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ギン

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「ぜぇー、ぜぇー」

荒く呼吸をしているのは、ユミルではない。ユミルが担いできた魚人族の少年である。恐怖のあまり、体が震えてしまっている。

「もー、ユミル様ってば全力疾走するなんて。
君、大丈夫?お名前は?」

「す…すまない」

少年はしばらく呼吸を整えていた。
そして思い切り立ち上がった。

「お兄さん、本当に俺に協力してくれるの?
騎士さんなら強いし、安心だよ!!」

「まぁまぁ落ち着いて」

リヴァが彼を再び座らせ、お茶を飲ませている。ユミルは静かに彼に語りかけた。

「あぁ。私は、君の話に興味がある。是非詳しく教えてもらいたい」

少年はこくり、と頷く。
彼の名前はギンというようだった。

「俺達家族は、確かに島に住んでいないよ。でも父さんは向こうで働いているから全然島の状況がわからないわけじゃないんだ。でも、あのパーティーの日から父さんからの連絡が途絶えちゃって…」

「だから君は警察に動いてもらいたかったんだね?」

ユミルの言葉にギンは肩を落とす。

「トリトン陛下を撃った犯人なんか本当は知らないんだ。嘘をついてごめんなさい」

ユミルは彼の頭を撫でた。
嘘をついたのはやむにやまれぬ事情があったからだ。


「でも、ここから魚人族の住む島まで行くには渦潮を超えていかなければならない。君はどうするつもりだったんだ?」

ギンは笑う。

「俺、船を作るのは得意なんだ!」

「え…船を作る??」

今まで黙って聞いていたリヴァが声を上げる。
ユミルは引き出しから自分の船の設計図と鉛筆を彼に差し出した。

「この船を改造、というのは可能だろうか?」

ギンが設計図を見つめながら何かを書き込んでいる。
そして頷いた。

「お兄さん、いい船に乗ってるね! これならニ、三日もあれば改造できる」

「え…!そんなに早く?!」

リヴァが驚くのも無理はない。ギンはどう見ても普通の少年なのだから。

「俺、道具を取ってくるよ!
あとここに泊まっていいか母さんに聞いてくる!」

ユミルの返事も待たず、ギンは走って行ってしまった。

「本気なんだ。あの子」

リヴァが呟く。

「父君がそれだけ心配なんだろうな。島で何かが起こっているのは間違いない」

「ま、それならそれで仕方ないかー」

リヴァが伸びをしながら言う。

「じゃ、俺も訓練行きますんで!」

「あぁ」

ギンの家は宿舎からそこまで離れていなかったらしい。彼はすぐ戻ってきた。

「お兄さんも手伝ってくれるの?」

「あぁ。そのつもりだ。改造には資材が必要だろう?」

「そうなんだよ。よかった」

ギンがホッとしたように笑う。
二人は宿舎を出て、宿舎の敷地内にある林に向かった。
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