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15・旅立つ前に

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「で…出来た」

今日も心海はいつもの漫研部の部室にいる。眼の前には仕上がったばかりの原稿があった。もちろん出版社に持ち込むための大事な原稿だ。念の為、コピーも取った。

「ここちゃん、お疲れ様」

瑛太が隣の椅子に座ってくる。

「瑛太くんたちが沢山アドバイスくれたから描けたよ。本当にありがとう」

「描いたのはここちゃんなんだし、すごいよ。頑張ったね。今日出版社に行くの?」

「うん、アポを取れたのが今日しかなくて、ギリギリだったから焦ったよ」

「本当だね」

ふふ、と瑛太が笑う。

「あ、いけない。これから講義があるんだった!行って来ます!」

大事な原稿を封筒に入れて、心海は教室に向かった。この講義が終わったら出版社に向かう手筈になっている。自分の作品がどう評価されるか緊張するが今更だ。

(うぅ、ドキドキし過ぎて講義の内容が入ってこない。いや、集中しなくちゃね。自分で通いたいって決めた大学なんだから)

心海が大学に入った理由、それは「なんとなく」だったりする。具体的な目標は入ってから決めるという緩さで、ここに入学した。
心海は幼い頃から、勉強が出来る方だったので、国立のこの大学も危なげなく入学出来た。
親もそこまで干渉してくるタイプではない。時々心海から電話をかけて近況報告をするくらいだ。
心海はノートを取り、大事な所にマーカーで線を引っ張った。どうやらテスト範囲の話をしているらしい。

(あ、そうだった。夏休み前に試験があるよね)

すっかり忘れていた、と心海は試験日程の書かれたプリントを受け取った。自分の今取っている講義を確認して、マーカーでチェックを入れる。

(よし、りっくんと一緒に勉強しようっと)

そんなことを思っていると講義も終わっていた。

✢✢✢

(えーと、ここかなぁ)

心海は出版社の前にやって来ている。だんだん駅の乗り換えも分かるようになってきた。雨がぽつぽつ降り始めたので、慌てて建物の中に入った。なかなか梅雨前線は去ってくれない。

「えーと、すみません。今日お約束をしている新田です」

「少々お待ち下さい」

中に入り、分からないながらもそう告げると、奥から編集者らしき人が現れた。

「こっちへ!どうぞ!」

「よ、よろしくお願いします」

心海は慌てて彼の後をついていった。心海は原稿を彼に渡す。それから20分程アドバイスをもらうことが出来たのだった。

✢✢✢

(はは、ボロクソ言われた…けど、いいところもあるって言ってもらえたし、また描いたら持ってきてって言われたんだからよかったよね)

心海は先程受け取った名刺を見つめた。するとスマホが振動を始める。心海が画面を見つめると律からだった。

「どうだった?」

心海は嬉しくなって返信した。そして試験のこともだ。

「あぁ、一緒に勉強しような」

(俺はやっぱりりっくんじゃなきゃやだ)
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