上 下
85 / 86
SS2

飛行機に乗って

しおりを挟む
「間もなく搭乗手続きが始まります」

有人は改めて周りを見回した。沢山の人が大きなスーツケースを持って楽しそうにしている。
有人もまた小さなキャリーケースを持っていることには持っていたが、思わず萎縮してしまう。

「あるさん、もうすぐ飛行機に乗れますよ」

「わあ、楽しみです。でも少し怖いなあ」

隼人がくすりと笑った。

「大丈夫ですよ。車より遥かに安全ですから」

隼人がまとまった休みが取れることが正式に決まった五月。
二人は北海道へ旅行に行くことにしたのだ。
有人は初めて行くのでガイドブックを買ってきて隼人と一緒にどこに行きたいかを話し合った。

「あるさん、とりあえず向こうに付いたらお昼ご飯を食べましょうね」

「はい」

間もなく二人は飛行機に乗り込んだ。都内の空港から約一時間ほど。
あっと言う間に着いてしまう。
着陸態勢に入った飛行機に有人はドキドキした。
無事滑走路に降り立つ。

「わあ、すごい」

「楽しいですよね」

隼人は何度か北海道に遊びにきているらしい。
一人で来てはグルメを楽しんでるのだそうだ。

「あるさん、お腹の調子は?」

「ぺこぺこです」

「いいですね。では行きましょうか」

二人は空港内にあるラーメン屋へと向かった。隼人のお気に入りの店があるらしい。

「ここ、すごく美味しいんです」

「へえ」

二人が店内に入ると威勢よく出迎えられる。有人はそれにびくっとなりながらも席に着いた。

「あるさん、ソフトクリームも美味しいですからあとで食べましょうね」

「はい」

有人は緊張しているらしい。
初めて来た場所だ、無理もなかった。

「あるさんは旅行って」

「あんまりしたことがなくて」

それならばこの旅行は絶対に楽しいものにしたいと隼人は思った。
有人がいい思い出になったと思ってくれたらそれだけで嬉しい。

「あるさん、今日はまったり食べ歩きをして観光地へは明日向かいましょうね」

そう提案すると有人もほっとしたように笑ってくれた。
そんなことをしているうちにラーメンが届く。もちろん餃子も忘れない。

バターとコーンが載った味噌ラーメンだ。

「わあ、美味そう」

有人が歓声を上げている。

「いただきます」

二人はラーメンを啜り始めた。

「んー、美味いです。隼人さん。こんなに美味しい味噌ラーメン初めて食べました」

「ですよね。私もここに来た時そう思いました」

餃子も食べてみる。

「わあ、餃子も美味い」

「あるさんがいっぱい食べてくれると嬉しくなりますねえ」

「俺も隼人さんが食べているのを見ると嬉しくなります」

二人は笑い合った。完食して二人でご馳走様を言う。

「お土産いっぱい売ってるんですね」

「はい。明日帰りに買いましょうか」

「そうですね」

長期休みをもらった隼人だったが、全て旅行に振ることはしなかった。
家の設備の見直しがしたかったからだ。
雨どいが壊れかけているのでちゃんと直したいと思っている。
他に、店の手入れにも時間を割きたかった。
それに有人も忙しい。休めても二日が限界だった。

「あるさん、あのお店ですよ」

甘い香りがここまで漂ってくる。
有人が顔を輝かせた。
ソフトクリームを買って一口頬張ると甘さと冷たさが同時にやって来る。
濃い甘さに有人はびっくりした。

「美味しい」

「ですよね?これ大好きなんです」

やっと腹心地が収まって、二人は駅に向かった。
これからホテルに向かう。

「あるさん、ホテルに入る前に食べるものを買いましょうか」

北海道にしかない有名なコンビニがある。
二人はそこで買い物をしてホテルにチェックインした。

「はあ、楽しかった」

有人が椅子に座ってほっと息をついている。

「あるさん、今日は疲れましたよね。よく休んで明日に備えましょう」

「俺、少し寝ます」

まだ夕方の5時だが有人はくたびれていた。
慣れていない飛行機の移動が効いたらしい。
有人は軽くシャワーを浴びて着替えるとベッドにもぐりこんだ。

「あ・・・」

ふと気が付くと辺りは暗くなっている。隼人もまたベッドで寝ころんでいる。

「あるさん、起きましたか?」

「す、すみません。俺寝ちゃって」

「私もさっきまで寝ていました。やっぱり疲れって溜まるんですね」

リフレッシュするために休んでいるのだ。こうして眠った方がいいのは明らかだった。

「あるさん、一緒に寝ませんか?」

「はい」

有人は隼人と同じベッドに入った。
ぎゅうと隼人に優しく抱きしめられるとホッとする。
有人はまたやって来た睡魔に勝てなかった。
自分はやっぱり疲れている、そう感じた。

再び目を覚ますと外が明かるかった。時計を見ると朝の五時だ。
隼人はよく眠っている。
綺麗な唇を見てどきりとしてしまう。
いつも自分に優しい言葉を掛けてくれる唇だ。

有人は彼の唇に自分のを重ねた。

「隼人さん、好きです」

そう呟いたら突然恥ずかしくなる。
だがまぎれもない本心だった。

しばらくして隼人はやっと目が覚めたらしい。

「ん、あるさん。お腹が空きましたね」

隼人の言うとおりだった。
昨日は夕飯も食べずにそのまま眠ってしまった。

二人は昨日買ったおにぎりを食べることにした。
お茶も飲む。

「ああ、美味しい。生きてるって感じしますね」

「はい」

隼人が一口おにぎりを頬張る。そんななんでもない姿が愛おしくてたまらなかった。

「隼人さん、あの」

「あるさん?」

「俺達、ちゃんとしてないですよね?」

有人ははっきり言葉に出来ないでいた。だが隼人には伝わったらしい。

「食べてもいいんでしょうか?」

その言葉に有人は真っ赤になりながら頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...