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8・三角形

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「よし、入稿完了だよ」

次の日、漫研はお祝いムードだった。出展するスペースも無事に決まったらしい。これで肝心の本さえ出来れば準備は完了だ。心海はホッと息を吐いた。初めてのことだらけで、毎日がドキドキだ。

「ねえ、ここちゃん」

先輩の一人にずいと顔を寄せられて心海は少し後ずさった。

「なんでしょう?」

「コスプレに挑戦してみない?」

「へ?」

予想外の言葉に心海は固まることしかできない。

「俺がコスプレ…?」

「そうなの、ここちゃんなら絶対に可愛くなると思うし!」

「可愛くって…まさか…」

「そう!このドレス!ここちゃんなら着られるでしょう!」

もう断りきれない空気になっている。それにコミックマーケットというイベントはお祭りに近いと聞いている。ええい、ままよと心海は頷いていた。

「分かりました、着ます」

「本当?いいの?やったー!」

「その代わり、ちゃんと可愛くしてくださいね」

「するするー!」

「ここちゃんのコスプレ、僕も見たかったから嬉しいな」

瑛太が話しかけてくる。確か彼もコスプレ班に引き抜かれていた。顔がいいというのは、それだけで武器になる。

「瑛太くんは何を着るの?」

「ドレスだよ、ここちゃんの対のデザインのドレス」

「わぁ、瑛太くんが着たら本物のお姫様みたいになるね!」

「ここちゃんだってなるよ」

「そ、そうかな?」

えへへ、と照れていると、瑛太に手を取られていた。

「あの、君の幼馴染のことなんだけど…」

そういえば喧嘩はまだ終わっていなかった。

「りっくんに君にちゃんと謝ってって言ったよ。もう怒ってないから大丈夫」

「そうじゃないんだ。お詫びに三人で遊園地に行かない?」

「え」

「前にも言ったけど、僕はここちゃんをまだ諦められない。でも僕と君、二人でデートするわけにはいかないよね?だから三人でならどうかなって」

なるほどと心海は思った。もしかしたら三人で仲良く出来るかもしれない。だが決裂する場合も考えられる。

「えっと、とりあえずりっくんに聞いてみるね」

「ありがとう、ここちゃん。イベント、頑張ろうね」

「うん」

今日はバイトがなかったので心海は早めに帰宅することにした。せっかくイベントに行くのなら、贔屓にしているサークルを見に行きたい。というわけで、スマートフォンを駆使して、サークルチェックをしている。

(ふあぁ!いい感じにえっちー。これも買うし、これも買う。そうだ、取り置いてもらえるか頼んでみよ)

自宅の最寄り駅に到着し、家に入ると静かだった。

「りっくんはまだ帰ってこないし、通販で買った同人誌でも読もうっと」

心海は今一番好きなジャンルの同人誌を自分のご褒美に買っていた。律の前では出さないように気を付けている。セクシュアルというのは人それぞれだからだ。

「この展開を待っていた!きゃっほー!」

心海はすっかり同人誌を堪能したのだった。
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