスが2つ運ばれてきた。青い液体がなみなみと注がれている。
「なにこれ」
「あぁ、ライア酒だ。甘い」
「へえ、甘いんだ」
茜はちびっと口に含んだ。ふわっと花の香りが鼻を抜ける。
「美味しい」
「アルコールが強いからゆっくり飲むんだぞ」
「はーい」
大きな鰻の蒲焼きが載ったお重もやって来て、茜はもりもり食べた。
「美味しい。ふふ、幸せ」
「茜、よく噛んで食えよ」
「はーい」
その後、茜はイブにゲーム一式を丸ごと買ってもらったのだった。
「わああ」
茜はキョロキョロと辺りを見渡した。都市というだけあって、高い建物が建ち並んでいる。ライアには大規模な漁港があり、新鮮な魚が早朝から食べられるようだ。
茜はイブに手を引かれて歩いていた。部屋にいた時は気が付かなかったが、今は夏らしい。なるべく涼しい格好をした方がいいと、茜は水色の薄手のシャツにデニムのパンツを履いている。イブに案内され、次にやって来たのは巨大なタワーだった。
明らかに観光地といった風情に茜は口を開けたままタワーの頂上を見上げた。自分は先程まで、同じくらいの高さのマンションにいたのだが、そんなことはとうに忘れている。
「茜、登ってみるか?」
イブに問われ茜はふるふると首を横に振った。やはり高所は怖い。
「そうか、茜は高所恐怖症なのか。だからいつもブラインドを下ろしているんだな」
「うん」
茜はすっかりイブの住むタワーマンションでの暮らしに慣れてきている。窓から下をうっかり眺めないように、茜はブラインドを下ろしたのだ。こうすることで、随分快適になった。
「じゃあ次に行こうか」
「次はどこへ行くの?」
「昼飯を食べよう」
食事と聞いて、茜の碧色の瞳が輝き出す。
「茜は食べるのが好きだもんな」
「うん、大好きだよ」
イブに茶化されたが、茜は大真面目に頷いた。
「何が食べたい?この辺りならタクシーを拾って鰻を食べようか?」
「食べる!!」
茜の頭はすっかり鰻に夢中だ。イブはサッとタクシーを停めて茜が車に乗るのを手伝ってくれた。
この世界は異世界だが、茜がもともといた地球とそう変わらないらしい。魔法や伝説級の魔物もいるらしいが、タワーマンションから滅多に出ない茜にはあまり関係のない話だ。イブがタクシーの運転手に店の名を告げると、運転手はすぐに分かったらしい。二つ返事で答えて車を走らせた。
イブの言った店は路地の奥まった所にあるらしい。知る人ぞ知る名店だとイブは笑いながら説明してくれた。イブの後をついて茜が店に入ると、こじんまりとしていた。照明はやや薄暗いが、それがまた良い雰囲気だ。イブと茜が席に着くと店員らしき男がにこやかな表情でやってきた。
「らっしゃい」
「特上2つ」
「あいよ。飲み物は?」
「任せる」
「へい、今お持ちします」
茜はそっとイブに話しかけた。
「ここ、高いでしょ」
「まぁそれなりにはな」
「イブの金持ち…」
「それ、貶してるのか?」
イブが困ったように笑っている。茜はじっと彼を見つめた。全く隙のない完璧なイケメンぶりについ溜息が出てしまう。
「茜、疲れたか?」
「うん、でもゲーム買ってもらうし頑張る」
「あぁ。食べたら見に行こうな。茜はどんなゲームがしたいんだ?」
「RPGがいい。いいのある?」
「あぁ、名作が揃ってる。好きなのあるといいな」
「お飲み物になります」
話しているとグラスが2つ運ばれてきた。青い液体がなみなみと注がれている。
「なにこれ」
「あぁ、ライア酒だ。甘い」
「へえ、甘いんだ」
茜はちびっと口に含んだ。ふわっと花の香りが鼻を抜ける。
「美味しい」
「アルコールが強いからゆっくり飲むんだぞ」
「はーい」
大きな鰻の蒲焼きが載ったお重もやって来て、茜はもりもり食べた。
「美味しい。ふふ、幸せ」
「茜、よく噛んで食えよ」
「はーい」
その後、茜はイブにゲーム一式を丸ごと買ってもらったのだった。
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