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お祝い

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駅に着いて改札を出ると、駅の出口で隼人さんが待っていてくれた。背の高い彼は遠くからでもすごく目立つ。
しかもかっこいいから尚更だ。
俺は彼に駆け寄った。

「隼人さん!お待たせしました」

「あるさん、会えて良かったです」

隼人さんにぎゅうと抱き締められる。
俺も彼の背中に腕を回した。
あぁ、隼人さんの匂い、落ち着く。
なんだろう、香水かな。レモンみたいな匂い。

彼を見上げたらにっこり微笑まれた。

「あるさんにまた会えて嬉しいです。
今日はお祝いしたくて」

「お祝い…ですか?」

「はい。あるさんが予選を頑張られたのでお祝いです」

「嬉しいです」

行きましょうか、と隼人さんに手を繋がれた。
指、細くて長いな。
隼人さんに連れて来られた場所は喫茶店だった。でも明かりは点いていない。
どうするんだろう、と思っていたら隼人さんは鍵を取り出した。

「ここ、隼人さんのお家なんですか?」

「はい。お世話になってる方に貸してもらっているんです」

「へえ」

店の奥が居住スペースになっているようだ。
中に入ると、座り心地の良さそうなソファが置いてあった。

「あるさん、こちらです」

呼ばれてそちらに向かうと、台所があった。
こぢんまりと食卓スペースがある。

その奥にも部屋があるようだ。
もしかして隼人さんの寝室かな?隼人さんの寝室か、どんな部屋なんだろう?
気になる。

「今日はお祝いご飯を作りました」

「え?」
 
座るように言われて、俺は床に座った。
ローテーブルにはカセットコンロが置いてある。
隼人さんが大きな土鍋を持ってくる。
それはクツクツ音を立てていた。
いい匂いだ。なんのお鍋かな?
俺のお腹が鳴る。そうだった、昼飯も食べないで寝ちゃったからな。

「あるさんは、お肉お好きですか?」

「大好きです」

隼人さんは嬉しそうに笑って、鍋の蓋を開けてくれた。
お肉が沢山入ってる!
肉団子もだ。嬉しい。どうやら寄せ鍋らしい。
寒い季節にぴったりの料理だ。
今は一人で鍋をする人も増えてきているみたいだけど、俺みたいに料理をしない人は鍋なんてなかなか食べられない。

「すごい」

隼人さんがご飯を盛って俺の前に置いてくれた。

「おかわり沢山ありますからね!」

「わ、わあ。いただきます」

俺は一口肉団子に噛り付いてみた。
熱い。でも美味しい。
はふはふってなるよな。

「すごく美味しいです!」

「ふふ、ゆっくり食べてくださいね」

隼人さんも食べ始めた。

「わ、意外とスープ上手くいってましたね」

「はい。美味しいです」

鍋には肉以外に沢山の具材が入っている。
もやし、白菜、きのこ、油揚げ、豆腐だ。
美味しい。すごく美味しい。

俺はこれでもかと食べた。
ご飯もまた進むんだよなあ。
お肉がいい感じだ。

ご飯は三杯おかわりした。

「いっぱい食べる人、私大好きです」

にこにこしながら隼人さんが言う。
え、そうなのか?俺、食べすぎかなあ。

「しめはうどんにしますか?雑炊もできますよ」

「わあ、どっちも美味しそう」

「おにぎりも食べますか?」

美味そう。食べたいな。

「あ、じゃあしめはうどんでおにぎりも」

「了解しました」

うどんもおにぎりも最高に美味かった。
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