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5・存在

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「ふふーん♪ここで卵を投入だ」

心海は一人で鼻歌を歌いながらオムライスを作っている。サラダとスープも作ったので、お腹いっぱいになるのは間違いない。時計を見ると既に午後九時を回っている。カチリと鍵が開く音がして、心海は玄関に向かった。

「りっくん、お帰り」

「ああ、ただいま。腹減った」

「ご飯の支度出来てるよ」

「おお、サンキュ」

律は相当走ったのか、カバンに入ったジャージは泥だらけだった。

「お洗濯するね」

「いや、自分でするよ。お前も疲れてるだろ?今日からサークル活動始まるって言ってたじゃねえか」

「同人誌の原稿描くことになった!」

「すげえな。急に漫画描けるのか?」

律が驚くのも無理はない。心海は先ほど譲ってもらった資料を律に見せた。

「へえ、専門書ってやつかあ」

律がぱらぱらとページを捲りながら見ている。

「心海は普通に絵が上手いもんな。ま、やれるだろ」

「え!そんなの初耳だよ」

「はあ?皆知ってるし、お前だけだよ、それ知らないの」

「えええ」

戸惑ったがもう今更だ。

「あとね、スマホにお絵描きアプリ入れてみた」

これ、とスマートフォンを律に見せる。

「知らなかったのか」

「うん、知らなかったねえ」

どうやら律は知っていると思っていたらしい。

「まあいいや。これから描きまくればいいんだしな」

「うん、原稿ね、3ページもやらせてもらえるんだよ。ジャンルも今一番人気の作品だし」

「よかったな」

「それでね瑛太くんっていう子と仲良くなったんだよ」

「誰だ?」

心なしか律の声が鋭くなったような気がする。なんでだろうと心海は考えてみたが分かるはずもない。

「えっと同級生なの。優しくて絵が上手くてイケメンなんだ。それで、絵の練習に付き合ってもらったの」

「そうか。よかったな」

律は言葉ではそう言ってくれたが顔が険しいままだ。

「りっくん?もしかして怒ってる?」

「いや。心海が楽しいのは俺も嬉しいよ」

「りっくん、ありがとう」

にっこり笑うと律が頭を撫でてくれた。

「とりあえず飯食うわ。待たせてごめんな」

心海は大丈夫と笑った。

「あのね、りっくんに絵を見てもらいたいの」

「お前、散々恥ずかしがっておいて」

「だから見てもらいたいの。俺の絵の悪い所を教えて欲しい」

「悪いとこかあ」

早速、もぐもぐしながら律が呟いた。

「これ、さっきスマホで描いてみたの」

画面を見せると律がじいっと絵を見ている。心海が描いたのはキャラクターのイラストだ。

「いや、普通に上手いけど?直すとこなんかあるのか?」

「りっくん、優しい」

「いや、普通だろ?
まぁ絵のプロとかに見てもらえばまた違うんだろうけどさ」

「俺ね、持ち込み用の漫画描いてみようかなって思ってるの」

「え?マジか?」

「うん。せっかく大学生になったんだし何か挑戦してみたい」

「心海はすげえな、お前カッコいいよ」

「本当?」

「あぁ」

「よっし、やるぞぉ!」

「心海、頑張りすぎないようにな」

「うん!気を付けるよ。りっくんは部活どうだったの?」

「まぁはじめは走らされるわなぁ」

「洗礼だね!」

「勉強も頑張らないとだし、また一緒にやろうぜ」

「うん!」

自分はやっぱり律が大好きだ。心海は改めて確信していた。
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